
ひとつ前の記事で触れた、チェット・ベイカー最晩年のドキュメンタリー・フィルムです。1988年制作なのですが、モノクロフィルム。しかし、映画用のアナログのモノクロフィルムって、全てが1枚写真みたいでメッチャクチャ綺麗ですよね。僕は、モノクロフィルムの美しさを知って以降は、カラー映画をしばらく見られなくなった事すらあります。知り合いの映画監督さんと話したときに、「本当に撮影したいのはモノクロ映画。フィルムはスコッチの***を使って、あれを使えば影の映り方が…」とか、照明や構図や影の作り方以外にも、僕のようなシロウトにはまったく分からないすごく深い部分もあるようでした。そしてこの映画…映像が、とにかく素晴らしい!!そして、内容も素晴らしすぎます。
僕は、役者さんが歴史上の誰かを演じるタイプの映画があまり好きではありません。なんか、「演出」クサくなって、見るに堪えなくなってしまう。例えば歴史的にすごい野球選手を取り上げても、そのさまになっていない投げ方を見るだけで何かのコメディにしか思えなくなっちゃう。ミュージシャンでも、役者が「懸命にサックスを吹いて名演奏をしている」というお芝居を見ているだけで、その行為自体が既に「演出」であるだけに、そんな猿まねを人前でやって恥ずかしくないんだろうか…な~んて、心配になっちゃうほど(^^)。音楽そのものじゃなくって、「こういう生き方ってカッコいいでしょう」みたいな用意された美観を押し売られるのって、気持ちワルイ…。しかし、ホンモノのドキュメンタリーとなると、話は別です。これは、ホンモノのチェット・ベイカーのドキュメンタリー。生の演奏、私生活、レコーディング、本人から語られる人生観…こういったものが訥々と、美しすぎるモノクロフィルムの中に収められていきます。ミュージシャンの美しい所も、だらしのない所も、弱い所も、全部そのまま撮影されていきます。そして…映画は、被写体であったはずのチェット・ベイカーの突然の死で、唐突に終わります。彼の転落死は、自死なのか事故死なのか…レコーディングが終わった直後の死というのは、意識しての自死だったのかも知れませんね。
ある視点からある人を美化して描いた映画ドラマとは違い、良いも悪いもすべてが映し出されているところが、とにかく素晴らしい。そしてその中からチェット・ベイカーさんの人生観や美観が浮き出してきます。僕は、「ああ、チェットさんの晩年の音楽にずっと漂っているあの詩情は、彼の人生観そのものなんだな」と思ってしまいました。若い女の子何人もと一緒にオープンカーに乗りながら、しかしどこかで遠い目をするその仕草とか、本当に一瞬だけ見えるそういう所に、ジャズマンという現代の吟遊詩人のような生き方を生涯続けた人の実像が記録された、素晴らしいドキュメンタリー映画と思います。
そうそう、僕はこの映画、レーザーディスクで持っていたので、字幕入りで何度も見たのですが、DVDやBlueRayでは日本語字幕入りは出てないみたいですね。レーザーディスクって、「ウィ~ン」って音がうるさいし、途中で裏っかえさなくちゃいけなかったりで(この映画を1本続けてみる事が出来ない!)、若干不便。これをDVD化しないなんて、何かが間違ってる。これは出すべきでしょう!!
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