1968年に映画化、間違いなく戦後に作られたアメリカ映画ベスト10に入るだろう大名作の小説版です。僕、映画『2001年宇宙の旅』は本当にすごいと思ったんですが、意味不明な事があまりに多かったもんで、原作者が書いた小説版を読みたいとずっと思っていました。ハヤカワ文庫で出ている事は知っていましたしね。そして最近古本屋でようやく出会い(しかも「決定版」とか書いてあるし^^;)、30年越しぐらいでついに読みました!なんでも、小説と映画の関係は、原作でもなければノベライズでもなく、純粋に同時進行で制作されたそうです。それも、キューブリック監督が原作に口を出したり、アーサー・C・クラークが映画に口を出したりしながら進んだそうです。
原作者のアーサー・C・クラーク自身が「小説と映画は違う」みたいなことを言っていましたが、
実際に読んだ感想としては、映画と小説はかなり近いと感じました。もちろんメディアが違うんだからまったく同じにはなりようがないですが、そういう誤差を計算に入れれば、もうほとんど同じと言っていいんじゃないかと。そして、小説の方が、読者にはやや親切に書かれていると感じました。
小説を読んでわかりやすくなった事。まずは最初の猿人のシーンの意味です。これは映画を観ていてもなんとなくわかりますが、要するに宇宙における人間とは何かがテーマなんでしょうね。だから人類創世から描く必要があるし、またそれに対置される宇宙規模のものがそれ以前からいたという描写が必要なんだな、みたいな。というわけで、僕が子供のころは、友人のお兄さんが「あの猿のシーンは要らねえ」と豪語していましたが(それも分かりますが)、もしそうしていたら意味合いは変わってくるんだろうな、なんて思いました。それを確信できたのは小説を読んで良かったところのひとつでした。
次に、
あの黒い幾何学的な形状をした物体「モノリス」の説明が、映画より細かいです。ここ20年ほどで、アレの名前が「モノリス」という事はやたら有名になりましたが、映画にはその名すら出てきませんし、僕が子供のころにあれを「モノリス」と呼んだ友人もいませんでした。その名称も、一体あれが何を目的にしたものだろうかという推測も、小説に書かれていました。300万年前(ちなみに人間の誕生は20万年前)、何者かによってモノリスのひとつが月の裏側に「意図的に」埋められ、それが掘り返されるとモノリスは木星に向かって電波(?)を発するように設計されました。つまり、地球にそこまで知性を発する存在が生まれたら、それを木製方面に知らせる通信塔、というわけです。これは映画でも部分的に語られていましたが、小説だとかなり細かく書かれていました。というか、小説版、描写が細かくてメッチャ面白いです。
一方、小説版を読んでもよく分からない所。実は、映画でよく分からなかった終盤は、小説を読んでも解明できませんでした(^^;)。映画の終盤って、宇宙空間を光が流れて、ほとんどイメージショットだけみたいな時間が多くなって、白い部屋に辿り着いたもののそれが何だかよく分からず…と、えらく抽象的になってしまったじゃないですか。あれは小説版も同じ。小説版にも白い部屋が出てきましたが(「歓待」という章)、それが何であるかはぼかされていました。ネットで「小説版にはあれが何かはっきり書いてある」なんて書いている人を何人か見た事がありますが、そんな事はないんじゃないかな…。映画終盤の謎が分かると期待してここまで読んでくれた皆様、スマヌス。
それでも漠然としたイメージみたいなものは色々書かれているので、そこから色々推測する事は出来そうです…というか、いろいろ推測するしかないっす。
まず、この文庫版の序文にアーサー・C・クラークが書いた言葉「
彼は、この宇宙で人間が占める位置をテーマにした映画を考えていた」(p.8) が実に的確にこの物語を示していると思います。ここでいう彼とはキューブリックの事ですが、これが映画の主題なんでしょうね。
そして、この小説の終盤は、ボーマン船長がほとんど人とは思えない視点から宇宙を眺めるに至ります。「ここにいるデヴィッド・ボーマンが存在をやめても、別のボーマンが不死を勝ち得るのだ」(p.304)、「時の流れはますますのろくなり、停止の時が近づいた(中略)その業火のまっただなかに浮かぶからっぽの部屋で、赤んぼうが目をひらき、産声をあげた」(p.305)、「世界はいまや彼の意のままだが、さて何をするかとなると、決心がつかないのだった。だが、そのうち思いつくだろう」(p.310、これが最後の文章)、といった具合です。
というわけで、宇宙的な時間規模から人間を捉え直したうえで、宇宙のなかにあって人間とは何かを考える目を開こうぜベイビー、ぐらいな所が大テーマのSF小説なのかも知れません。こんなんでいいんだったら誰でも書けそうな感想ですね、すみません(^^;)>。
そうそう、この小説を読んでいて、
テーマ以上に心を惹かれたのが、その描写の細かさでした。月に行く宇宙船の搭乗手続きとか、未来の通信機器とか、とにかく描写が細かくて「宇宙に行ける時代に生まれていたら、こういう体験も出来たのかもなぁ」な~んて思ったりして、もうワクワクでした。あと50年遅く生まれていたら、そんな体験もできたかも知れませんね。