
こっちは
「アンヌ今昔物語」の20年前の1997年にアンヌ…じゃなかったひし美さんが書いた本です。いや、ウルトラセブン好きな僕としては「ひし美ゆり子」さんじゃなくて「菱見百合子」さんだな( ̄ー ̄)。「アンヌ今昔物語」が、タレントがサラッと書いたライトエッセイ的な感じだったのに対し、こっちはかなりちゃんと作られた本。文体も立派に校正がはいっていて(「アンヌ今昔」は、素のひし見さんの話し言葉というか、です・ます調とだ・である調がごちゃまぜとか、色々あります^^;)、文字数や写真もこっちの方が圧倒的に多いです。
内容は、ウルトラセブンを含む菱見さんの出演映画・テレビの回想録と、ウルトラセブン出演者&制作関係者の思い出話。出演作回想録はウルトラセブンにいちばんページが割かれていて、セブンは各話ごとに書かれています。
本全体としては、あの時代の女優という職業の事や、映画やテレビの世界の空気感が伝わってきて、すごく面白かったです。菱見さんという女優と、当時のエンターテイメント産業の空気感。菱見さん、真面目に作品に打ち込むタイプではなく、時間が来るとタイムカードを押して帰るような仕事感覚で女優業を捉えていたなんて書かれていますが、当時の映画役者の多くは映画会社所属だったわけですし、菱見さんに限らず、多かれ少なかれみんなそういう感じだったのでしょうね。当時のプロ野球選手も、試合が終わると酒や麻雀ばかりだったといいますし。終わると毎日のようにスタッフや役者仲間と飲み歩いた事。流されるようにヌードや汚れ役もこなしていった事。当時のゴールデン街の様子、女優をやめてバーを経営して、店が跳ねてから客と一緒に中華屋に行く…当時の俳優の人生の典型が、ありのまま書かれているようでした。
でも菱見さんは、新劇やアングラ劇団から這い上がった女優ではなくて、オーディションで目をつけられて東宝に入った女優との事なので、俳優としては恵まれたスタートだったんではないでしょうか。そうなれたのは、それだけ周囲の目をひく何かを持っていたのでしょう。自分を飾らず、けっこう赤裸々に本音が伝わってくる本でしたが、そういう本を読んでなお僕は菱見さんに魅力を感じました。なにか、芝居の上手下手とか容姿ではないところにある菱見さんの魅力があるのかも。
それってなんなのでしょうね。僕は物心ついた時にはもうウルトラセブンもダンもアンヌも知ってました。それは強烈な印象で、ダンは恰好よかったし、アンヌは…不思議な印象でした。正直にいえば、物語序盤は微妙、髪も猿みたいだったりバサバサだったり(^^;)。僕の中でアンヌの印象が間違いなく良くなったのは、「セブン暗殺計画」からでした。さらに、「ノンマルトの使者」あたりのウィッグをつけたあたりになると、人間像に魅かれるようになっただけでなく「美人だな」とも思うようになってました(^^;)。声は酒焼けしたかのようにちょっとハスキー、姿はブスにも美人にも見える。育ちが悪いようにもすれていないようにも、大人にも幼くも見えて、つかみどころがない女優。芝居がうまいという役者力でなく、何にでもなれるという役者力があるのかも知れません。この本を読む限り、彼女自体が実際にそういう人なのかも。
すごいなと思うのは…僕は「ダーティー・ハリ―」という映画が大好きですが、仮に主役のイーストウッドがマックイーンに差し替わったとしても、すんなりうけいれられる気がするんですよね。ウルトラセブンでも、主役のダンは、森次浩司さんと阿知波信介さん(ソガ隊員役です)が入れ替わっても受け入れられそうです。でも、
「セブン暗殺計画」や「史上最大の侵略」のアンヌにハマる女優は、他のどの女優でも代役がききそうにありません。あの21歳の時の菱見百合子さん以外にありえないです。それってなんなのか…そこが、役者の経験もなく、美人でもないのに、映画産業全盛期の東宝のオーディションに出て人の目をひきつけた菱見という女優の不思議な魅力なのかも。
というわけで、「アンヌ今昔物語」より、もっと素のひし美ゆり子像に迫った本だと思います。
カラーテレビの登場で映画産業がすたれていく時代を生きた女優の物語として、とても面白く読めた本でした。(^^)。
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ところで職場から車で10分くらいのところに、「ジョリー・シャポー(森次浩二の店)」があるんですが、「ゲスト:アンヌ隊員」ってないんですよね。生で見たいな~。