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心に残った音楽♪

おすすめCDの紹介のほか、本や映画の感想などを (*^ー゜)v

 

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2013年に聴いたアルバム 独断と偏見のベスト44!(後編)

*この記事は2023年1月に書いたものですが、2013年に聴いたり観たりしたもののベスト・セレクトなので、2013年末に移動させていただきました。

 2023年の正月から2013年ベストをやらせていただいて恐縮ですが、今日は後編となる20位から1位までを一気に書き出していこうと思います。良い音楽を探していらっしゃる方などの、何かの参考になりましたら!

第20位~11位
AlbanBergCollection.jpg第20位:『ベルク:アルバン・ベルク・コレクション Alban Berg Collection
8枚組ボックスセットを選ぶのは卑怯と思い20位にしたが、この中の何枚かは1位レベルの凄い音楽と演奏と録音

第19位:『Pink Floyd / A SAUCERFUL OF SECRETS
ピンク・フロイドのスタジオ盤ではずば抜けた完成度と創造力

CecilTaylor_nailed.jpg第18位:『CECIL TAYLOR: the quartet / NAILED
エヴァン・パーカー生涯きっての快演!もちろんセシル・テイラーもすげえ

第17位:『Lightnin' Hopkins / The Complete ALADDIN Recordings
アコースティック・ギター弾き語り世界最強はブルースだと思わされた。最初に聴いた時は何度聴き返した事か

第16位:『マルタ・アルゲリッチ / デビュー・リサイタル
それまでは優雅でクソつまらないと思っていたクラシックの演奏が、他ジャンルの演奏家では足元にも及ばないほどの爆発力だと初めて知った想い出のレコード

Nono_LaLontananza_arditti.jpg第15位:『ノーノ:未来のユートピア的ノスタルジー的遠方 アーヴィン・アルディッティ(vln) 他
詳細は元記事に書いたが、こういうシアトリカルな作品は本当は会場で聴きたい…が、録音だけでもすごすぎて悶絶

第14位:『マルタン:小協奏交響曲、ヴァイオリン協奏曲、他 アンセルメ指揮、スイス・ロマンド響 他
クラシックは近代と現代の狭間が最高ですよ奥さん
GilEvans_OutofCool.jpg
第13位:『THE GIL EVANS ORCHESTRA / OUT OF THE COOL
ビッグバンド・ジャズはつまらないとコンボしか聴かないジャズ・ファンにぜひお勧めしたい!

第12位:『ストラヴィンスキー:春の祭典、ペトルーシュカ ヤンソンス指揮、オスロ―響
録音の勝利。一流指揮者と一流オケを凌ぐ春祭があるんですよ知ってました?

AMM Live in Allentown USA第11位:『AMM / Live in Allentown USA
構造美に優れるフェルドマンを通過した前衛的即興演奏だと信じて疑わない

第10位~3位
 昔から色んな音楽を聴くタイプではありましたが、歳をとるとその中で中心に聴くものが出てきたことも確か。どうしても普遍的なテーマを扱ったものが上位になってしまうもので、10位以上でロックやポップスを選ぶことが出来ませんでした。スマヌス。

GeorgeRussell_JazzinthSpaceAge.jpg第10位:『GEORGE RUSSELL and his Orchestra / JAZZ IN THE SPACE AGE
先鋭的な楽式にサウンドにアンサンブル、見事なスコア。こういう音楽を聴くとジャズってもっとちゃんと作編曲すればもっと素晴らしい音楽になったんだろうなと思う

第9位:『ノーノ:力と光の波のように ケーゲル指揮、ライプツィヒ放送交響楽団
僕にとっての前衛三羽烏ファーストコンタクト。まさに衝撃、完全にぶっ飛びました

EricDolphy_OtherAspects.jpg第8位:『Eric Dolphy / OTHER ASPECTS
曲と演奏が一体。このフルートのラインをアナリーゼ出来たら大したものというレベルの芸術音楽

第7位:『ベルク:室内協奏曲、ヴァイオリン協奏曲 アイザック・スターン (vln)
スターンの演奏の凄さもさることながら、それ以上に曲が凄い。新ウィーン楽派恐るべし

第6位:『John Coltrane / LIVE IN JAPAN
何日も朝から晩までこの4枚組CDを聴き続けていた事がある。打ちのめされた
KronosQuartet_BlackAngels.jpg
第5位:『KRONOS QUARTET / BLACK ANGELS
私的アヴァンギャルド初体験。こういう音楽をいくつも聴く事で自分の人生が少しずつ動いていった

第4位:『究極の声絵巻 ~バリ島ボナのケチャ
西洋音楽に毒された自分が民族音楽を聴くきっかけになったかも(でもこれも西洋人が介入した音楽だったりする)

cecil taylor great paris concert第3位~1位
 この3枚は今もよく聴きます。どのアルバムも深くアナリーゼした曲があるほどで、若い頃の僕が芸術音楽に走った理由になった音楽です。もしこういう音楽を知らなかったら、僕は音楽の一面しか知らないまま、偉そうに音楽や文化を語っていたんだろうな、な~んてと思うと冷や汗かきまくりです(^^;)。

第3位:『CECIL TAYLOR / GREAT PARIS CONCERT
Takemitsu_Sakkyokukano.jpg私的セシル・テイラー最高傑作。見事に描かれたスコア・パートがあるのでこれをフリーや即興と言いたくないですが、それでもフリー・ジャズ最高傑作と言ってもいいんじゃないかと思ってます。一定以上の作曲レベルと渾身の演奏、この一体化を実現した現代の稀有な音楽
第2位:『武満徹~作曲家の個展~ '84コンサート・ライヴ

いま聴いても響きがすげえ…和音の魔術は武満さんで知り、今もこれ以上の人になかなか出会わない

第1位:『メシアン: 世の終わりのための四重奏曲 バレンボイム(piano, cond.) 他
Messiaen_Yonoowarino.jpg調の重力を持ったまま機能和声から離れる。室内楽曲最高峰と僕が思っている音楽との出会いは、自分の人生を前半を決めるほどに大きな体験だった

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 ブログを始めた2013年は、6月に書き始めたので記事を半年ほどしか書いてないけど数も多く、また好きな音楽を思い付いたものから一気に書いていったので、この年に取り上げたアルバムはすべて推薦級のお気に入り揃いです。カルトゥーラとかも、しばらく聴いてなくて印象が薄れているもんで選外にしましたが、実際に聴いたら「こんなの一生ものだろ!」とランクインしちゃう気がします(^^;)。
 というわけで、数年前から思っていた「ブログ始めた2013年の年間ベストだけないのが気になる、推薦盤がいっぱいあるのに」問題はこれにて一件落着。というわけで、今年もどうぞよろしくお願いいたします!!
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2013年に聴いたアルバム 独断と偏見のベスト44!(前編)

*この記事は2023年1月に書いたものですが、2013年に聴いたり観たりしたもののベスト・セレクトなので、2013年末に移動させていただきました。

 2023年、明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!
 十数年前、結婚してから初めての引っ越しとなった時に、妻から「出来ればCDやレコードを減らしてもらえない?それだけで家賃が一部屋分多くかかるよ」とぐうの音も出ないお言葉をいただいて始まったこのブログですが、なんと10年以上も続いております。続いているという事は、10年以上かかってまだ持ってるアルバムすら聴き終わってないんですけどね(^^;)。
 そんなこんなで11年目に突入となる2023年ですが、その第一号として2013年に聴いたレコードのベストをやらせていただこうと思います。新年から過去を振り返るのかよ…と思わなくもないですが、2013年だけ年間ベストをやってなかったんです。それがずっと気になってまして、11年目突入となるこのタイミングですっきりしよう、というわけです。私事ですみません。
 というわけで、さっそく行きます。まずは44位から31位まで!

第44位~31位
 ちょっとフラメンコやジャズも混ざってるけど、このあたりは洋の東西問わずロックの雨あられ。若い頃は大いに熱狂した音楽ですし、ここに選んだレコードはいま聴いても「お~やっぱりいなあ」な~んて思ったりします(^^)。

YamasitaTatsuro_forYou.jpg第44位:『山下達郎 / FOR YOU
「FUTARI」のイントロの佐藤博のピアノ、これにシビれた

第43位:『ザ・ゴールデン・カップス / スーパー・ライヴ・セッション
グループサウンズのレベルじゃねえ、日本最初期の実力派ロックバンドですぜ

第42位:『DEEP PURPLE / SHADES OF DEEP PURPLE
DeepPurple_shades.jpgアレンジのレベルが違う、演奏の精度が違う、音楽の深さが違う。ディープパープル最高傑作は『In Rock』でも『Burn』でもなく間違いなくこれ。嘘だと思うなら聴いとくれ

第41位:『燃えよドラゴン オリジナル・サウンドトラック
元気がなくなると僕はオロナミンCを飲みながらこれを聴く(あっという間に復活)

第40位:『矢沢永吉 / E'
yazawa_E.jpg「不良のカリスマ」のレッテルを利用もしただろうけど、それでミュージシャンとしての評価も落とした人だと思う。「Long Distance Call」の作曲能力やべえ

第39位:『THE DOORS
詞、曲、演奏、すべて素晴らし。それ以上にダダイスティックでヤバい魅力が半端なし

第38位:『CREAM / LIVE CREAM
cream_live creamクラプトンが一番下手というとんでもないレベルのバンドは、ライブが極端にすごい(スタジオ・アルバムは嘘みたいにショボい)

第37位:『MC5 / KICK OUT THE JAMS
ロックのえぐい熱狂を知ったライブ。それにしてもこのテンションはすげえ。パンクを聴くならプロトパンクやハードコアが至高

MJQ_SPACE.jpg第36位:『MODERN JAZZ QUARTET / SPACE
近代音楽的質感、室内楽のアンサンブルの妙、これをジャズでやるクールさよ

第35位:『Bill Evans & Jeremy Steig / What's New
ビル・エヴァンス生涯きっての熱演はジェレミー・スタイグのフルートに煽られて生まれた。間違いない

第34位:『ビセンテ・アミーゴ / 魂の窓
ヌエヴォ・フラメンコの馬鹿テク・ギタリストはパコ・デ・ルシア以上の凄腕だったすげえ

JohnLeeHooker_singsBlues.jpg第33位:『John Lee Hooker / sings BLUES
これを聴いたらチェス時代のジョン・リー・フッカーなんて子供だましで聴いてられない。このプリミティブさに圧倒され、はじめて聴いた時からずっと虜です(^^)

第32位:『Jimi Hendrix / Band of Gypsys
「Who Knows」と「Machine Gun」の構成力と冷めた熱気に魅せられた15の夜だった

LedZeppelin3.jpg第31位:『LED ZEPPELIN / Ⅲ
私的ツェッペリン最高傑作。前衛風なサウンドをフォーク・ギターでかき鳴らす「Friends」から「Celebration Day」になだれ込む瞬間にイってしまった

第30位~21位
 このへんになってくるとクラシックが入ってきて、他にもアヴァンギャルドやアウトサイダー・アートもチラホラ。しかし、こんなにたくさん素晴らしい音楽体験をさせてもらえて、音楽と出会えて本当に良かったと思わず思ってしまいました(^^)。音楽バンザイ!

MilesDavis_Plugged.jpg第30位:『Miles Davis / AT PLUGGED NICKEL, CHICAGO

ジャズ・ミュージシャンの即興演奏能力の高さに敬服したアルバム。特にトニー・ウィリアムスがやべえ、神かよ

第29位:『Pink Floyd / Ummagumma
2枚組の1枚目で聴けるライブはピンク・フロイド最高傑作。しかし独創性にしびれた

rebecca_poison.jpg第28位:『レベッカ / POISON
「本当に行くの?あなたの事だからもう決めちゃったんでしょ。止めないけど、寂しくなるね」…「MOON」と「OLIVE」の詞に泣いた。若い時に出会えてよかったバンドでした

第27位:『Bill Evans / Unknown Session
ビル・エヴァンスはスタンダードばかり弾いてないでこういう知的な音楽を創り続けて欲しかった

SleepyJohnEstes_Legend.jpg第26位:『Sleepy John Estes / The Legend of Sleepy John Estes
コントラバスの優しいサウンドに爺さんのしゃがれ声、喋るように響くハーモニカ…レイドバック系ブルース最高峰!

第25位:『KING CRIMSON / THE GREAT DECIEVER -live 1973-1974
「キング・クリムゾンみたいなプログレって、スタジオ録音でオーバーダブしまくらないと無理じゃん」と思っていたらライブの方が凄かった

shostakovich_BabiYar.jpg第24位:『ショスタコーヴィチ:交響曲13番《バビ・ヤール》 ハイティンク指揮・アムステルダム響
ロマン派の時代から抜けかかった時代のクラシックは世紀末感あふれまくって妖しい魅力が半端ない

第23位:『THE VELVET UNDERGROUND / WHITE LIGHT, WHITE HEAT
これって60年代ニューヨークのアウトサイダー・アートの魅力なのだと最近思い始めた

第22位:『R.シュトラウス:変容、死と浄化 カラヤン指揮、ベルリンフィル
保守でつまらないと思っていたクラシックが保守から離れ始めたら、そりゃ世界最高峰のトプアスリート揃いなんだからどえらい音楽になるのは当たり前だよおっかさん
exias_avantGarde.jpg
第21位:『EXIAS-J electric conception / avant-garde
ロックもジャズも前衛も統合した日本の前衛の隠れ大名盤、こんな音楽がある事すら知らなかった

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 若い頃から色んな音楽を聴く方ではあったんですが、歳をとるとその中でも自分の関心が普遍的な題材を扱った音楽の方に集まり始めたのは確かです。音楽にすら拘らなくなってきましたしね。。そんなわけで、44枚をセレクトすると前半にロックやポップスが固まってしまう傾向が出ましたが、わざわざベストとして選んだぐらいだから、どれも超がつくお気に入りなんですよね。
 というわけで、20位から1位までは、また明日!

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『メシアン: 世の終わりのための四重奏曲 バレンボイム(piano, cond.) 他』

Messiaen_Yonoowarino.jpg 子どもの頃、音楽一家に育ったわけじゃなかった僕にとって、音楽家は畏敬の対象でした。野球やサッカーなら誰でも通り一遍は真似できるけど、楽器の演奏って、多少の努力程度ではちょっと真似できない感じがしたのです。音楽は大好きだけど、自分がやるなんてとても無理…そんな感覚だったんです。それが、高校ぐらいになると本気で音大に行きたいと望むようになって、楽理や演奏を必死に学んで、小遣いも全部音楽書やCDに注ぎ込んで。そんな頃に衝撃を受けたのが、フリージャズと現代音楽。こんなに凄い音楽があるのか…驚きの連続でした。驚くだけなら外連味だらけの音楽はいっぱいありますが、こと現代音楽に関しては正真正銘のホンモノと思えるものの宝庫でした。そんな高校生の頃、あまりの素晴らしさに心を奪われ、何十回も聴き、楽譜も買ってきて研究して、そして作曲家であるメシアンの作曲技法を学びたいと思って以降の自分の進路選択にまで影響したのが、このCDでした。

 「世の終わりの為の四重奏曲」…タイトルからしてスゴイですが、クラシックジャーナルという本に連載されていたこの曲のための連載記事によると、直訳は「時の終わりに」ぐらいの感じらしいです。で、これは作曲家であるメシアンが、ナチ政権下のドイツに捕えられて強制収容所にいた時に、その収容所内で他の演奏家と出会い、そこで曲を書いて自作自演したとの事。凄い時代背景、これだけの状況であれば死もあり得るという所からの作曲行為になるでしょうね。。この曲、言葉で表現すれば従来の西洋音楽では想像できないような響き、透明感というか、冷たい感じというか、これがもの凄い。もう少し専門的に言えば、移調の限られた旋法とか、そこから引き出されてくる和声とか、そういうメシアン的な語法で出来てます。これって、かなり厳密にシステム化された技法で、「こういう曲想で音楽を作りたいから、今回はこの語法で行ってみよう」とか、そういうのではなくって、技法自体を作り上げて、そこから音楽を引きだしていました。これこそが本当の作曲なのでしょう。僅かな調的重力をしか伴うことなく転調を繰り返しながら紡がれていく無限旋律的な曲とか…う~ん、「時の終わりに」というタイトルの意味するところが、何となく分かる気がします。

 僕が感銘を受けたのは、まずはそのリクツではなくってサウンドや音響構造に感銘を受けたからでした。メシアンって、リズムまでメソッド化して体系化しているんですが、こういうシステムそれそのものの中から、心を動かされるものを引き出してくるのが物凄くうまい作曲家と思うんです。現代音楽に関して言えば、リクツさえ通っていれば、心が動かされるかどうかなんて問題じゃない、という曲もいっぱいあります。でも、僕にとってはそれは音楽じゃなくって、それでいいんだったら数学を追求した方が面白いと思うんですよね。「構造が素晴らしい」という人だって、その構造がどのように素晴らしいかというのを判断するときに感情が関わることが無いという事は、ありえないと思うんですよ。そういう意味で、感覚的な素晴らしさと論理的な素晴らしさの同居するメシアンの音楽は極上の音楽で、その中でも、バレンボイム演奏のこの曲は、最高傑作だと思っています!


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『ダミア』

damia.jpg 知名度としてはエディト・ピアフの方が上かとは思うのですが、僕が持っているシャンソンというもののイメージといえば、ダミアです。これもエディット・ピアフのベストと同じように、昔の東芝EMIが発売したベスト盤。相変わらず、ジャケットがダセええ(x_x)。。どうせメーカー所属のデザイナーの仕事なんでしょうが、買う気が失せるほどのダサさです。しかし、やっぱりフランス語の分からない身としては、日本語訳の出ている日本盤に手を出すしか道がなく、泣きそうになりながら買った記憶があります。う~ん、それにしても、物語調で、暗い詩が多いな。これこそ、僕の持っているシャンソンのイメージなんですよね。

 で、ダミアのイメージに決定的となっているのが、聞いた人が絶望して自殺者が絶えなくなり、ラジオ放送が禁止されたといういわくつきの曲「暗い日曜日」。イントロの合唱からして鎮魂歌のような響きです。振られた女性の切ない気持ちを歌った歌なんですが、オケと歌の関係がもの凄い。伴奏の上に歌が乗っかるという形ではないんですよね。どちらかというと歌が優先のルバートで…いやあ、これこそ歌というものではないでしょうか。また2曲目に入っている「人の気も知らないで」という曲がまた素晴らしい。僕がこの曲を聴いたのは淡谷のり子さんの唄が初めだったのですが、ただの面倒くさそうなババアと思っていた人の歌に感動させられたという、僕にとってはいわくつき思い出の歌です。しかし…オリジナルであるダミアの方のアレンジ、歌唱…う~~ん、これは素晴らしい。。やっぱりこれも恋に狂う女性の悲劇的な歌なんですが、なんかすごく心に響くんですよ。詩に関しては言わずもがなですが、歌唱も素晴らしくて、メロディを歌うというより、言葉がメロディを伴っているという感じで、突き刺さる感じがあります。歌を聞いているというより、古いフランス映画を見ているような気分。

 ところで…「シャンソン的」みたいな事を書いてきましたが、シャンソンって、フランス語では「うた」という意味だそうで、フランスにシャンソンというジャンル分けはないそうな。ところが日本にはシャンソンという認識があって、またシャンソン酒場というのが実際にあります。で、そこではシャンソンの定義がかなりキッチリしていて、伴奏の仕事なんかをすると、この日本製シャンソン・ルールというヤツを知っていないと伴奏できなかったりします。まあダミアとは関係ない話ではあるんですが、しかし日本人が持っているところのシャンソンのイメージって馬鹿に出来ないというか、ああいう線引きもアリだと思うんですよね。失恋、自殺、小市民の心情…こういう文学的な文化のなかにある舞台劇のような歌、それが僕にとってのシャンソンのイメージで、そのど真ん中にあるのがダミア、という感じです。




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映画『エディット・ピアフ 愛の讃歌』

EditPiaf_LaVie EnRose 前の記事でとりあげた、シャンソンの代表的歌手であるエディト・ピアフを題材にした映画です。ドキュメンタリーではなく、役者さんが演じてます。で、こういう誰かが誰かを演じた映画って、僕は嫌いなんです。変にドラマチックにしていたり、変にお涙ちょうだいにしていたり、そういうのが嫌なんですよね。また、映画でそれを扱うという事になると、音楽そのものではなく、その人の人生とかを扱う事になるわけじゃないですか。それが凄く嫌だったんです。しかし、この映画は良かった!

 何が良かったかというと、エディト・ピアフが生きていたパリという町の文化背景の描き出しが素晴らしかった!街中に吟遊詩人が生きていて、トルコ系のようなバレル・ドラムのような打楽器を使って音楽をする大道芸人がいて、ナイトクラブで流行歌を歌って稼ぐ少女がいて…いやあ、文化の坩堝です。ドイツのベルリンがどちらかというと純血主義的なイメージがあるのに比べると、フランスのパリというのは民族の交錯、文化の交錯がものすごいというイメージがあります。で、それがなんと2次大戦前でもそうだったという。う~ん、これは、当時のドキュメンタリーフィルムが存在していない今となっては、ドラマ化して再現するしかないですものね。当時の貧困層が着ていた服、当時の青空市場の街並み、当時の街にあふれていた音楽…う~ん、これは時代考証が実に素晴らしい。まずここに感銘を受けまくりでした。

 そして、当時のパリの文化的背景が分かった上でエディット・ピアフの歌を聞くと、またちょっと違う聞こえ方がするんですよね。売春宿で育ち、教育もろくに受けることなく、歌だけを頼りに生きてきた人ですから、痛いところもたくさんあった人なんだと思います。しかし、それが故に情緒的な人というか、すれてはいるんですがストレートというか、そういう意味ではピュアな人なんだろうなと思います。「愛の賛歌」が、ピアフの恋人で、飛行機事故で死んだボクサーのマルセル・セルダンに捧げられた曲だというのは、初めて知りました。…歌とか言葉って、売るものではなくて、根本的にはこういう私的なものだと思うんですよね。
 しかしこの映画、劇場に行ったときはガラガラだったのに、こういうものもDVDやブルーレイになっちゃうのか。う~ん、いい時代になったものですね。



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『エディット・ピアフ』

EdithPiaf_best.jpg ひとつ前の記事で書いたアマリア・ロドリゲスと印象がダブるのが、シャンソンの代表的歌手のひとりである、エディット・ピアフです。僕にとっては、もうこの辺りは西洋の歌音楽を個別に分割する意味があまりなくって、「20世紀初頭のヨーロッパの歌音楽」という感じで括りをつけています(^^)。

 で、ファドのアマリア・ロドリゲスとダブるというのは、その声とか歌い回しとかに滲み出ている、独特のやさぐれた感じなんだと思います。貧しい家庭に育った不良少女的な匂い。しかし、そこはパリ、ポルトガルという場末の斜陽な街ではなく、ヨーロッパの中心といってもいい街です。しかも、色んな国から色んな人が来る、文化の交錯する街。ポピュラー楽団も、結構あったみたいです。そんなわけで、エディット・ピアフの方が、プロ楽団お抱えの歌姫といった感じ。だから、音楽そのものはファドよりもジャズに近い感じです。オケもストリングスが入っていたりで、実に豪華です。で、オリジナルは録音がとにかく古いので、弦楽器の音が古くさいったらないんですが、しかしそれが実にいい!!シャンソン、って感じがするんですよね。で、誰もがそうだと思うんですが、「ラヴィアンローズ」とか「愛の賛歌」なんて、本当に大名曲、大名演、大名唱だと思います。「愛の賛歌」なんて、あのストリングスのイントロ、それが落ちてエディット・ピアフ独特のヴィブラートの利いた歌が始まる瞬間…聴いていて、素晴らしいと思ってしまいます。
 第1次世界大戦が始まる直前までは、ヨーロッパでは大きな戦争はなく、市民も裕福で、永遠に続くのではないかという「ヨーロッパ・コンセンサス」と呼ばれる時代があったそうです。しかし、それは植民地主義という犠牲の上に成り立っている偽りの平和で、ヨーロッパはやがて1次大戦から2次大戦という地獄を味わう事になります。この本当の悪役が誰であったかはさておいて、そこに生きている市民というのは、本当に辛い時期を過ごしたのではないかと思うのです。それは歌にも反映されていて、同じフランスにあるミュゼットという音楽も、とても明るい音楽とは言えない。で、こうした背景の上で、貧困層の不良少女から上り詰めた歌い手であるエディット・ピアフという人の歌う「愛の賛歌」を聴くと…もう、ジ~ンと来ちゃうんです。

 このCDは日本編集のベスト盤。現在デザインで生計を立てている身としては、こんなにダサいジャケットデザインでいいのか?と思ってしまいますが、しかし音楽の特性上、日本語訳のついたCDを手に入れる事をおススメします。昔は、これぐらいしかなかったんですよ。今ならあるのかなあ。輸入物の安い10枚組セットとかも悪くないんですが、日本語訳がないとフランス語が分からん!という点と、大事な曲が収録されてなかったりもするので、この手のベスト盤を買うときは、ちょっと慎重に選んだ方がいいと思います。このCDは、ジャケットのダサさにさえ目をつぶれば、あとはパーフェクトではないかと。





 

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『アマリア・ロドリゲス / ファドの女王』

AmariaRodrigues_QueenOfFado.jpg いやあ、この端正な顔立ち、まるで往年のハリウッド女優のようですが、歌手なんですね。それも、美人に歌を歌わせたというのではなく、ナイトクラブで歌を歌って、実力で這い上がってきた人。ポルトガルの酒場音楽「ファド」の代表的歌手である、アマリア・ロドリゲスです。

 さて、ファドといっても、僕には詳しい事は分かりません。それどころか、僕にとっては、音楽が録音されるようになった20世紀初頭から第2次世界大戦が終わるまでの西洋の歌音楽というのは、みな同じ音楽に聴こえます。ポルトガルのファド、フランスのシャンソン、アメリカのヴォーカル・ジャズ、イタリアのカンツォーネ…もちろん多少の差は感じるんですが、それよりも共通項の方が目につくというか。これらの音楽の中でファドの特徴といえば、ジャズやカンツォーネといった他の歌音楽がプロ楽団が作って大々的に売った商音楽であったのに対し、もう少しフォルクローレに近いというか、酒場で歌い継がれたという所でしょうか。これは、南部イタリアの歌にも共通したものを感じます。ファドに漂うこの悲しげでエキゾチックな部分は、隣接するスペインのフラメンコにも近いものを感じます。酒場音楽というだけあって伴奏の編成もシンプルで、ギターとマンドリン(もしかしたら違うかも?いずれにしても復弦のギター属の楽器です)だけというものが多く、オーケストラやビッグバンドがつくという事はありません。
 そしてアマリア・ロドリゲスの歌声…う~ん、何と言えばいいか、うまいというより、強いというか。語弊を恐れずに言えば、貧困層の持つ独特の匂いというか、そういうものを感じます。で、これがマイナー調の曲の多さとか、シンプルなオケの素朴さと相まって、両大戦で火の海となったヨーロッパ独特の情緒を感じさせます。ハスキーで、哀愁漂う感じで、やっぱりフラメンコ的なものを少し感じるんですよね。これは国別の違いというよりも、ヨーロッパの地中海沿岸沿いの歌文化全てに感じることの出来る特徴かもしれません。教会の聖歌の流れではなくて、船乗りと酒場というものに育まれた歌文化の特徴なのかもしれませんね。海路が結びつける文化の流れというのがあって、大西洋を渡ったアルゼンチンのなんかにも同様の匂いを感じることが出来ます。

 いま、ポピュラー音楽というと、大量生産の商業音楽というものが大半であるという気がします。プロが作曲して、プロ演奏家が伴奏して、プロ歌手なりタレントなりが歌うという感じ。でも、歌というのは、もともとは子守唄であったり遊び歌であったり、プロでない普通の人たちが、洗濯しながら歌ったり、みなで集まって合奏したりして楽しんだりしたものだと思うんですよね。そういう匂いが残っているところに、「売る為」ではなく、本音が出たような良さが滲み出てきているんじゃないかという思います。最後にはプロ歌手の典型となったアマリア・ロドリゲスですが、その声の中に本当の歌を感じる気がします。




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『PINK FLOYD / MEDDLE』

PinkFloyd_Medle.jpg 邦題は「おせっかい」。何というネーミングセンスのなさ(笑)。ピンク・フロイドの何枚目のアルバムなんでしょうか、「神秘」「ウマグマ」よりも後で、「狂気」よりも前、というあたりじゃないかと思うのですが。で、このアルバム、「神秘」や「ウマグマ」ほどではないのですがやっぱり好きで、若い頃は何度もききました。

 単純すぎて恥ずかしいのですが、1曲目の「One of the these days」が、子供の頃に見ていたプロレスの、ブッチャーのテーマ曲として使われていて、メチャクチャ格好いい曲だな、と思って、大好きでした。いやあ、今はどうか知りませんが、昔のプロレスの入場曲って、けっこうセンスある選曲が多かった気がします。ミル・マスカラスの「スカイハイ」とか、ブルーザー・ブロディの「移民の歌」とか、あと新日本プロレスの時期シリーズの選手紹介で掛かっていたジェフ・ベックの「スター・サイクル」とか。そうそう、前田日明も、キャメルか何かの曲を使っていましたね。しかし、ブッチャーのテーマ曲がピンク・フロイドの曲だなんて全然知らずに、初めてこのアルバムを聴いた時に「おおっブッチャーのテーマじゃないか!!」と燃え上がったのは秘密です(*゚∀゚)。このアルバムというとみんな"ECHOES"を絶賛するんですが、本当はブッチャーの曲がいちばん好きなクセに、ブッチャーの曲を褒めるのが照れくさいだけなんじゃないかと思っているのは私だけではないハズ。。

 で、このアルバムでよく言われるのが"ECHOES"という曲。結構長尺な曲なんですが、まったりといつまでも聴いていられる感じの、ちょっとフワフワした曲。アルバムのジャケット写真を音にしたような音楽です。これは好きというより、気持ちいいなあ、と思って何となくいつまでもかけている、という感じでした。で、このエコーズという曲のイメージにつながるのが、ブッチャーのテーマ曲を除いたアルバムのそのほかの曲のすべて。楽器編成とか、多少のアレンジの違いはあるのですが、基本的にイギリスやスコットランドのトラディショナル音楽みたいなんですよね。フォークギターを弾いたりして。考えてみれば、ピンク・フロイドというのはイギリスのバンドなので、音楽的ルーツのひとつがイギリスのトラディショナルであったとしても全然おかしくはないです。これはレッド・ツェッペリンなんかにも同じような事を感じた事があります。で、なんでピンク・フロイドみたいな、非常に挑戦的なバンドが、いきなり原点回帰みたいな事をしたのかというと…もう、「神秘」とか「ウマグマ」の時点で、バンドがなすべき到達点に辿り着いてしまったんじゃないかと。変な話ですが、バンドって生き物みたいなもので、目的に辿り着くまでの間は、目的に辿り着いていないのだから音楽的には不満があるわけですが、目的を達成した途端に、もうモチベーションが維持できなくなっちゃうような気がします(これは私の体験談^^;)。で、ブッチャーの曲を除いたこのアルバムというのは、次に何をすればいいのか、暗中模索だったんじゃないかという気がします。
 しかし、単なるリスナーとしてこれらブリティッシュ・トラッドみたいな曲を聴いた時…ピンク・フロイドとかいう固定観念を抜きにして、いい曲なんですよ。アートとしてのピンク・フロイドではなく、音楽としてのピンク・フロイドのルーツを知ったような気持ちになったものでした。そんなわけで、このアルバムをピンク・フロイドの代表作にあげる人はいないでしょうが、このアルバムが好きという人は結構多いんじゃないかという気がします。僕も、そのひとりです。しかし、一番好きなのはブッチャーの…(以下略)。


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『PINK FLOYD / Ummagumma』

PinkFloyd_Umaguma.jpg 前の記事で書いた、ピンク・フロイド最強のレコードのもうひとつが、これ。「ウマグマ」と発音するみたいです。2枚組で、1枚目がライブ録音。そしてこのライブのパフォーマンスがもの凄い!特に「ユージン、斧を取れ」という曲が、パフォーマンスと曲の両方がもの凄い!

 前の記事でも書きましたが、サイケデリック・ロックというものを、こと音楽的な側面から定義しようとすると、大変に困難な事になると思うのです。サイケデリックの定義自体が、既にサウンド面以外のものを含んでしまっているし、だからそれは当たり前のことだと思うんですが。しかしそれでも、サイケデリックを音で表現して、しかもそれを音のコラージュとか、そういう安易なところで終わらせようとせずに、もっと音楽的なところに置換しようとすれば、このアルバムこそがサイケデリック・ミュージックの最高峰なんじゃないかと個人的には思います。もう、そのぐらいにこのアルバムの1枚目は大好きで、何度聴いたか分かりません。

 僕は、ロックというのは、高校の頃に卒業してしまったんですが、いやいやその意味が分かりますね。それは、ロックが子供の音楽であるというわけではなくって、僕が高校を卒業するぐらいの頃にリアルタイムだったロックというものは、既に子供相手の音楽になっていたり、純粋な表現としての音楽ではなく、商品として製造された音楽であったりというものばかりになっていました。それは、音楽を掘り下げていけば卒業せざるを得ないですよね(悲)。ピンク・フロイドだって、メンバーが40歳になったら、その音楽を40歳なりの大人な音楽にまで発展出来たら、充分に大人の鑑賞に耐える音楽家で居続けられたと思うんですよ。しかし、自分が40になっても50になっても若い音楽をいつまでもやっているから、それは子供の音楽になってしまいますよね。これが返す返すも残念。若い頃はアーティストであったのに、大人になるにつれて職業ミュージシャンになってしまうロック・ミュージシャンというのが多すぎて、個人的にはそれがとても残念に思います。
 いま聴くと、シド・バレット脱退後、「ATOM HEART MOTHER」前までのピンク・フロイドは、純粋に音楽が好きだった若者が、純粋な音楽的理想だけを追求して作り上げた、正真正銘のアートであったんじゃないかと思います。芸術家が大人になった時に芸術を続けるには、社会枠から見た芸術の位置というものを測ることが出来ないと無理なのかな、と思ってしまいます。そうでないと、単なる変わり者になってしまうというか。で、この「ウマグマ」は、芸術を目指していたピンク・フロイドの最後の到達点であって、創造性という意味ではロック史のみならず音楽史に残る傑作であったのだと思います。





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『PINK FLOYD / A SAUCERFUL OF SECRETS』

PinkFloyd_Sauceful.jpg
 日本タイトルは「神秘」。ピンク・フロイドというプログレッシブ・ロックのグループのセカンドアルバムです。ですが、この頃はプログレッシブ・ロックというよりも、サイケデリックなイメージの方が強いです。

 な~んて言ってますが、サイケデリック・ロックって、何のことだかよく分かりません。「サイケデリック」って、絵なんかのアートだとイメージし易い気がします。極彩色で、グニャグニャしてて、でっかい目がビローンとしてたりとか、飛行機に羽が生えていたりとか。…つまりはドラッグやっている時のモノの見え方みたいなものを絵にしてるんじゃないかと。じゃ、サイケデリック・ロックって?文字通り受け取れば、ドラッグやっている時の聴覚上のイメージを音楽にしたもの、という事になりそうなんですが、では「サイケデリック・ロック」と言われるバンドのレコードを聴いていくと…あんまり共通項がないんですよ。詞を除いて音だけでいえば、フォーク・ミュージックと判別不能の弾き語りみたいなものも結構あります。あと、ビート・バンドとの差が全くないものもあります。ひとつ前の記事のドアーズなんて、サイケの代表格みたいな扱いですが、音楽はこれでもかというぐらいにプロフェッショナルできっちりしているし、全然グニャグニャしてません。詞がドラッグやってるときみたいに支離滅裂、ぐらいの感覚なんでしょうか。いやいや、そんなこと言ったら優れた詩なんか、ランボーだろうがボードレールだろうがサイケデリックになっちゃうだろう…と思えちゃうんですよね。ドアーズの詩をドラッグで片づけるとしたら、それは相当にセンスが無いと思えてしまいます。滅茶苦茶なだけでいいんだったら、いくらでも作れますよね。ドラッグ詩というなら、ロックであるドアーズの詩の方がよほど自覚的で、むしろギンズバーグの詩とかの方が、リアルにドラッグな気がします。

 じゃ、詩ではなく、サウンド面でサイケデリックと言ったら?…う~ん、これは様々なんですが、同じフレーズばかりを延々と繰り返すというようなパターンのサイケデリックもありますね。これは理屈としては理解できる気がしますが、僕がドラッグをやらないのもので、実感としては理解できないんですよ。単純に退屈な音楽なだけに聴こえちゃう。グレイトフル・デッドなんていうサイケ・バンドがこの傾向です。このバンド、アメリカでは絶大な人気らしいですが、日本ではぜんぜん人気がないというのは、ドラッグ文化の有無がそのまま反映された数字であるのかもしれませんね。むしろ、ドラッグをやらない僕のような人間からすれば、グニャ~ってしてる感じの音を作り出すサイケデリックのほうが、自分の感覚としてリアルに理解できるのです。理解できるというより、音楽としてものすごく面白い。
 でも実際のサイケ・バンドが作り出す、サウンド面でのグンニャリ感って…単にリバーブをいっぱいかけるとか、フランジャーとかリングモジュレーターのような特殊な機械効果を与えるとか、そういう安易なところで終わっているものが少なくないです。というか、リアルタイムな60年代のバンドでは、そういうものの方が大多数とすら思います。しかし、そのサウンド面でのグンニャリ感を、作曲面とか、そいういう音楽的な点から表現したバンドというのがいたのでした。それが、ピンク・フロイド。

 普通でない感覚のサウンド化というのは、例えば音程の選択にも出てきます。短2度の使用とか、半音階の使用とか、フィフティーズやビートルズといったポピュラー音楽では絶対に出て来ないような音の使い方をしたりして、これがサウンドとして実に暗く不気味かつ新鮮。普通のクラシックよりもよほど刺激があります。また、楽曲構造もアイデアの塊。ABCとかAABAとかいった普通のポピュラー音楽の形式なんてどんどん無視していきます。ではそれがテキトーな事をやっているかというと…いやいや、これが実に理知的で、見事な楽曲構造となっています。クラシックやジャズなんかよりも、よっぽどクリエイティブです。ピンクフロイドの作品というのを、僕は中学から高校にかけて片っ端から聴きましたが、このアルバムと「ウマグマ」というアルバムの2枚は抜群です。

 ピンク・フロイドも、デビューアルバムではシド・バレットという重度の麻薬患者がヴォーカルをやっている頃は、サウンド的には別にサイケデリックな感ではありません。普通のフォークロックっぽい。で、有名な「原子心母」や「狂気」というアルバム辺りまで来ると、逆に職業化したロック・ミュージックの成れの果てにしか聞こえません。ピンク・フロイドが驚異であったのは、本物の麻薬中毒患者がバンドから抜けたこのセカンドアルバム「神秘」からしばらくの間の僅かな期間です。これが本当に素晴らしい。音楽面でこれほどの創造性に溢れた音楽というものが、ロックから出て来たというのは驚異です。というか、誤解を恐れずに言えば、今のクラシックやジャズでは太刀打ちできない創造性。芸術の名に値するアルバムと思います。


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『THE DOORS』

doors.jpg ロックの大名盤。本当に素晴らしいレコードで、若い頃は何十回このレコードを聴いたか分からないほどでした。ところが、僕はこのドアーズというグループについて何も知らないのです。だから、ドアーズについて大したことを書くことが出来ないのですが。

 最初にこのバンドを教えてくれたのは、やっぱり例によって中学の時の同級生。まず、バンド名に啞然。ドア?…扉の向こうに何があるのか、という事か?で、早速借りて聴いたのですが…いやあ、あまりに素晴らしすぎて、もう自分で買ってきてしまいました。アルバム全部でひとつの作品となっているというぐらいに、捨て曲ナシ、完全無欠の大傑作なのですが、中でも最後の"THE END"が衝撃でした。非常にダークなギターの旋律、それに重なるオルガン。ここに、現代詩どころか黙示文書に近いような、何を暗示しているのかははっきりとは理解できないが、しかし何かを案じているとしか思えない言葉がこの音の上に覆いかぶさっていきます。

There's danger on the edge of town, Ride the King's highway, baby.
Weird scenes inside the gold mine, Ride the highway West.
Ride the snake, Ride the snake to the lake, The ancient lake.
The snake is long, seven miles, Ride the snake.
He's old and his skin is cold.The West is the best, The West is the best...
(街の外れは危険だ、王のハイウェイに乗れ
金鉱の異様な景色、王のハイウェイに乗って西へ向かえ
蛇に乗れ、蛇に乗って湖に行け、古代の湖に
蛇は長い、7マイル、蛇に乗れ…
蛇は年老いて、その皮膚は冷たい
西が最善だ、西が最善…)

 …まるで黙示文書のような暗示の山のようなこの物語が進むにつれ、曲のテンポは上がっていき、音楽は次第にカオスの中へと埋没していきます。その後ろで木霊する「kill, kill...」の言葉。中学生になりたてで、ついこの前まで日本の歌謡曲ばかりを聴いていた僕にとって、この音楽は凄まじ過ぎました。

 また、1曲目"Break on through to the other side" も凄かったです。リムショットを使ったドラムのコンビネーションから、また見事なギターのサウンド。いやあ、ビートルズのようなチャカチャカしたギターでもなく、メタルミュージックのようなディストーションサウンドでもない、フェンダーのアンプから出したようなナチュラルな歪みとエコー感が暗く、そして美しすぎます。更に重なるドアーズ・サウンドの象徴であるオルガンの音!そして、またもや詩が凄まじい世界観で世界を切り抜きます。

The day destroys the night, Night divides the day
Tried to run, Tried to hide
Break on through to the other side...
(昼は夜を破壊し、夜は昼を齎す
走れ、隠せ、あちら側へと突きぬけろ…)

 なるほど、other side に突き抜ける境界にあるものとしてのドアなのか…と、当時は思ったものです。クラシックでもジャズでもポピュラー音楽でも果たせない、表沙汰にはしにくい暗部の役割を、ロックは背負えていたのだと思います。それに気づきながらも人が隠して来た、人間自身の本質的かつ闇の部分。ロックって、いつしか商業音楽の代表のような、あるいは英知も芸もない、恰好ばかりで中身の薄い二流文化の代表のような音楽になってしまいましたが、そうではない時代というものがあったと思います。その頂点にあったのが、60年代末から70年代前半だったのではないかと。ジム・モリソンという、もう詩人と言っても良いようなヴォーカルに、恐らくジャズ上りと思われるドラマー、聞いた事はありませんがもしクラシックを弾かせたら恐らくうまいんだろうなと思えて仕方がないギター、そしてドアーズ・サウンドの中心であるオルガンのレイ・マンザレク…メンバーがひとりでも替わっていたらこの音楽は出来なかったんじゃないかと思わせるようなバンドです。そして、丹念に作り込まれた詩・曲・録音、その全てが素晴らしい!これは、ロック史上のみならず、音楽史上に残る奇跡の1枚と思います。

 ところが不思議な事に、これほどの作品をデビュー作品で作り上げておきながら、以降のドアーズのアルバムはみんなイマイチ。ライブは素晴らしいんですが、しかしそれも感動するのはやっぱり"Break on through" と"THE END"の2曲だったりします。ライブバンドというより、やはりこのファーストアルバムに凝縮された世界を作り上げた創造力こそがドアーズの魅力と思います。というわけで、僕はドアーズが大好きというよりも、ファーストアルバムのドアーズが大好きという事なのかもしれません。





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『Bill Evans & Jeremy Steig / What's New』

BillEvans_WhatsNew.jpg ビル・エヴァンスのピアノトリオに、フルートのジェレミー・スタイグが参加した形のジャズです。このジェレミー・スタイグというフルーティストが実に個性的で、簡単に言うとすごく熱いんですよね。これがカッコいい!!
 ビル・エヴァンスというと、その性格上の事かとは思うのですが、非常にメロウな方というか、音楽的にいえば和声アプローチ上のサウンド方面に意識が流れてしまいがちなピアニストかと思うのですが、このセッションではジェレミー・スタイグに引っ張られるかのように、非常にストレートで激しい演奏を聴かせてくれます。うわ、ストレートなアップテンポ曲でもこんなに弾ける人だったのか…と驚かされてしまいました。それが際立っているのが1曲目の"STRAIGHT NO CHASER"。いやあ、フルートといいピアノといい、またスナッピーの効いた、煽るようでありながら軽快なドラムのブラシ捌きといい、聴いていて実に気持ちのよい演奏です!!"AUTUMN LEAVES"も、ミディアムではなくアップで演奏していて、すごく気持ちいい!ここではベースのエディ・ゴメスのソロが実に見事です。この人、うまいなあ。
 他にも"LOVER MAN"とか"WHAT'S NEW"のような、いかにもエヴァンス・トリオの得意そうなスロー~ミディアム・ナンバーはいいに決まっているのですが、ここでもスタイグのフルートがすごくいい!!なんというか、フルートという楽器はもともと息の成分が強い楽器だとは思うのですが、この人の演奏はそれがとても顕著で、例えばアタック音のところで尺八みたいにブレスだけが「ブシュッ」と入ってからフルートの音が入ってくるような表現を使ったりして、ある意味で肉声であるかのよう。これが、曲にすごい表情を与えているし、またフルートの表現にも強く影響しているように思えるのです。いやあ、素晴らしいです!
 もうひとつは、B面に入っている"SPARTACUS LOVE THEME"。これは映画「スパルタカス」に入っている曲ですが、大変に美しい和声進行とメロディを持った曲…なんですが、劇的構成に欠けるというか、同じコード進行を何度も繰り返すだけという弱点を持った曲でもあります。しかしそれが、アレンジの妙でまったく飽きる事無く、大変に素晴らしい音楽になっています。いやあ、これはセッションなんていう一言で片づけられるものではありませんね。すばらしいです!

 というわけで、ビル・エヴァンス作品としてはちょっと異色のアルバムかも知れませんが、このアルバムを嫌いなんていう人はまずいないんじゃないかと。大おススメの1枚です!


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『Bill Evans / Portrait in Jazz』

BillEvans_Portrait.jpg ジャケット写真だけでも有名すぎるぐらいに有名なジャズのレコードです。ビル・エヴァンスのピアノ・トリオです。で、ジャズファンの人に言わせると「3者のインタープレイが凄い」「ピアノの音がもの凄く綺麗」「斬新なアプローチだ」…な~んて、美辞麗句がこれでもかとばかりに続きます。このレコードを批判でもしようものなら、袋叩きにあいそうなぐらいの勢い(^^;)。この美辞麗句は、ジャズファンだけじゃなくって、ジャズ評論家も、ビル・エヴァンス・トリオの演奏を褒める時に良く使われています。
 で、僕にはこれらの褒め言葉が到底信じられないのです。せっかくの素晴らしい肉料理があるのに、「この魚は実にうまいですね!これが分からないなんて素人ですね!」みたいに言われてる感じで、まったく見当違いのところが褒められているような気分。たとえば、「ピアノの音がもの凄く綺麗」。スコット・ラファロというベーシストの参加したビル・エヴァンスのトリオの録音は、リバーサイドというレーベルから発表されたものが大半、本作もそうです。で、リバーサイドから発表されたビル・エヴァンスのレコードを僕は大量に聴いてるんですが、ピアノの状態にしても、録音の状態にしても、グッド・コンディションのものを僕は聴いたことがありません。エヴァンスがタッチを変化させているように思えるところも、全部音が潰れて、正直のところ聴けたものではありません。更に、ビル・エヴァンス自体のピアノのタッチも…けっして格別とは思えないんですよね。音色表現としては、色々な音をピアノから出すのはあまり得意な人ではないと思います。つまり…どこをとっても、音は悪いんですよ。

 さて、先に文句を言ってしまいましたが(^^;)、でもぼくはこのアルバムを何十回と聴きました。理由は、ジャズ・ピアノの勉強のため。このアルバム、"Come Rain or Come Shine"とか"Autumn Leaves"とか、ジャズのスタンダードばかりを取りあげてて、いわばビル・エヴァンス版のスタンダード集。で、和声やプログレッションのアプローチがモダンなのです。今、このまま演奏しても通じちゃうんじゃないかなあ。エヴァンス以前のジャズ・ピアニストでいえば、例えばケニー・ドリューとかレッド・ガーラントなんかの50年代録音でいえば、和声はせいぜいテンションまで、メロディは片手でスケールと5度のオルタード、みたいな感じです。でもビル・エヴァンスとなると、和声上の技法が一気に増えるどころか、和声面からの曲の構成方法まで変わってしまいます。ジャズ・ファンの人がこのアルバムを愛聴している「音が綺麗」は、音が綺麗なんじゃなくって、和音やプログレッションの色彩感覚が綺麗と感じているんじゃないかと。

 最後に、好き過ぎて、死ぬほど聴きまくった曲がひとつ。アルバムの最後に入っている"Blue in Green"、これは前に書いたマイルス・デイヴィスの"カインド・オブ・ブルー"で決定的名演を聴くことが出来ますが、ピアノのアプローチとしてはこちらの演奏も素晴らしい!パッと聴きの印象としてはメロウなのですが、よく聴くと、もの凄い弾いているんですよね。メロディラインでも、あまり1本にすることはなくって、和音まで行かなくても重音にはしていたり。こういう気配りされたサウンドが美しい(^^)。また、この曲はジャズである事に加えてモードでもあるので、しかも10小節でひと回りという変な構造でもあるので、始まりも終わりも分かりにくくて、えらく単調になってもおかしくないと思うのですが、ビル・エバンスはスタートから盛り上げていって山を作って美しく閉じる…という、クラシックのようなドラマを見事に作ります。「その時に感じたインスピレーションに従って思うがままに演奏する」という演奏ではなく、もの凄い理性的なものを感じます。演奏時間は5分程度ですが、この5分の演奏の組み立て方、その背景にあるものの深さと言ったら、並大抵ではありません。最初に聴いた時には普通のジャズに思えたのですが、聴けば聴くほど…いやあ、この"Blue in Green"は、ものすごい。。


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Bach Bach

Author:Bach Bach
狭いながらも居心地のいい宿で、奥さんとペット数匹と仲良く暮らしている音楽好きです。若いころに音楽を学びましたが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたレコード/CDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度のものですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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ロシアとウクライナがほぼ戦争状態に入りましたが、僕はソ連解体後のウクライナについて本当に無知…。これは2016年にオリバー・ストーン監督が作ったウクライナのドキュメンタリー映画。日本語字幕版が出たらぜひ観たい このブログをYoutube にアップしようか迷い中。するなら作業効率としては早いほど良いんですよね。。その時にはVOICEROIDに話してもらおうかと思ってるけど、誰の声がいいのか考え中
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