
結局、僕がフランスのクラシックを聴くときって、そこに僕が思い描いているフランス的な何かを求めている気がします。でもそれって何?サティとかドビュッシーとか、4度和声のたゆたう、ああいうフワーッとした感じ?でも、フランスのクラシックがみんなそういう音楽かというと、そんな事ないです。本当は、僕たちが思う所のドイツ的な劇的な機能和声方面の音楽の方が多いんじゃなかろうか。ましてラヴェル登場以前となると、余計にそうだった気がします。サン・サーンスとかね。で、シャブリエの音楽には、19世紀末のヨーロッパのムードとか、音楽の傾向とかが実によくあらわれてるんじゃないかと思うのです。閉じたヨーロッパ音楽の中に、第3世界からの音楽が流入して一気にバラエティに富んでいき、その中からいよいよ今でいう所の「フランス音楽」が立ちあがってくる直前に生きた作曲家の音楽、という感じです。
フランスの作曲家エマニュエル・シャブリエの生没年は、1841-1894年。というわけで、ワーグナー全盛期を生きていた事になります。また、その時代だと、ドイツとフランスはライバル関係ではあるけれども、1次大戦による決定的な決裂はまだ起きてません。というわけで、ワーグナーの影響があり(このCDに入っている「
グヴァンドリーヌ」なんてワルキューレみたいだ!)、しかしフランス的な匂いは残っている感じ。そして…それ以上に、当時のヨーロッパの雰囲気が音楽にすごくあらわれているのです。
この時代というと、ヨーロッパには中産階級というのが登場していて、市民は裕福。世界旅行なんかも出来るようになる頃で、植民地主義の影響で中南米の音楽がヨーロッパに逆輸入され始めます。キューバ島のハバネラのリズムはラヴェルの音楽や、それ以外の世界中の音楽(例えばタンゴ)なんかに大きな影響を与えますが、クラシックでいち早くハバネラのリズムを使った人って、もしかしたらシャブリエなのかも知れません。このCDに収められた「
ハバネラ」がそれ。楽しく躍動している感じ。また、シャブリエの代表作「
狂詩曲スペイン」なんか、闘牛のリズムとか、スペインの直射日光のまぶしく明るい感じとかが凄く良く出てます。閉じたヨーロッパ文化の中に、アメリカ航路を通じて文化が流れ込んできている感じが、すごく音楽に反映されている感じです。そうそう、シャブリエは作曲の専門家ではなくて半サラリーマンで(売れてからは作曲家に専念したらしい)、奥さんと長期のスペイン旅行に出た時にこの曲を書いたと言いますから、コンサート・オブ・ヨーロッパの時代の、ヨーロッパ市民の豊かさが、曲想にも出ている感じがします。大体、現代のお金持ちの日本人だって、サラリーマンで休暇を取って、奥さんと4か月に及ぶ海外旅行に出る事の出来る人がどれぐらいいますかね?植民地主義時代のヨーロッパの平和が、どれほど裕福なものであったかが分かります。でも、技法はやっぱりドイツ音楽のモノなんですよね。だから、フランス人がドイツ語を使って、フランス人の視点で当時のヨーロッパのムードを語っている感じ。それが音になってる、みたいな。
というわけで、どの曲もみな、明るめで、優雅で、ちょっとエキゾチックな所が入ってきていて、平和で、躍動していて(と言っても激しくというよりもスキップしているような感じ)…。19世紀末のヨーロッパの優雅なムードを楽しみたい方は、自分で豆をひいてコーヒーを注ぎながら、このCDを聴くと、タイムスリップできるのではないかと思います(^^)。