メシアンが、自分の作曲技法について書いた本です。邦題は「わが音楽語法」。近現代以降の調音楽の作曲を勉強しようと思ったら、絶対に避けては通れない本です!
今の日本では、音楽の勉強というと、まず西洋音楽の事を指していると思います。また、その中でも「ドミソ」の和音と「ドレミファソラシド」の旋法に代表されるような、「機能和声法」というものを学ぶのが殆ど。日本の歌謡曲、英米のチャート音楽、ハリウッドの映画音楽、ジャズ、タンゴ…。僕が普通に生活していて耳にしてきた音楽というのは、みんな機能和声で作られた音楽でした。でもこうなると、サウンドがみんな同じなんですよね…。音楽大好きで音楽を聴きまくっていた僕ですが、高校生ぐらいになると、こうした音楽に食傷気味になってしまい、飽き飽きしてきていました。色んな音楽を聴いているつもりが、全部同じ物のバリエーションに思えてきてしまったんです。そんな時に出会ったのが、メシアンという作曲家。この作曲家、やっぱり和声を色彩豊かに使うんですが、そこで使う作曲システムがぜんぜん違う!音楽はものすごい色彩感覚で、たくさんの音楽を聴いて来たつもりだったのに、まったく聴いた事のないようなサウンドのオンパレード!!完全に魅了されてしまいました。特に「
世の終わりの為の四重奏曲」は、僕の人生を変える事になったほどの衝撃。以降の僕は、音楽の勉強なんて全然していなかったくせに必死に音楽の勉強をして、何とか音大に滑り込み、そこでメシアンの作曲を選択するほどに、メシアンにのめり込んでいったのでした(^^)。
この本は、体系的に作曲システムを記述してあるわけではないです。メシアンという作曲家が、どういうふうに作曲しているかをトピック別に書いてる感じ。例えば、リズムではインド音楽のリズムを参考していてそのリズムはこうなってるとか、
ドビュッシーの作曲技法をどういう風に解釈して自分の作曲に活用してるかとか、リズムを変形していく時にメシアンが使ってる変形の手法とか、メシアンが使ってる特殊和音とか、そういうのを書いてあります。このへんは、メシアン以前にある対位法の手法とか4度和声とか音列技法なんかを前提に書かれているので、そのあたりの勉強が終わってない人が読むのはきついと思います。たとえば、リズムの拡大・縮小に関する手法とかは、カノンのリズムの拡大・縮小や、音列技法での反行あたりが前提になっているので、そこが分かってないと理解不能、みたいな。
そして、リズムや和声のあとの
16章に書かれているのが、この本でいちばんの目玉、あの有名な「移調の限られた旋法」です。いま一般に使われている長調とか短調というのは、旋法的に言うと7音音階のうちのひとつです。メシアンは、作曲で7音音階以外の旋法も作曲に用います。それも機能和声の7音音階への組み込みだけでなく、単独で使ったりもするわけです。その1番はジャズでいうホールトーン、2番はコンビネーションオブディミニッシュド、3番は9音音階(!)、…みたいな感じです。さらに、それぞれの旋法の転調の可能性がどうなってるかも調べてあって、これでそれぞれの旋法を使っての作曲の素材が揃う、みたいなかんじ。そして17章は、それらと長音階との関係。長音階っぽく鳴らすのか、もっと浮遊して鳴らすのか、みたいな、その考え方。そして最後の19章は、ふたつの旋法を積み重ねたり、3つの旋法を積み重ねたりという、その実例。いやあ、リズムの章でも、ふたつのリズムを共存させる手法が紹介されたりしていましたが、旋法も重ねるのか、これはすごい。。
というわけで、一般的な和声法、対位法とカノン、12音列技法あたりの勉強が終わってる人にとっては、アイデアにとんだメシアンの音楽がどうなっているかのヒントを貰える、すごく参考になる作曲の参考書じゃないかと!問題は…メシアンはフランス人なので、原本はフランス語なんです。日本語訳は大昔に出ていたのですが、とっくの昔に絶版。僕が行っていた音大の図書館にはあったのですが、ボロボロでした。。というわけで、今となってはこの英訳本を読むのが、いちばん現実的なんじゃないかと思います。楽譜がメインですので、そんなに難しい英語はありませんでした。
*2018.2.16 追記:なんと、日本語新訳が出ました! 細野孝興訳 「音楽言語の技法
」です!日本語訳は1954年に刊行されたきり長らく絶版だったので、これはうれしい翻訳じゃないでしょうか!