
ナベサダさん全盛期では無い頃の録音ではありますが、どうしても紹介したいアルバムが、これ。1993年のライブ録音、ウィズ・ストリングスです。今も続いているのかどうか分かりませんが、この頃のナベサダさんは、クリスマスにオーチャードホールでウィズ・ストリングスの公演を行うのが恒例になっていて、その録音というわけです。
ナベサダさんでウィズ・ストリングスというと、どうしてもチャーリー・パーカーを思い浮かべてしまうかと思うんですが、これは全曲ともブラジル調の曲が占めています。そして…
恐ろしく音がいい!!1曲目がいきなりバラードで、渡辺貞夫さん屈指の名曲"ELIS"から始まるのですが、このイントロのストリングスを聴いただけで鳥肌もの!!(ちなみに、ストリングス・アレンジはヴィンス・メンドーサ。すっげえ気合の入り方だ…)そして、いよいよ貞夫さんがテーマを演奏すると…うああああ、なんという表現力、ソロも書いたんじゃないかというほどの見事なラインです。演奏も音楽も素晴らしいんですが、このCDで一番すごいと思うのは、正直言ってこの録音です。この音だけで死んでもいいと思うほどに音がいい!!演奏や会場の響きがいいのは当然ですが、きっとレコーディング・エンジニアが超一流なんだと思います。楽器のバランス、会場の響き、空間の作り方…僕が聴いたウィズ・ストリングのアルト・サックス作品の中では、これ以上に良い録音のCDを聴いた事がありません。この
音を聴くためだけに買っても損は無いというぐらいの至福のサウンドを聴く事が出来ます!!
で、肝心の音楽の方ですが…曲としては、貞夫さんのオリジナル、ジョビン、ジルベルト・ジルの曲が演奏されるのですが、全てにおいてオーケストラ・アレンジがいい!!バンドはエレキ・ギターにエレキ・ベースの入ったモダン・ボッサ・バンドという感じなんですが、これがテクニック志向のジャズ・フュージョンに走らず、実に気持ちよくグルーブします。このバンド・コンセプトがなかったら、もしかしたら旧来のジャズのウィズ・ストリングスものと変わらない伝統芸に陥っていたかもしれないと思うと、目指していたものも素晴らしかったんじゃないかと(一歩間違うと軽いものになっちゃいそうで際どいですが( ̄ー ̄)。そして、貞夫さんのプレイが悶絶もの。若い時のバリバリのアルティストみたいな事はせず、美しく音を紡ぎ出して行きます。味ものの演奏となると、しかもサックスとかヴァイオリンとかのテクニシャンとなると、どうしても色っぽくやりすぎてしまうものですが、歌わせながらもやりすぎないこの加減というか、歌心と楽理的な挑戦が見事に調和した素晴らしい演奏。やっぱり、白髪まじりの年齢になったらこういう風に音楽したい。なんという理想的な齢の重ね方をしたんだろうかとため息が出てしまいます。
さてこのCD、発売元が今は無きファンハウス。超バブリーなレコード会社で、日本人ジャズの新作の録音にも結構力を入れて、幾つも良いレコードを残してくれました。これは、その中でも屈指の名盤なんじゃないかと。ものすごいメンバー、ものすごいアレンジャー、ウィズ・ストリングスの実現、入念に行われたと思われる完璧なアレンジと完璧なリハーサル…ファンハウスなき今、今の日本ではこういう録音は出来ないかも。全然有名な盤ではないと思うのですが、間違いなく
ナベサダさん生涯の会心作じゃないかと思います。超おススメ!!
スポンサーサイト