
というわけで、聴けども聴けども
キース・ジャレットの音楽が面白いとは感じられなかった僕ですが(でもそれって、僕が聴いてきたアルバムに限って言えば、好き嫌いとは別に正当な評価だと思います…)、僕にとってのキース・ジャレットの評価が180度ひっくりかえり、猛烈に感動したアルバムがあります。それがこれ、2014年のライブ録音、キース・ジャレットのピアノ独奏を集めたCDです。録音は東京、トロント、ローマ、パリの4か所。たしか
これが最後の来日公演だったんですよね。
恐らくどの曲も即興演奏なんでしょうが、音楽が見事でした。側だけ言えば、即興と言ってもアヴァンギャルドではなく強く調性を感じるもので、
ジャズを感じる演奏は少なく、むしろ4度進行…というか、もっと露骨に言えばバロック(ヘンデルとかの華やかな方じゃなくて、宗教音楽時代のバッハ的な重厚な方向)を感じました。でもそういうことじゃなくて、こういう
シリアスな音楽に真摯に向かっている人間性に惹かれるというか。
特に良いと感じたのは1曲目と4曲目。入りのモチーフがよかったのが6、7曲。1曲目なんてコードプレスがほとんどなのに、これだけで感動してしまうって何なんだろう…バロック時代の宗教曲のような荘厳さを感じたとか、何か音楽の背景にあるものを感じさせられたのかも知れません。
あと、ピアノの音…
会場の響きや録音も含めて、音が素晴らしくて感動しました。場所も録音エンジニアも違うのに、こんなに音に統一感が出るものなんですね。もしかしてベーゼンドルファーのインペリアル指定のコンサートだったのかな?あれ、でも紀尾井ホールってスタンウェイだったよな。オーチャードでは曲が始まった途端に咳してるお客さんが…ホールにコンサートを観に行くときは、ぜったいにのど飴を持っていくようにしましょう。これでけっこう耐えられますよ(^^;)。。
みんなすばらしい音でしたが、なかでもトロントのロイ・トムソン・ホールというところの音がヤバいほどの素晴らしさ。パリはちょっとあったかい感じ。これってミックスで機械リヴァーブを付加した音に聴こえるので、昔のクラシック録音みたいな純然たるホールの音ではないんでしょうが、だとしたらミキシングで音をここまで揃えても、ピアノの個体差って残るものなんですね。音数が少ない演奏だけに、ピアノのサウンドが音楽の優劣を決めているといってよいほど、ピアノのコンディションと録音が重要なアルバムかも。
この録音の時に
キース・ジャレットは70歳。さすがに速く強い演奏は出来ず、ゆったり嚙みしるような演奏しか出来ませんでしたが、それが若い頃に指を動かすだけの演奏の何十倍も素晴らしい、本当に素晴らしい。。音楽って頭と心と技術だと痛感させられました、指じゃない。
このCDで最大に感動した音について。これ、レコーディング・エンジニアはマーティン・ピアソンという人で、ヤン・エリック・コングスハウクじゃなかったです。ECM っぽい透明感ある音でしたが、でもあの加工された変な音ではないです。キース・ジャレットのECM録音ではこのエンジニアさんの名前をよく見かけますが、キースさん指定のエンジニアなのかも知れません。