やっぱり録音が素直で、よく言えば自宅録音独特の良さはあるかも知れません。「Every time we say goodbye」や「Everything happens to me」といったナンバーをリラックスしたムードで演奏してるので、こういうのはECM っぽい冷たいサウンドよりも宅録の方が雰囲気はいいかも。 でも、本当にスタンダードナンバーを素直に演奏しただけなので、なんというか…普通でした。これ、「昨日寄ったジャズバーで弾いてた若手の日本人ピアニストだよ」と言われても、僕は信じてしまうなあ。同じスタンダードをやるんでも、リヴァーサイド時代のビル・エヴァンスみたいにゾクッと来るリリシズムを感じるとか、ラン・ブレイクみたいに独特の和声やアプローチを作り出すとか、そういう何かがないと、今さらスタンダードをそのまま演奏したピアノ・アルバムを聴かされてもな、と感じてしまいました。
曲はミディアムからスローのナンバーが大半で、長調か短調の既存曲で普通。アレンジも独特なリハーモニゼーションが加えられているわけでも何かの挑戦をしているわけでもありませんでした。演奏も残念で、アドリブに斬新なアプローチがあるわけでも、表現力の高い叙情的なピアノ演奏が聴けるわけでもなく、歌わない平坦な演奏。 例えば…冒頭に大名曲「For all we know」を演奏してましたが、テーマメロの「We will never meet again」の部分をタッチやデュナーミクを変化させるでもなく8分音符でスクエアに演奏したりしてる…これじゃ音楽が歌うはずもない、ビル・エヴァンスどころかダニー・ハサウェイにすらとうてい及ばないっす。なんで弾けるピアニストが、こんなダメ演奏をリリースしちゃうのか僕には理解できなかったです。
1曲目「Death and the Flower」はラテン…というよりアフリカン・パーカッション的なサウンドの上でフルートが怪しげな即興をする出だし。これは面白いかも、色彩感もムードも表現もなかなかいいぞ…と思ったのも束の間、5分ほどたってキース・ジャレットが出てくると、リズムがインテンポになってロクリアンでパラパラと演奏…悪い意味でのモードかフュージョンでした(^^;)。 以降、B面1曲目「Prayer」はインパルスよりECMに似合いそうなジャズ・バラード、2曲目「Great Bird」も楽譜の上に書いたような音楽。残念ながら僕にはちょっと合わない音楽でした。