
で、恐らく日本のジャズの大革命に繋がったのが、渡辺貞夫さんがバークレーで学んだことをまとめたこの本。ジャズ理論書として、有名すぎるぐらいに有名ですね。昔、日本でジャズを独学で学ぼうとしたらこれしかありませんでした。
菊地雅章さんの『アタッチト』の記事で少し書きましたが、戦後日本ジャズは、バークレー留学生が現れる前後で、匂いが全然違います。以前は進駐軍ラジオ&キャバレー&日本歌謡のミックスみたいな単純なコードとメロディだけの音楽だったのが、渡辺貞夫さんのバークレー帰りからいきなりモダン化して、レベルが飛躍的に上昇した感じがします。でも、当時外国に音楽留学するなんて、しかもクラシックではなくジャズでの留学なんて、ちょっと出来ない事だったんじゃないかと。そういう状況を鑑みて、日本のジャズマンのために渡辺さんは海外で学んだことをこの本にまとめてくれたんだと思います。なんという素晴らしい人間性(^^)。貞夫さんがこの本を書いてくれなかったら、日本ジャズのモダン化はそうとう遅れてたんじゃないかなあ。
さて、今の時代的に言うと…ジャズの理論って、本当の理論部分と、具体的にどう演奏するかという技法部分のふたつに分かれると思います。もちろん双方は地続きですし、両方押さえられれば理想なんでしょうが、現実問題としてジャズを演奏したければ、「このコード進行の場合は、こういうリハーモニゼーションとこういうリハーモニゼーションがあって、なぜそうかというと…」という理論よりも、「理由は兎も角、マイナーツーファイブの場合は2度も5度もエクステンションしちゃうのが普通」みたいな技法的な部分を学ばないと実際の演奏に繋ぎにくい。で、この本は、理論本に近くて、しかも懇切丁寧な教科書というよりもメモやノートに近い。だから、単にこの本だけでジャズを学ぼうとしたら、演奏につなぎにくいという点で挫折しやすいなんじゃないかと(^^;)。もちろん頑張れば、書いてある事自体は理解できると思います。しかし理論書としても、この本は実質的にジャズ和声理論とブラス・アレンジメントに重きが置かれている感じで(ブラスアレンジのハーモニーなんて、恐らく貞夫さんがサックス奏者だから、バークレーで専攻した科目だったとか、そういうんじゃないのかなあ^^;)、「なぜそのテンションなのか」という部分の説明は省かれていて、そうなるとベタ覚えになるのでチンプンカンプンになってしまう可能性もあるんじゃないかと思います。
良い所は、現在出ている丁寧な理論書ではあまり触れられていない部分もある所。モードとか、アッパーストラクチャー・トライアドの根本原理あたりの知識を最初に学んだのは、僕はこの本が最初でした。で、他にもジャズ・セオリーの本はけっこう勉強したんですが、アッパー・ストラクチュアの捉え方なんかは、全く違うアプローチのものもあったりするので、マジメに勉強したかったら「どっちが」じゃなくて「どっちも」あたらないとダメなような気がします。僕個人に関していうと、この本を読んでなかったら、モダン・ジャズの響きに対する理解は遅れていた気がします。あと…ある時期に日本で出ていたジャズ理論書の多くが、この本とほぼ同じ構成です。これは、ジャズスタディを参考にして書かれたからなのか、あるいはバークリーのメソッド自体がそうであったのか…。つまり、(少なくともある時期までの)ジャズ理論の大スタンダードな学び方がこれだったんじゃないかと。今からジャズを学びたいなら、僕個人としてはもっとおススメのセオリー本があります。でも、理論の勉強をする時って、教科書は同じ系統のモノでも3~4冊ぐらいは持っておかないと捗らない(どの本もだいたい一長一短があるので)と思うので、持っておきたいジャズ理論書ベスト5には入る本なんじゃないかと。
オマケですが…他にもこの本の面白い使用用途がありまして、この本を読んだ上で日本ジャズの黎明期からモダン化までの録音を聴くと、けっこう面白い事が起きます。例えば、ひとつ前の記事で書いた貞夫さんの『ジャズ&ボッサ』での演奏なんて、この本で「なるほど、きっとこのフォース・ビルドは貞夫さんが日本のプレイヤーに伝えたんだな…」な~んていうのがあったりして。なんか、日本のジャズがモダン化していく時期の録音を聴いていると、「あ、ジャズスタディだわ」と思う事が結構出てきます。たぶんプロの人も読んでたんでしょうね(^^)。。というわけで、この本自体が日本人ジャズ史みたいな所があるので、楽器を演奏しない人でも、日本ジャズが好きな人には色々と発見があると思うので、超おススメです!!
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