空前絶後、これ以上のロック・バンドは、後にも先にも登場する事はないんじゃないか。それほどの衝撃を覚えたのが、1972年から1974年の間のキングクリムゾンというロックバンドです。この期間に発表されたスタジオ録音のアルバムは3枚。ロックを好きであろうがなかろうが、音楽を好きだというのであれば、この3枚を聞き逃してしまってはあまりに勿体ない!そのぐらいに素晴らしい音楽です。
キング・クリムゾンというと、「21世紀の精神異常者」というナンバーの入ったデビュー作
『クリムゾンキングの宮殿』 があまりに有名です。これもものすごい作品なのですが、この『太陽と戦慄』から続く驚異の3作品のクオリティは、それを遥かに凌駕するほどの域に達しています。脅威というか、ちょっと異次元です。『クリムゾンキングの宮殿』が、プロのスタジオ・ミュージシャンが丁寧に作り上げたスタジオ作業の作曲作品という感じであるのに対し、『太陽と戦慄』以降の3作品は、それと同等もしくはそれ以上の見事な作曲に、圧倒的な演奏が加わります。
更に、キング・クリムゾンの良さのベースには、「何をやるのか」という、コンセプトにもあると思います。なんというか、現代の音楽状況が見えている感じなんですよね。ロックにしてもポップスにしても、あるいはジャズやクラシックですら、今の西洋音楽が作曲の基礎にしているのは、3和音をベースとした長調と短調の2調での作曲技法が圧倒的です。これが恐ろしいほどの金太郎アメ状態で、新作が出ても、また同じような音楽。
しかし、20世紀の西洋の作曲界とメインテーマは、そういう道筋を歩んでいないんですよね。長調と短調でどういう曲を作るか、というのではなくって、作曲というものの原理を根本から見直して、それ以外の作曲技法を発見したり、発掘したり、生みだしたりしました。これらの技法が長調と短調の2調に劣るという事は全然なくって、素晴らしい曲も書かれました。ところが…こういう本流を使いこなせる作曲家がいない。72年以降のキング・クリムゾンは、この西洋作曲界の現在の本質の上に立った、数少ない(もしかすると、ロックバンドでは唯一かも?)バンドだと思います。
こういう視点に立つことが出来ている時点で、バンドは様々な技法を選択する事が可能となっています。もう、ここで既に他の音楽よりも優位に立っているわけです。もちろん、長調や短調も選択可能。しかし、クリムゾンが選んだ選択は…ヤバい方向のサウンド、時間軸的にはストレートだが関係構造は複雑であるという構造の音楽なのでした(^^)。これが格好いい!!そして、難しくなってしまってもおかしくないこういった選択をしておきながら、驚異の演奏で一気に押し切ってしまいます!!
白眉は、アルバム冒頭とラストを挟み込む「 Larks' Tongues in Aspic」。直訳すれば「ひばりの舌入りゼリー」でしょうか。いずれもインストゥルメンタルなんですが、背景にあるものの深さが、同時代のポップスやロックと比べて桁違いです。ミニマル、モード、フリー・インプロヴィゼーションの技法…。書きたいことはいっぱいあるんですが、この音楽、体験してみないと分からないと思います。最後にひとこと…すげえ!!
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