
ジャズの中で、最も興味がなかったのが、ビッグバンド。僕はモダンジャズからジャズに入ったという事もあり、やっぱりソロイストの壮絶なプレイとか、アーティスティックな音楽性とか、ジャズのそういう所に魅かれていたのです。しかし、ビッグバンドというと、トゥッティで「ババッバッババ~」みたいな感じで、えらくご陽気なエンターテイメントという感じで好きでなかったのです。同じジャズでも、モダンジャズの持っている美観とは全然違う音楽、そう思っていました。で、この感想はあながち外れでもない。
ではモダンジャズの個人技的なアドリブプレイが最高かというと、そちらに走れば走るほど、音楽のうちの曲という素晴らしさというものが消えて行ってしまう。派手で華麗なプレイを追っていくと、どんどんフリージャズ方面に行ってしまうのですが、そうなるとフォルムが消えてしまう。で、フォルムを追うと、今度はクラシック系の現代音楽をあさる事になって、そちらはフォルムの制約が厳しすぎて、演奏の迫力が奪われてしまうものが多い。で、フリージャズと現代音楽を交互に聴く、みたいになってしまったのですが、もちろん望むべくは、その両方が共存した音楽です。で、出会ったのが、このCD。見事にアレンジされた全体構造の中で、ソロイストもドラムも縦横無尽に暴れまわります。サウンドもご陽気なジャズ・ビッグバンドのイメージとは全然違い、テンション入りまくり、モードもありまくりで、モダンジャズの先鋭的なサウンドの最前線という感じ。カッコよすぎます!!よく考えてみたら、ギル・エヴァンス自体がモダンジャズの理論的中心のひとりだったのですから、彼のサウンドがモダンであるのは当たり前ですね。。僕が抱いていたビッグバンドのイメージが、根底から覆される衝撃的な作品でした。
1曲目「ラ・ネバダ」の疾走感がハンパではありません。もう、スモールコンボと見紛うばかりで、ビッグバンドのドッカンドッカンくる感じではなくて、タイトでスパンスパンくる疾走感。で、ソロをスケールや和声で縛りすぎずに泳がせるから、各ソロイストの疾走感がハンパでない。こうなると大概は構造が失われていくもんなんですが、ここでモダン・ビッグバンドの本領発揮!音楽をグイグイ作りあげていきます。この曲を聴くと、爽快感と、モダンなサウンドの格好良さと、ほんの少しのアーティスティックな探求と、こういうものに魅せられて、いつも感激してしまいます。2曲目「フラミンゴ」も見事。スロー曲なんですが、これも実に素晴らしい構造、素晴らしいサウンド!そして脅威的なのは5曲目「SUNKEN TREASURE」。…よくぞこんな和声を、こんなアレンジを作り出したものです。芸術的な感動を覚えてしまい、背筋がゾワッと来てしまった事を覚えています。
ビッグバンドの中にも、モダン・ビッグバンドという区分けがある事を、この作品を通して初めて知りました。で、大名盤扱いのこのCDですが、ジャズ好きの友人の中でも、意外と聞いている人が少なかったです。理由は、僕と同じなんじゃないでしょうか。しかし、これほどの音楽を、聞き逃してはあまりに勿体ない。商業音楽一辺倒に傾いていく中で、音楽家が芸術的探究を続けた先に辿り着いた、本当に見事な音楽と思います。。
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