
シェーンベルクのオペラ「
モーゼとアロン」のアナリーゼが載っている数少ない日本の本です。新ウィーン楽派を形成するシェーンベルク、
ベルク、
ヴェーベルン作品の解説が掲載。これって
恐らく、昔出されていた『名曲解説全集』を作曲家別にまとめ直しただけですよね…大手出版社って商売上手だなあ(^^;)。ちなみに、「モーゼとアロン」の解説は16ページにわたる立派なもので、具体的な音列の提示もしてありました。解説は批評家の上野晃さん…それはちょっと違うんじゃないかと思う所もありましたが、そんなのはアナリーゼやってればいくらでも出てくるものだし、あくまで誤差の範囲。見事なアナリーゼでした。
このシリーズのいいところは、楽式や技法や和声分析といった簡単なアナリーゼにまで踏み込んだ解説がけっこうある事です。ほら、CDの解説だと、「そんな事は聴けばわかるよ」というぐらい単純な楽式の解説しかなかったりすることも結構あるじゃないですか。あれよりかなり踏み込んでます。作曲家さんが担当した解説もけっこうありますしね。
音楽って馴れてくると「これは音列技法っぽいな」「これは4度積みの並行和音だな」「これは多調っぽい」「これは単純フーガ」みたいに、聴いてなんとなく判断がつくようになっていったりするじゃないですか。でも、自分があまり馴染んでない種類の音楽となると、音や音楽自体に感動しても、そのアナリーゼをどうやってしていっていいか分からなかったりしませんか?僕は若い頃、オネゲルのとある曲を聴いて、「これって半音階?基音を定めた無調?」と大いに迷って、自分で一生懸命アナリーゼしてみたけどわけわからなかった事があります。ところが、ある作曲家さんが言った「多調」の一言で、スルスルと紐がほどけるように謎が解決。さっき少し書きましたが、結局アナリーゼって自分が感動した部分を中心に始める事が多いと思うんですよね。感動したから「どうやったの?」と調べたいわけですし。だから、注目点が違うのは当たり前のことで、他人のアナリーゼはあくまで目安。その目安がありがたいのであって、目安になってくれたらそれ以上はどうこう言うものじゃないと思うし、その先が欲しいならあとは自分だと思うんですよね。
そして、
新ウィーン楽派のアナリーゼの何が有難いって、やっぱりなかなか学ぶことのできない音列技法の具体的な作品を解題できること。探してみると分かりますが、たとえば音列技法の手引書って、異様に少ないと思いませんか?シェーンベルクの書いた
『作曲の基礎技法』だって音列技法の本じゃないですし。
概論書にのっている「音列技法には逆行と反行と…」ぐらいの理論で作曲しろと言われたって、いい曲を書くのは難しいと思います。やっぱり名作をいくつもアナリーゼしてからですよね。その実施訓練をできるのが素晴らしいです(^^)。
僕は、このシリーズだとドビュッシーも持っていますが、それも素晴らしいです。なんてったって印象派和声の解題ですから(^^)。また、このシリーズの元になった『名曲解説全集』も、近現代のいくつかは持っています。これも素晴らしいです。クラシックを聴き始めてしばらく経ったら、この本のシリーズはぜひ手元に置いておくといいんじゃないかと。スコアを見ながらアナリーゼして聴けるようになるまでは、とても有益な本だと思います!