
夭折した天才ジャズ・サクソフォニストの
エリック・ドルフィー。これは1963年7月1 日と3日に録音された音源から作られた、ふたつのアルバムです。生前にドルフィーは4作のスタジオ録音のリーダー・アルバムを残しましたが、『Conversations』はその最後のもの。そして、『Conversations』が生前に発表された最後のリーダー・アルバムでもあったんですよね。そして、このレコーディング・セッションを用意したのは、
アラン・ダグラス…って、
ジミヘンのプロデューサやないかい!60年代初期はジャズも手掛けていたんですね!
バンドは
最大4管となるコンボ編成と、ドルフィーの独奏またはベースのリチャード・デイヴィスとのデュオという小編成のもののミックスでした。
コンボの特徴のひとつと感じたのは、ピアノがおらず、かわりにボビー・ハッチャーソンのヴィブラフォンが入っている事。ドルフィーって、62年に自分のバンドを作るべく
コルトレーン・バンドを抜けましたが、それで最初に組んだ和声楽器のパートナーって、ピアノのハービー・ハンコックだったんですよね。このセッションのコンボ演奏を聴いて思うのは、和声楽器が60年代前半のジャズの最前線に追いつけていない事。どういう方向に進めるのかは人それぞれですが、
ジミー・ジュフリー・トリオのようなフランス4度に行くにせよ、
ハンコックやマッコイ・タイナーのようなモード方面を進めるにせよ、ラン・ブレイクみたいな独自路線を行くにせよ、どのルートに対しても、このセッションは和声がジャズ最前線に追いつけてないな、みたいな。これ、もしハンコックがマイルス・デイヴィスのバンドの正式メンバーになっていなかったら、このセッションってもう少し前に進んだ音楽になっていたんじゃないかと思うんですよね。その方向がドルフィーの音楽の傾向にあっていたかどうかはまた別ですが、そこはちょっと残念でした。
選曲面でも、「ん?」と思ってしまうところがありました。生前に発表された『カンバセイションズ』で言えば、サイドA収録の2曲は、ドルフィーがそのアドリブ演奏の中で明らかに志向しているものと違う方向を向いた曲に聴こえてしまいました。だって、ドルフィーの素晴らしさってアドリブ演奏にかなりの部分が要約されていて、そのアドリブってドルフィーなりのリハーモニゼーションがベースになっているわけじゃないですか。で、そういうリハモとはかけ離れた曲想のものが演奏されてるんです。1曲目はファッツ・ウァーラ―が書いたあの爽やかな曲「ジターバグ・ワルツ」ですし、2曲目なんてカリプソみたいな能天気な曲なんですよ…。半音階に跳躍フレーズ、そして減5度を含むホールトーンまで駆使する人が、リーダー・アルバムで選ぶべき曲に思えないんですよね…。

ところが、
ドルフィーが志向していただろう音楽をそのままリアライズできた曲なんじゃないかと思えるほど素晴らしい曲が入っていたのも、このセッションでした。変な言い方になりますが、ドルフィーのソロや、これ以降に録音されたドルフィーの音楽から察して、恐らく「ドルフィーが狙っていた音楽ってこのへんだったのでは?」というものだけ拾って聴くと、素晴らしいセッションなんですよ!
コンボ作品で言うと、アルバム『Iron Man』に入っていた「Irom Man」は見事!!もう、ドルフィーのアドリブで行われたフレージングやハーモニゼーションがそのまま曲になったような曲です。ドルフィーが生前に発表したスタジオ録音に収録されたオリジナル曲で、いちばんドルフィーの志向に近い曲ってこれじゃないでしょうか?!
同じことが、「Mandrake」と「Burning Spear」にも言えると思います。この3曲ってすべてドルフィー作曲で、しかも生前発表のアルバム『Conversations』からはすべて外されましたが、そんな公約数的なリスナーの傾向なんて考えないで、ミュージシャンが思うところの最善をぶつけた方がいいと思うなあ…。ちなみに「Mandrake」って、僕の大愛聴盤『Last Date』にも違うタイトル(「The Madrig Speaks, The Panther Walks」)で入っていました。ミシャ・メンゲルベルクのトリオが演奏したあれがまたカッコいい…あ、この話はアルバム
『Last Date』の所で書いていますので、興味ある方は是非(^^)。
そして、コンボ以外の音楽は、ドルフィーのアドリブの個人技や、デュオでのインタープレイの濃密さがあって、当た別の素晴らしい魅力がありました。
無伴奏アルト・サックス「Love Me」は神がかりのアドリブ!アドリブといったってフリーに演奏するわけではなくて、やっぱり楽曲のリハーモニゼーションを前提にしたアドリブなので、ニュージャズ的な匂いの施されたチャーリー・パーカーのような演奏なんですよね。いやあ、これは凄いです。。
そしてリチャード・デイヴィスとのデュオ「Alone Together」は、曲だけでなく共演者に対して呼応する紛うきインタープレイ。その内省的なやり取りと密度と言ったら、見事としか言いようがありませんでした。こういうインタープレイってジャズの人はうまくない人が多くて、むしろフリー・インプロヴィゼーションの人の方がうまい人が多い印象を僕は持っていますが、ドルフィーはフリー・インプロヴィゼーションに進んだとしても超一流だったんだろうなあ。。あ、そうそう、ふたりのデュオでは、「Come Sunday」の演奏も見事でした。
というわけで、律儀に生前に発表されたアルバム『カンバセイションズ』のサイドAから聴きはじめると、ちょっと理解するのに時間がかかる録音セッションかも…いやいや、それは『Last Date』やミンガスでのコンボのドルフィーが好きな僕の傾向であって、ブッカ・リトルとの双頭バンドや、ジョン・コルトレーン『OLE』あたりのドルフィーが好きな人だと、そんな事はないのかも知れませんが。。あくまであのアブストラクトで、超高速で、ある意味グロテスクですらあるドルフィーが好きという僕みたいな人なら、まずはアルバム『アイアン・マン』を先に聴いて、次に『カンバセイションズ』のB面、という順で聴き進めたら、かなりドツボになる音楽ではないかと思います…主観だらけの殴り書きでスマヌス。。