
マル・ウォルドロン作曲の「レフト・アローン」で、僕が最初に聴いた演奏は、このフィリピン出身のジャズ(?)・シンガーであるマリーンさんが歌ったバージョンでした。栗本薫さん原作の小説「キャバレー」を角川フィルムが映画化した際に、これが主題歌として使われていました。というか、角川映画からのオーダーで作られたのかな?このCDはマリーンさんのベスト盤ですが、そのタイトルにもなるぐらいだから、マリーンさんの曲最大のヒットはレフトアローンだったのかも知れませんね。
映画自体は、売れないジャズマンややくざや娼婦が交錯する場末のキャバレーで、哀愁たっぷりにレフト・アローンが演奏されるという最悪にクサいもので、この映画のせいでせっかくの「レフト・アローン」が芝居がかった安っぽいものになってしまったという気もします(^^;)。が…肝心の音楽は、なかなか素晴らしかった。これ、ウィズ・ストリングスのピアノ・カルテットなんですが、まずはアレンジが素晴らしい。ピアノとアレンジを担当している人がバンドマスターで、
鈴木宏昌さんという人なんですが、この方、ジョージ川口さんや日野皓正さんのバンドにも参加していた、正真正銘のジャズマン。ジャズピアノの良さって、例えば歌伴をするときに、ヴォーカルに寄り添うように挟みこんでいくオブリなんかに僕はセンスの良し悪しが出ると思っているんですが(マニアックかな^^;)、日本人のジャズピアニストでは、この鈴木さんと島健さんのふたりがものすごくセンスがいいと感じます。その本職の技が聴ける感じ。次に、アルト・サックスのソロを
中村誠一さんというサックス奏者が演奏するんですが、これも見事。中村さんといえば、僕にとっては山下洋輔バンドのイメージが強いんですが(あれ?そういえばテナー奏者じゃなかったっけか?)、「こういう流暢なジャズもやるのか」と思わされるきっかけになる演奏だったかもしれません。とはいえ、僕がこの演奏を初めて聞いたのは小学生で、この感想は後から思った事なんですけどね。で、レフト・アローンのサックスといえば、ジャッキー・マクリーンのあの演奏が相場という中、その影響をまったく残していない感じの歌い回しが素晴らしい。
で、主役のマリーンさんですが…間違っていたら申し訳ないのですが、昔は「ジャズ/フュージョン系のシンガー」という売り方だったと思います。でも、フィリピン出身という所からも想像できるように、本人はそういうものには特に拘ってなかったんじゃないかという気もします。だから、歌い方が、僕が思っているところの「ジャズ・ヴォーカル」的な色とちょっと違う。なんか、震えるように歌う「マリーン節」みたいな。で…こういう個性って、素晴らしいと思います。歌い手さんなので、要求された歌を片っ端から歌っていかなきゃいけないと思うんですが、それをちゃんと自分の歌に出来てるというか。
さて、このアルバム、他にもジャズの名曲がギッチリ詰まってます。いそしぎ、サテン・ドール、マイ・ファニー・バレンタイン…。オーダーされて作ったアレンジと演奏という感じで、当たり障りのない演奏と音楽が多いんですが、それにしてもみんなうまいな…と思ったら、シェリー・マンとかが演奏してたりする。。いやあ、それはうまいわけだ。マリーンさんという歌い手さんに触れようと思ったら、けっこう入りやすい1枚なんじゃないかと思います。
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