無伴奏合唱物で、暑~い南アフリカとは正反対の、寒~いロシアの物を。ロシアのフォークソングを、ロシア国立合唱団が歌ったものです。指揮はヴァレリー・ポリャンスキーで、一時期この合唱団の音楽監督を務めていた事もあるそうです。このCD,日本でも発売されていた事がありまして、邦題は『母なるヴォルガを下る』でした。
以前に
ロシア正教会系の合唱 のCDを紹介した事がありますが、東ヨーロッパからロシアにかけては合唱の聖地で、レベルが異常。バルチック・ヴォイス、グルジアの合唱(これなんて、バルトークか誰かが悶絶していた)、
ブルガリアン・ヴォイス 、
ロシア正教会の無伴奏合唱 …死ぬまでに一度は聴いておかないと絶対に後悔すること間違いなしの超絶の合唱です。
ところがロシア物の民間音楽というのは、民間が演奏した録音にあまり出会わないんですよね。これは多分旧ソ連時代に音楽が基本的に検閲の対象で、大衆にとってあまり良い物とされてこなかったからじゃないかと。音楽に対するこうした考え方はイスラム教なんかにもあります。で、当局が許すのは「ロシア的な何かを讃えたもの」だけだったみたいです。旧ソ連のクラシックの作曲家の作品の多くがロシア称賛的なものだったり、当局が気に入らない作品が抹殺されたりした事があったのは、そういう理由みたいです。そんなものだから、ロシア民謡も、いざ録音となると「ロシア国立~~団」みたいな所が演奏したものが多くなっちゃうんじゃないかと邪推します。これもそんな1枚なんじゃないかと。
だから、実際のこれらロシアのフォーク音楽が、こういう無伴奏合唱の形式で、まるで祈りの教会音楽のように歌われていたかどうかは、ちょっと僕には分かりません。普通に考えれば、そんな事は無いはず。だから、これを文字通り"TRADITIONAL RUSSIAN FOLK MUSIC"として聴いてしまうと事実とずれてきちゃうと思うんです。これを大前提として…
素晴らしすぎます。東欧~ロシア方面の無伴奏合唱に外れなし! 男女混声なんですが、よくぞこれだけのハーモニーを作り出せるものだと感心してしまいます。
しかし、当たり前ですが、合唱は全てロシア語(;.;)、何を言ってるのかさっぱり分かりません。。私はこのCDの日本仕様盤を持っているのですが(キングレコードが良くやる、輸入盤に日本語の帯だけつけて売るヤツです)、キングレコードの仕事がいい加減で、日本語訳がついておりません。ただ、英訳された歌詞がついているので、英語が分かる方なら何とかついていけるかも。で、私のつたない英語力で頑張って読むと…例えば「鐘は誰のために鳴る?そう、私たちのため。ヴァニーシャよ、鐘は話している、笑ってる?…」みたいな感じ(3曲目の男性ソロから始まる"Fur wen lauter us")。やっぱり悲しいです。ロシアの民間音楽って、根底に「悲しみ」とか「祈り」みたいなものが大事な要素としてあるんじゃないかと思ってしまいます。
「ロシアのフォークそのもの」ではなく、「ロシアのフォークを、ロシア正教の無伴奏合唱によってロシア的な祈りと悲しみの音楽に昇華させたもの」という風に、私には感じられました。人の深い所に触れる、荘厳な1枚。素晴らしい。
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