メシアンは優れた曲をたくさん書いていますが、作品に使われている作曲技法そのものが違っていたりするので、すべての作品を単純に比較する事は難しいです。で、メシアンの曲の中で僕が惹かれるのは、やはりメシアン・サウンドが前面に出てきている曲。特に「移調の限られた旋法」を使った曲は、サウンド自体が独創的なものになるので、個性出まくり。中でも第2旋法あたりのフワーっとした感じのサウンドは個人的なツボで、嬉しいとか哀しいとか、感情をあらわすどんな言葉にも当てはまらないような独特な感覚。で、それがまた素晴らしいです。神秘的、静謐、荘厳、どこか不安になるようなサウンド…
音楽以外では体験する事の出来ないような感覚なのです。ひとつ前の記事で書いた「世の終わりの為の四重奏曲」なんかもこの傾向にある作品ですが、「ヴァイオリンとピアノのための主題と変奏」もやはり素晴らしい。初めて聞いた時、「死ぬ前に頭の中に鳴り響く音楽って、案外こんな音なのかもしれないな」と思ったものです。
で、この録音はメシアン縛りのCDではなくって、
ギドン・クレーメルという超有名なヴァイオリニストと、
マルタ・アルゲリッチというこれまた超有名なピアニストの共演という縛りで制作されたもの。このデュオは他にもたくさんのレコーディングを行っていて、これは近現代曲集という位置づけなのでしょう。
バルトーク、
ヤナーチェク、
メシアンという3人の作曲家の作品を取りあげています。そして…曲も演奏も鳥肌モノの大傑作、大名演。メシアンの「移調の限られた旋法」というのは、旋法(スケール)が先に決定されているので、和音はその旋法を構成するために選び出された音を重ねて作る事になります。で、普通の感覚なら、1・3・5…と重ねていきそうなものなんですが、1・4・7…と積んだりするんです。この「4度積みの伝統」にある音楽って、僕らが慣れ親しんでいる西洋音楽の和声機能から外れてしまうので、表現がちょっと難しくなると思うのです。簡単に言うと、19世紀のクラシック音楽はロマン派と言われるものがほとんどで、官能的で情熱的な音楽です。でも、フランスから印象派という音楽生まれてからの音楽は、音の重なり方自体が凄い色彩感を持っていて、これをロマン派音楽のように情感こめてたっぷり演奏しすぎてしまうと、なんか変になっちゃいます。さらにメシアンとなると…この独特な響きを持つ曲、演奏をどう表現すれば良いものとなるのかが、かなり難しいと思うんです。
そしてこのふたりなんですが、クラシックのスペシャリストなだけあって、基本的にエスプレッシーヴォな表現を好んでいて、この録音でも基本的にベースは「情熱的」な表現です。しかし、さすがにプロ中のプロというか、この作品をどう受け止めるのかという所にいい加減な所は全然なくって、単純に劇的な表現にはしていなくて、。非劇性にある所と、ある程度エモーショナルな表現にした方が面白くなりそうな部分を混在させているように聴こえます。う~ん、これはうまい事考えたな。いやいや、まずこれを表現できる時点で演奏の技量がとんでもないという事は間違いないんですが、それ以前に、ここまで掘り下げて考えた解釈から表現をデザインしたこと自体が、さすがの頭脳だと思うのです。
メシアンの「主題と変奏」は、他にも録音があり、どちらかというとこのクレーメルとアルゲリッチの解釈は異端的かも知れませんが、僕はこれが一番好きです。本当に素晴らしい音楽であり、また名演でもあると思います。神秘と人間性が出会う瞬間の音楽、ぜひご一聴あれ!!
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