
グールドは、自分の
衝撃のデビュー作で取り上げたバッハのゴールドベルク変奏曲を、自分の最後の録音でも取り上げ、録音し直しました。もうこの事自体がドラマチックというか、因縁めいたものを感じますが、こういう小説的な読み解きはちょっとハズカシイというか、あまり音楽には関係ないですね(^^;)。
このCDがリリースされた時、音楽誌はこぞってこの作品を取り上げました。でも、学生時代の僕はそういうのが嫌いな人間だった。ほら、ローリングストーンズが新作を出したり、有名な歌舞伎役者が新作を披露したり、名の売れた人が何かをやると、いいとか悪いとかじゃなくって、大きく取り上げられるじゃないですか。取り上げられるだけならまだしも、大体絶賛される。こういうのが「あの大御所の新作が悪いわけがない」みたいな判断不能状態に批評家が陥っているみたいで、大嫌いだったんですよね。そういう反感と、「50にもなって、ピアノ最高峰のクラシックなんてろくに演奏出来たもんじゃないだろう」という憶測があって、発売当時、僕はこのCDを買わなかった。しかし…失敗でした(^^;)。。グールドを持ち上げる回りの環境は商売っ気満々の嫌な世界だったけど、グールド本人はそんな低俗なもんじゃなかったのでした。
グールドさんは、あまり同じ曲を録音し直したりしない人です(あんまり好きじゃないと言いつつ、グールドさんのCDかなり持ってます^^)。でも、なんで大絶賛された曲を再録音したのか。グールドさんが自分の死期を悟っていたかどうかは分かりませんが、デビュー時と死ぬ直前とで、自分が音楽的にどれぐらい成長したのかというのを確かめたかったという事かも知れません。大センセーショナルとなった55年録音盤が故に固定されてしまったグールドさんのパブリックイメージを壊したいという事もあったかも。そしてこの盤、もちろん曲によるんですが、基本的にすごくゆったりと演奏しています。ああ、この方が実際のゴールドベルク本来の着想にあってるんでしょうね。録音も新しいだけあって、グールドさんのタッチが潰れてしまっていずに綺麗。ダイナミクスとアーティキュレーションに関しては…グールドさんというのは、変人扱いされてますが実際には相当に知的な人で、演奏に入るより前に、メッチャクチャ入念に解釈を考えていると思うんですよ。ただ、演奏に入るとまるでチャーリーパーカーというか、頭で考えるんじゃなくって感じたままで演奏しちゃうんじゃないかと。ジャズマンみたいに演奏しながら「ア~アア~」とか歌っちゃってますしね(^^)。。複雑な対位法を構築的に表現する頭脳と同時に、演奏に対しては本能を優先してたんじゃないかという気がします。グールドの速度感や表現の背景には、こういう普通ではない所があるのかも。リアルタイムなグールド世代でない僕には、大センセーションとなった55年ゴールドベルクよりも、この81年録音ゴールドベルクの方が好きだなあ。
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グールドのトリルとかはピアノなのに単音楽器?と思ってしまうほど精度が高いですね。