チャールズ・マンソンに続いて、アメリカのダーク・フォーク的なヴォーカルミュージックを。ジャズ寄りの女性ヴォーカリストであるパティ・ウォーターズです。ジャズヴォーカルとはいえ、かなりフリー寄りの所で活動していた人で、フリージャズ全盛期の60年代に、フリージャズ系の人をバックに歌ったアルバムが数枚出ただけで、あとは忽然と姿を消してしまった。というわけで、普通のジャズヴォーカルを期待すると痛い目に合う…と言いたいところなのですが、このアルバムに関してはまったくフリーではなく、ジャズです。しかも、超上質のジャズ。初めて聞いた時には鳥肌が立ってしまった。これ…部分的には
チェット・ベイカーより良いんじゃないかい?
このアルバム、パティさんの未発表音源集です。録音年は1962-79となっています。つまり、60年代半ばでシーンから忽然と姿を消してしまった彼女のその後も録音されているというわけです。で、アルバムはレコーディング風景をそのまま収録したような出だしから(歌の合間合間に、ディレクターとのトークバックでのやり取りが入っていたりする)、本編ではピアノ&ヴォーカルのデュオ演奏(もしかすると弾き語り?)に入って行きます。で、この
ピアノとヴォーカルの関係が素晴らしすぎる。ピアノのスペースの取り方なんて、絶品すぎです。なんというのかなあ…西洋のジャズって、どんどん音を足す方向に進化していった感じがするんですよね。空間があればそこにフレーズを挟み、停滞したらターンアラウンドして新たなコード進行を付け加え、和声もテンション領域にまでどんどん音を足して…みたいな感じで。ところがこのCDでの音楽は、
ピアノもヴォーカルも余計な音をどんどん削ぎ落としていく感じ。リズム音楽であるジャズの中から、強拍部分の強調を全て無くし、場合によっては1小節を全てひとつの和音だけで透き通るように響き渡らせて(これが鳥肌モノの美しさ!)、リズムが弱められ、歌だけが残される。少し前に、
ジョー・パスの歌伴での、最小限の音だけを出す表現の素晴らしさについて書いた事がありますが、そのピアノ版という感じでしょうか。これぞ音楽、すばらしい…。ヴォーカルは、年取ったような声になるテイクでは(これが70年代の録音なのかな?)かなり音がフラつくんですが、そんなことよりも音楽で表現しようとしているところが素晴らしすぎて、文句を言う気になれません。
恐怖のフリー・ヴォーカルの印象が強い人だけに、昔からのファンの人には嫌われるアルバムなのかも知れませんが、もっと広く音楽として聴けば、こんな素晴らしいヴォーカルアルバムもなかなかないでしょう。商業主義でない部分が前面に出てきた時のアメリカ音楽の背景に聴こえるものって、恐るべしと感じる時があります。大おススメです!!
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