このCD、そんな近代音楽の中で保守的な傾向を示した、あるフランス人作曲家の作品集です。気をつけなくてはいけないのは、この作曲家の名がフロラン・シュミット Florent Schmitt である点。実は、同世代の作曲家にフランツ・シュミット Franz Schmitt という人がいまして、僕はず~っと長い事、この二人を混同していました(´・ω・`)。というか、「シュミット作曲」とあったら、全部フランツかと思っていたのです。ああ恥ずかしい、死にたい気分です。いやあ、どちらも音楽がロマン派的な傾向にある(フランスとはいえ、シュミットという名前から察するにドイツ/オーストリア系なのかな?)し、このCDの表紙も"Schmitt"とは書いてあるけど、ファーストネームなんて書いてなかったし…。で、多分このフロランさんの方がマイナー。マイナーなんですが…いやあ、このロマン派ならではの官能性の中に、フランスならではの色彩感、またこの作曲家特有の感傷的な描き出しなんかもあって、これがなかなか素晴らしかった! このCDには、フロランさんの代表作2曲が収められているんですが、またその中でも代表的名演と言われている物だそうです(他のオケの演奏を聴いた事がないので、僕には判断できない^^;)。どちらも、題材が面白い!
ひとつは"La Tragedie De Salome"。サロメって色々と有名人がいますが、新約聖書の福音書に描かれているヘロディアの娘のサロメです。聖者ヨハネの首を持っている、あの美女の絵画のサロメです。カラヴァッジョの絵のサロメは凄かったな。。ところでカラヴァッジョって、首を切る絵が多い気がする…。おっと脱線、そのサロメ物語が2楽章形式で音によって描かれるんですが…いやあ、機能和声の官能性ここに極まれりという感じで、各シーンでの色彩感も素晴らしければ、ドラマ展開も素晴らしい!この作品、テキストは全く使われていないんですが、音楽を聴いているだけで物語の筋が解ってしまうからすごい(あ、もちろんサロメ伝説を知っているとしての話しですが…)。ポピュラーもジャズもクラシックも、片っ端からオクターブ7音の3度積み和音の機能和声音楽オンパレード状態に反吐が出そうだった若かりし頃の僕でしたが、そうでない音楽をたくさん聴いてから、こういう西洋音楽の中心的作風に戻ってくると、やっぱり西洋のクラシック音楽の伝統は偉大だと言わざるを得ない気分になってしまいます。あの精緻なインド芸術音楽ですら、ここまで緻密で、響きが多彩で、ドラマ展開に柔軟な語法には辿りつけていないわけですから。ベートーヴェンの『田園』の記事で同じことを書きましたが、音を使って絵画的な描き出しをするというこの西洋クラシックのロマン派限定の技術というのは、本当にすごいと思います。もう、この凄すぎる時間に沿って動く音的絵画を堪能するだけでも、このCDは買いです!!
もうひとつ収録されているのは、デュミエールの詩をテキストとして用いた"Psaume 47"。冒頭からいきなり打楽器的展開、"Gloire au Seigneur!!"(神の栄光!!)の大合唱で始まります。それにしてもこのパーカッシヴな展開、ヴァレーズの現代曲ほどとは言いませんが、少なくともストラヴィンスキーの"春の祭典"あたりからの影響は受けていそう。こういう「既にある伝統のバリエーションの大量生産」的な所が保守的作曲の残念な所なんだよなあ…な~んて思いながらこの作曲年を見ると…1904年?!うおおおお、、信じられない、春の祭典より先じゃねえか!!!!これは驚き、もしかするとストラヴィンスキーの方がこのシュミットの詩篇から影響を受けたのかも。思いつきですが、このシュミットの「詩編47」が、ストラヴィンスキー「春の祭典」の原典となった可能性もあるんじゃないでしょうか?!そして…この打楽器的で祝祭的な展開の合唱が終わった途端にマイナー転調するその瞬間の落差が、これまたロマン主義的な悦楽。そして、ソプラノの独白パートをハープで支えるシーンでの美しさと言ったら…いやあ、これも素晴らしい作品でした(^^)。