
抒情的なジャズ・ピアノの切り札であるビル・エヴァンスの、最後の演奏、という2枚組CDです。ティファニー、マイ・フーリッシュ・ハート、マイ・ロマンス…演奏のセットリストには、ビル・エヴァンスを好きな人なら皆知っているんじゃないかというぐらいに、彼の18番のレパートリーがずらっと並んでます。
ビル・エヴァンスが大好きで、奏法の研究をした事もあるのですが、そんなビル・エヴァンス好きの僕としては、このCDは「ビル・エヴァンスらしからぬ演奏」という感じがします。このCDの解説には、「(病気がひどくて)テクニックの80パーセントはもうどこかに行ってしまったが、プロ意識でどうにかつないでいる」とか書いてあるのですが、実際には正反対というか、ここまでテクニック志向のビル・エヴァンスの演奏は珍しいんじゃないかというぐらいに弾きまくっています。ビル・エヴァンスさんは、かなり曲を大切にする人で、アドリブパートに入っても、綺麗なメロディラインや和声進行を作っていく人で、すごく音を選ぶ。テクニック披露型で弾けるだけ音を詰め込むというタイプのジャズマンではないのです。ある意味、ジャズっぽくないというか…。それが、この演奏と来たら、ほとんど弾きまくりといっていいぐらいの状態。あのリリカルでセンチメンタルなビル・エヴァンスの音楽に浸りたいという場合、これがいい事かどうかは分かりませんが、ピアノのジャズ・アドリブ演奏を勉強したい時に、これぐらい参考になるCDも中々ないのではないかと思います。あ、そうそう、とはいえ、マイナー調の曲は1曲も入っておらず、全部メジャー調なので、教科書として買う人はそこに気をつけた方がいいかも。
そして、僕はこのCDを買った時に、ひとつの苦い思い出が。CD発売時の触れ込みとしては、「ビル・エヴァンス最後の録音」みたいな感じでしたが、この表現がちょっとクセモノだったのです。サンフランシスコのキートン・コーナーというクラブでの演奏らしいんですが、その日付けが「1980年8/31~9/7」となっているのです。8daysだったのかな?で、ビル・エヴァンスはこのクラブへの出演の最中に入院となり、そしてそのまま他界(´;ω;`)。で、この「キートン・コーナーでのラスト演奏」というCD1枚物が出てたんですよね。僕はそれをレンタルCDで借りて聴いていて、その中の何かの曲(マイ・フーリッシュ・ハートだったかな?覚えてないや…)にえらく感銘を受けたのです。それが素晴らしい演奏だった、という感触だけは覚えていた。後日、中古盤屋でこの2枚組を見つけ、「おお!1枚ものじゃなくって2枚組のがあるのか!じゃ、これがフルステージ収録の完全版なんだな」と思い、買ってきたら…どう考えても違う演奏(>_<)。…う~ん、この8日間のパフォーマンスからの抜粋盤で、同じ曲でも違う日のものだったんでしょうね。結局、あの素晴らしい演奏は記憶の中にしか残っていないのですが…おおお~、アマゾンを見てみたら、フル収録の8枚組というのが出ているのか?!いやあ、買いたいけど、その1曲の為に8枚組購入は、今の僕の経済状況では無理…。でも、あの名演、もう一度聴いてみたいなあ。。
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