そんなこのアルバム、僕的には3つほど際立った特徴を感じました。ひとつはパーカッションの演奏の凄さ、ひとつは純音楽としての素晴らしさ、もうひとつはヒスパニックとしてのアイデンティティです。 まずは打楽器奏者としてのティト・プエンテの演奏技術にフォーカスされている点について。1曲目「Dance Of The Headhunters」の打楽器チームの演奏の凄さなんてちょっと言葉が出ないレベルだし、管アンサンブルのヘッドが終わったらひたすらすさまじいティンバレス演奏が続く4曲目「The Ceremony Of Tambo」なんて、ほとんどティンバレス協奏曲です。そもそも、ティンバレスという楽器をあそこまで凄い楽器だと知らしめたのって、ティト・プエンテですよね、多分。その極めつけという演奏をこれでもかと聴くことが出来て、僕はもう思い残すことはありません(^^)。
ふたつ目は、ダンス音楽から離れ、純音楽としてのカッコよさを追求した曲の多さ。3&6曲目「Rumba Timbales」「Cuero Pelao」なんてもうほとんど実験音楽ですし、2曲目「Call Of The Jungle Birds」や10曲目「Witch Doctor's Nightmare」は、まるで60年代のニュージャズ的な先鋭的なイメージで、その妖しくもアグレッシヴな曲想に私は思いっきりやられてしまいました。このクラシックなジャケットに騙されちゃいけません、音楽はめっちゃ先鋭なんですよ!!
3つ目は、その純音楽の方向性。ヒスパニックという自分のアイデンティティを追っているのか、中米独自の音楽というものを生み出そうとしているように聴こえました。M2「Call Of The Jungle Birds」、M7「Jungle Horiday」、M12「Voodoo Dance At Midnight」なんて、音楽自体が素晴らしいんですが、タイトルだけを見ても中南米やアマゾンを意識しているようにしか思えないです。「Voodoo Dance At Midnight」なんて、これがブードゥー教の祭祀音楽だと言われたら信じてしまいそうなぐらいの怪しさと狂乱ぶりのある音楽でしたが、僕が実際に聴いたブードゥーの音楽って、ぜんぜん違うんですよね。。ジャングル・ビートって言葉があるじゃないですか。あと、昔ブログで「エキゾティカ」なんていうジャンルの音楽を紹介したことがあったじゃないですか。あんな感じで、実際にそういう音楽があったにせよなかったにせよ、そういう「ヒスパニック的」「中米的」なものを生み出そうと意欲を強く感じました。日本って、簡単に「日本とは」という所を手放すじゃないですか。でもラテン・アメリカ系の人は、ここを常に意識するというか。
1970年録音(71年リリース)、作編曲家/バンドネオン奏者のアストル・ピアソラのスタジオ・アルバムです。A面がキンテート、B面がバンドネオン独奏、B面ラスト「Recuerdos de Bohemia」(ボヘミアンの思い出)がバンドネオン四重奏でした。僕が買ったのは日本盤で、これにはバンドネオン多重録音とバンドネオン二重奏のボーナストラック3曲が入っていました。
面白かったのは3曲入っていたキンテート演奏の曲。「五重奏のためのコンチェルト Concierto para Quinteto」は、バンドネオンとオケが掛け合いになるコンチェルトではなく、バロック・コンチェルトのようにプレーヤーそれぞれに見せ場があるコンチェルトでした。僕はピアソラ五重奏団ではエレキ・ギターだけは要らないと思ってますが(音がオケに混じらない^^;)、ここでトリを務めたカチョ・ティラオのギターの速弾きは素晴らしかったです。これ、楽譜通りに弾くの大変だったんじゃないかなあ。
作編曲だけでなく演奏も素晴らしくて、間違いなく良い音楽だと思いました。ただ、いかんせん古いピアソラのレコードは録音が悪くて、そこで凄く損をしてると感じてしまいました。僕、レコードを楽しむためだけに聴いているわけじゃなくて、どこかで音楽の勉強をしているつもりで聴いているフシがあるんです。自分の作曲や演奏に反映させようと思ってい聴いている、みたいな。そういう意味で言うと、このアルバムで良かった3曲はスコアやある程度整った模範演奏が欲しいのであって、そうなるとこのアルバムはお役御免かも。だって、「五重奏のためのコンチェルト」は、このブログのアルバム紹介第1号『Tango: Zero Hour』に演奏も録音も素晴らしいものが収録されていましたし、四季シリーズは『レジーナ劇場のアストル・ピアソラ1970』にほぼ同じメンバーで4曲すべてを演奏していましたし。
1970年リリース(録音は1968~69年)、オルケスタ編成のピアソラのアルバムです。オルケスタといってもグランド・オーケストラがついているわけではなく、バンドネオン、ヴァイオリン×2,ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート or サックス、ピアノ、エレキギターといった編成でした。面白いのは木管楽器が入った曲があるところで、これで南米のポピュラー音楽というか、ジャズやブラジル音楽のような匂いが足されたように感じました。
でも、このスコアって、演奏や録音次第ではそう聴こえずに済んだ可能性もあるのかな、な~んて考えたりもして。なぜこれが芸術音楽ではなくプログレに聴こえるかというと、ひとつには20世紀後半に入ってなお、まだ長調か短調でしか曲を書かないからというのはありますが、それ以上に、デュナーミクやタッチの部分での演奏表現が薄く、チマチマと書き込んだ音符の縦線をただ揃えて演奏しているように聴こえたから。でも、もしかするとそれって録音でそう聴こえてしまっているだけで、本当はもっと表現力のある演奏をしていたのかもしれない…なーんて思わなくもなかったんですよね。なにせいつものようにオンマイクべったりで録音した後に、ただ楽器を横一列に並べただけみたいなミックスになっているから、デュナーミクもアンサンブルも死んでしまった音になっていて、そんな風に聴こえてしまうのかな、と思ってみたり。それぞれの楽器がカノン状に同じフレーズを変奏して追いかけていく「Fuga Y Misterio」なんて、録音や演奏次第ではもっと音楽的に豊かに鳴らせた気もするんですよね…。