
フリージャズの大名盤のひとつです。ジョン・コルトレーンが、このアルバムのアルバート・アイラーのようにサックスを吹きたいと語ったのは有名な話で、そのぐらいに神憑りな演奏です。
今聞くと、アルバート・アイラーというのは、ソウル・ミュージックな人なんだと思います。要するに、音楽を歌わせたい人。その手法のベースとするに、彼にとって手っ取り早かったのがフリーという事だけだった気がします。もし彼の得意がジャズだったらジャズのフォーマットでも良かったんでしょうし、ソウル・ミュージックだったらそれはそれでよかったんじゃないかという気がします。だから、アイラーの音楽って、60年代のフリージャズにしては、何か攻撃的なイメージは弱いし、音楽そのものに対する追及みたいな色もそんなに強く感じません。ところが…このアルバム、アイラーの代表作みたいに言われているものなのですが、同時にアイラーの中ではかなり異質な部類に入るのではないかと思います。非常にアグレッシブで、歌よりも熱気みたいなものが優先されていて、いい意味でも悪い意味でも実にフリージャズ的なのです。それどころか、フリージャズの代表作のひとつになっているほどのところまで行ってしまっています。その要因のひとつは、ゲイリー・ピーコックとサニー・マレイという共演者の存在だったのではないかという気がします。このリズムセクションが、呪術的というか、いい意味で重いんです。ドラムも、ジャズ的に変幻自在にオカズを入れてくるという感じじゃなくって、「ドンドンドンドン…」みたいな感じで、聴いているとなんか朦朧としてくるような感じというか。ベースもこれに同調している感じ。そして、サックスはそのうえで憑かれたかのように過熱していくという感じです。もう、考えてすらいないんじゃないかという感じで、考えるより先に音が出てくる感じ。こういう境地って、ひとりの演奏家でも何度も体験できるものではないんじゃないかと思います。アイラーの場合、この作品がその瞬間だったんじゃないかと。
ジャズのガイド本でフリージャズの推薦盤っていうと、オーネット・コールマンの『ジャズ来たるべきもの』とか、コルトレーンの『アセンション』みたいなところが取り上げられる事が多いと思うんですが、あれって、本当に面白いと思って推薦しているんですかね?もしかして、フリージャズをたいして好きでもないジャズのライターが、有名だからといってとりあげているだけなんじゃないかと疑っています。もし私が音楽評論家なら、フリージャズの推薦盤を書けと言われたら…間違いなくこのアルバムは推薦盤のひとつに入れると思います。それぐらいに、熱い演奏なのです!
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