
地歌筝曲で人間国宝となった菊原初子さんのCDです。書籍『
音楽の原理』によれば、
地歌と筝曲って元々は別の物だったけど、非常に接近したために今ではひとつにくくられる事が多いんだそうです。でも地歌って元々は三味線ですよね?どこで箏と合流したんだろ…というのは、このCDで何となく自分なりに理解できました…あってるかどうかは知りません(^^;)。
筝曲と言えば、無知な僕にとっては生田流と山田流ですが、菊原さんは「野川流三弦古生田流菊原家4代目」という肩書も持ってるので、生田流ということになるのかな…すみません、これも分からないです。。
ジャケット写真からして、僕は菊原初子さんという方は箏奏者だとばかり思ってたんですが、箏と三弦の両方を弾き語りしていました。しかもむしろ三弦を弾き語りしている曲の方が多いし。あ~なるほど、なんで箏を使い筝曲と三弦を使う地歌が一緒なんだと思ってましたが、両方演奏するからなのかな…。
音楽。全5曲すべてが歌い物で、編成は三曲合奏(箏、三味線、尺八の合奏)が3曲(うち1曲は三弦が2竿)、箏が1曲、三弦2竿が1曲でした。
最初に聴いたときの印象は、
音だけで言うとデュナーミクや表現が狭く、一方で作品も演奏も緻密。子供のころに
バッハを聴いたときに似たような事を感じましたが、そういう意味で言うとファーストインプレッションは面白くない音楽かも。ところが何度も聴いて詩やアンサンブルや何となく理解できるようになってくると、えらく美しくも面白くも感じるものになってくるから不思議。だいたい、芸妓が出家して過去を振り返る歌とか、面白くないわけがないですよね。。
「
ゆき」は三曲合奏で、1781~1800年ぐらいに出来た曲だそうで…すげえ。いや~表現力に富む尺八とメカニカルな箏と三線のアンサンブルが良いです!詞も面白くて、
出家した芸妓が過去を思い出す詩歌。書き出せば10行ほどの詞ですが、まったく無駄な無くて見事。若いころに成就できなかった恋の心理描写がまた素晴らしくて、それをふり返って浮かぶ言葉「捨てた浮世の山かづら」がもう…。
「
浮舟」は組曲(「
箏組歌」というらしいです)で、6曲を連ねたもの。作曲は三橋検校弥之一(1690?~1760)で、「源氏物語」に出てくる女のひとり浮舟を主題にした歌でした。音楽部分は変化しているようには感じられず(とはいえ、終盤でゆるくクレッシェンド)、詞が変わっていました。中には「伊勢物語」から引用された一節もあるんだとか。
「
出口の柳」も江戸時代に書かれた曲で、宇治加賀掾作詞、杵屋長五郎作曲。室町から戦国時代に活躍した絵師・土佐光信の娘・遠山を歌ったもの。
遊郭に身を沈められ、想い人の狩野元信と未来を誓い合うが、その夢がかなう前に死んでしまいます。思い捨てがたく亡霊となって戻ってきて、元信の妻に頼んで7日間だけ嫁入りをするが…いやあ、すごすぎるだろ。。音楽も序盤は本調子で、途中から二上りになるのがカッコいいっす。。
「
金五郎」は三弦を二竿つかった歌でした。元禄時代に実在した歌舞伎役者・金屋金五郎と遊女・小さんの物語。小さんに見受け話が持ち上がるが、金五郎と小さんの関係がバレて破談に。金五郎は小さんのもとに通い詰めるが病弱のために死んでしまい、小さんは自殺しようとするが止められて出家。あ~江戸時代の浄瑠璃によくあるパターンですね…こういうのって「三下り半太夫もの」っていうそうです。
「
八千代獅子」はもともとは尺八の曲で、のちに胡弓や三弦にも移された超有名曲だそうです。本当は初段が手事から始まるそうですが、このCDは初段を省略していきなり歌から始まってました。途中は三曲合奏の完全に器楽、ここは本文なのかなと思いました。
菊原初子さんは父から引き継いだ琴友会を主宰した人で、祖父と父から野川流三味線組曲全曲を伝授され、これが国宝級なんでしょうね。だって、菊原さんが後進に伝授したり楽譜化しなかったら、そこで途絶えてしまってもおかしくなかった伝統ですから。ちなみに
三味線組曲は筝曲・地歌のルーツになった安土桃山時代に生まれた音楽。
三味線音楽には語り物と歌い物がありますが、歌いもののルーツが三味線組曲なんだそうで(これも『音楽の原理』からの引用)、素晴らしいものを聴くことが出来ました。しかし物語が深すぎる…。浄瑠璃や琵琶や尺八は好きだけど筝曲・地歌系の音楽は正直言って苦手でしたが、これは実に良かったです!
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