
パティ・ウォーターズと東アジアのトランス系ヴォーカル・ミュージックに触れた以上、どうしても触れておきたい作品が。ヒグチケイコさんというヴォーカリストです。この作品は神田晋一郎さんというピアニストとの共演で、ジャズや三文オペラや日本の現代曲、そしてフリー・ヴォーカルなアプローチと、色んな要素が入り組んでいるのですが、テクニックがものすごいのは勿論なんですが、この融合のさせ方のセンスが素晴らしすぎる!!なんといえばいいのか…前の記事の韓国のシッキムクッが儀礼音楽であるとすると、同じものを歌音楽上で見事に成立させた感じ。いやあ、はじめてこのCDを聴いた時の衝撃といったらありませんでした。
このCDに辿り着いたのは、実はピアノの神田晋一郎さんという人に食いついたのが先。いつぞや書いた
EXIAS-Jという日本のアヴァンギャルド系のグループで素晴らしい演奏をしていまして、この人のソロ作ってないのかな…と思ってこのCDに辿りついたわけです。で、曲目を見ると、ジャズはもとより、武満徹、クルト・ワイル、そしてオリジナル…聴くより先に、「あ、これは本物だな」、と思ったわけです(^^;)。そしてそのピアノ、私の予想のはるか上を行くものでした。いやあ、こんな人が埋もれていて、あんな人たちが偉そうにテレビやラジオで音楽を語っている日本って…という愚痴は兎も角、まがりなりにも青春時代にピアノに真剣に取り組んできた僕としては、嫉妬を通り越して尊敬の念を抱いてしまった。。しかしそれ以上に凄かったのが、ヴォーカルとのシンクロ具合。2~3個前の記事で、
パティ・ウォーターズの素晴らしいヴォーカル&ピアノのデュオの記事を書きましたが、このCDはその数段上を行くものと言えるんじゃないかと。それは"Love Letter"とか"Porgy and Bess"みたいなジャズ・スタンダードにも言えるし、谷川俊太郎&武満徹の2曲に至っては、僕が今まで聴いてきたこの曲の演奏でもベスト・パフォーマンスという域にまで達してます。
それから、最初はこのヴォーカルを「凄いアドリブ力だ」なんて思ってたんですよ。しかしあまりの感動に何度も聴き直しているうちに…音の入り方、ブレスの入れ方、ファルセットに入るタイミングなどなど、綿密にアレンジしてないかい?いやあ、これはピアニストのアレンジなのかヴォーカリストの機転なのか分かりませんが、パティ・ウォータズにしても誰にしても、素晴らしい人というのはフリーであろうがなかろうが、突き詰めるとフリーとは全く違う所まで丹念に仕上げてくるというか。すごい人というのはフリー云々でなくって、音楽のために必要なものは全部仕上げてくるんだな、と思わされました。このCDに入ってる"My Funny Valentine"のヴァースなんて、ほとんど現代音楽だしな…。フリーとかジャズとかクラシックとかを無視するのではなく、またどれかのジャンルに囚われるのでもなく、今ある様々なピアノ/ヴォーカル音楽の良い所を丁寧に吸収した上で、ピアノ&ヴォーカルなら最後にはここに辿り着く、という場所に辿り着いた素晴らしいパフォーマンスが本作であると僕は思ってます。いかにもシャーマニックなヴォーカルというわけではないんですが、その瞬間に辿り着いた瞬間にトランス状態にズバンと入ってしまう…西洋音楽の素晴らしい音楽の上に、西洋音楽が苦手にしてきた領域に入り込んでいる感じです。これは見事!
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