
タイトルがあまりにゾンザイすぎてどういうCDだか全然わかりませんが(^^;)、薩摩琵琶系の琵琶奏者・田中之雄さんのCDという事でいいと思います。田中之雄さんは、伝統的な音楽だけでなく、武満徹「ノヴェンバー・ステップス」などでも琵琶を弾いていた薩摩琵琶の左派・鶴田錦史さんの直弟子です。
このCDには曲が3曲入っていましたが、3曲のバランスがすごく良かったです。
1曲目「笛と琵琶のための『行』」はインストで、現代の作曲。これが実に幽玄で、押し引きが素晴らしかったです!曲は、調などは古典的ですが、既存の手の組み合わせだけではないオリジナリティがあって、それでいて安易なモダン化ではなく笛や琵琶のあの幽玄さと「ベベ~ン」とくるアイデンティティはしっかり残している、みたいな。
演奏も、笛も琵琶も見事すぎました。まずはイントロの鯉沼廣行さんの笛が見事…笛って、僕は純邦楽の中では雅楽や能でしか聴いてきませんでしたが、実際には普通に民間でも演奏してたんでしょうね。田中之雄さんの琵琶も深みがあって、テクニカルな割に薄っぺらい現代の方楽器奏者とは雲泥の差のサウンドでした。フォルテの時の強さ、ルバートのところでの泣くような高弦のヴィブラートなど、実に琵琶で素晴らしかったです。
2曲目「湖水乗切」は琵琶で一番オーソドックスなフォーマットの弾き語り。詞が源平合戦ではなく、明智光秀の重臣の物語というところが渋かったです。日本の琵琶の弾き語りを聴いていていつも思うのは、どれも音楽は全部同じで、テキストだけ違うんじゃないかという事。これは、浪曲の前弾きなんかにも同じようなものを感じます。フラメンコや古いブルースにも同じことを感じますが、日本の語り物はそれ以上。この曲、永田錦心作曲、葛生桂雨作詩の現代曲ということですが、こういう手の組み合わせを並べ替えただけのものを新作というのはどうなんでしょうね…。
3曲目「山紫水明」は、前の2曲に比べると現代曲風というか、新たな描き下ろしじゃないかと思いました。琵琶・琵琶・尺八という編成。尺八と琵琶の相性の良さといったらないと思うんですが、特にこの曲でのキーは2台目の琵琶。ずっと弦をこすって、アンビエントのようなドローンのような効果を出し続けます。これがモードのように機能して、点画的な世界になりがちな尺八や琵琶の音楽が、和声音楽のように聞こえてきます。で、重い間を縫って尺八が「ブウォオオオン…」、琵琶が「ズビャアアアン…」。。これは格好いい!そしてインテンポでの尺八のメロディが出てきて…もうこの構造自体が西洋音楽的だと思いました、新しい!ただこれ、思うに尺八と一部の琵琶だけが書き譜で、あとはアドリブという意外とシンプルな曲なんだろうな。。古典とモダン、日本と西洋のハイブリッドな音楽で良かったです(^^)。。
田中之雄さんって、鶴田錦史さんや上原まりさんとともに、琵琶系のオムニバスCDには絶対に入っている人なので、代表的な琵琶奏者なんでしょうね。まあ、鶴田錦史さんの愛弟子だそうですし、鶴田流の重鎮なんでしょうし、映画やドラマなどの劇伴もよくやったそうなので、レコード会社とのつながりも強いのでしょうね。僕は田中さんの歌がどうしても好きになれないんですが、インストとなると絶品。琵琶の演奏は日本トップクラスじゃないでしょうか。そしてこのCD、残念なことに今では入手困難のようです。内容はすごく良かったので、見つけたら即買いかと!
(*2023年6月 追記)
ビクター音産製の3曲入りのこのCDですが、権利関係がどうなってるのか分かりませんが、他のオムニバスCDでも聴けることが分かってしまいました、しかも恐らく同じ録音…。
「湖水乗切」「山紫水明」
…『琵琶 古典芸能ベスト・セレクション』(公益財団法人日本伝統文化振興財団)収録
「笛と琵琶のための『行』」
…『琵琶』(財団法人ビクター伝統文化振興財団)収録
僕はこの2つのオムニバスCDを手持ちにしてしまったので、このCDを持っている意味がなくなってしまいました。。とはいえ、オリジナルはこのCDの方なんでしょうが、デジタル・マスターみたいなので、音質差はないですよね、きっと。。