
ハードロックの中で、自分の食いつきが悪かったのが、ブラック・サバスというバンドです。このバンド、デビューした頃と、80年代以降ではかなり感触が違います。80年代以降に関しては次の記事で書こうと思います。これは、最初の頃のアルバムです。
ブラック・サバスって、黒魔術とか暗いとか重いとか、若い頃の自分が興味を持って良さそうなキーワードがいっぱいありました。しかし聞いてみると、嫌いではないんですが、心を動かされるということが無かったんです。理由はたぶん、ヴォーカルとバンドがうまくないこと。コンセプトばかりが先行している感じです。ヴォーカルはオジー・オズボーンという人なんですが、「伝説の」みたいな事を書かれていたのでワクワクしていたんですが、声は出てないし、音痴だし、じゃ表現力があるかというとそれもないし、なぜこれが良いと言われているのかが分かりませんでした。バンドも同じで、ヘタという事はないんですが、光るものを感じることはできませんでした。ロックに期待してしまうダイナミクスが、演奏技術ゆえに表現できない感じ。
最初に聴いたのは2枚目の
『PARANOID』というアルバムで、ここには「アイアン・マン」という有名な曲が入っていました。しかし、良いと思えたのはその曲ぐらい。次が、すごく高く評価されていた1枚目
『BLACK SABBATH』。雰囲気は良いのですが、やっぱりコンセプトばかりが先行している感じ。恐怖映画のサントラとロックを混ぜようとしているみたいなんですが、完成まで持って行けてない感じです。次に聞いたのが、音楽の雑誌に最高傑作と書かれていた
『MASTER OF REALITY』というアルバム。これはあまりにつまらなすぎて(あくまで個人の感想です^^;名盤と言っている評論家さんが何人もいるので、私には何か聞くコツが分かっていないのでしょう)、持っているのも嫌で、売ってしまいました。もうこの辺で、初期のブラック・サバスを聴くのはやめていました。このアルバムを聴いたのは、ずっと後の事です。ふとしたきっかけでこのアルバムを聴くことになったのですが…これが素晴らしい!!奇跡の1枚、これで私の最初の頃のブラック・サバスに対する評価が180度変わりました。私はよりにもよって、当たりだけを避けていたわけです(^^;ゞ
こんな事を思っています。ブッラク・サバスというバンドは、ギタリストのトニー・アイオミという人にすべてがかかっているんじゃないかと。チームプレイのビートルズやツェッペリンとは違うのです。作曲も、アルバムのコンセプト作りも、バンドの演奏も、すべてアイオミさん任せ。そして、アイオミという人は、努力家なんじゃないかと思います。最初は決してうまいとは言えなかった演奏や作曲が、アルバムを重ねるごとに磨かれていくのです。このアルバムにくると演奏がアイデアに追いつきます。曲も非常に素晴らしい構造の曲になっています。そして、その構造を作り上げているのは、ほとんどギター1本です。和声もメロディも、あるいは複雑なシンコペーションも、それを表現しているのはバンドではなく、全てギターといって過言ではありません。アルバムも曲が並べてあるというのではなく、明らかにこれ1枚でひとつの作品です。なんか古楽のギターみたいな音色で演奏されるインストゥルメンタルが挟まったりするのですが、これなんかはバロック以前のヨーロッパを想像せずにはいられません。そして、ヘヴィーな曲とその印象が関連付けられて、どちらの世界にもなかった新しい何かが湧き上がってくるような感じです。
人の感じ方はそれぞれですが、私の感想でいえば、最初の頃のブラック・サバスでは、このアルバムが大推薦です(^^;)。ずば抜けてクオリティが高いのです。更にこのアルバムは、以降に出てくるヘヴィー・メタルという音楽の方向性すら決めた作品なんじゃないかと邪推しています。。