
リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲です。R.シュトラウスというと、僕にとっては何をおいても「
変容」なんですが、あれが素晴らしすぎたもので他の曲もいろいろ漁った頃があったのです(^^)。このCDも、そんな時に買った1枚。
R.シュトラウス(ああ、「R」をつけるのが面倒になってきた。他に「J」がいるからつけているんですが、次から省略します!)は、末期ロマン派を生きた作曲家で、「交響詩」と呼ばれる表題つきの音楽を作る事で有名。表題つきというのは、例えば「ミツバチの飛ぶ田園」みたいな表題がついていて、音楽はその表題を表現することになる…みたいな感じ。クラシックの場合、音楽は音楽以上でも以下でもないという考えがあって、表題はつけずに「ソナタ第1番」とか、音楽の形式と作品番号だけを示す事が多い。それと比べると、標題音楽というのは現在のポピュラー音楽に近い所があります。映画音楽なんて、まさにそのシーンの何かを音楽で描写するので標題音楽的になってくるわけです。
映画「銀河鉄道999」のサントラなんて僕は大好きですが、あれに作曲家は「交響詩・銀河鉄道999」なんていうタイトルをつけています。
でもって、この「アルプス交響曲」です。名前は「交響曲」なんですが、すべての曲に表題がついていて、これはもう「交響詩」といっていいんじゃないかと。表題を追っていくと、音楽は「夜」→「日の出」→「登り道」→「森へ入る」…みたいな感じで、アルプス山脈を登っていく感じで進んでいきます。で、多くの人が思い浮かべたように…途中で嵐が来ちゃったりするわけですよ(^^;)。。音のイメージも、今のハリウッド映画のサントラとそっくり。というか、それは順序が逆で、ハリウッド映画の管弦曲の方が、シュトラウスの交響詩あたりを参考にして作られているんでしょうね。みなロマン派音楽ですし、ほとんど常套句になっている表現もあります。しかしさすがは本家本元、シュトラウスの交響詩はものすごく良く出来てます!
ただし、僕個人は、こういうロマン派ベッタリの音楽は調的にもサウンド的にも安定しすぎていて、若い頃は「ああ、またこのクラシックの典型パターンか」という感じで好きじゃなかった。だから、買いはしたんですが、これを聴いたのは25年ぶりぐらい(n^。^)。で、久々に聴いて思ったのは…「ああ、映画音楽だわ」という、昔と全く同じ感想。ただし、
僕個人がものすごく気に入ったのは、最初と最後を飾る「夜」。最初は短調で、不穏なムード漂いまくり。で、これが途中で一瞬同主調転調するんですが(スンマセン、私は絶対音感がないもので、合ってるかどうかわからないんですが、最初のベース音がBbだとしたら(Cかも)、Bbm→Bbにダイレクトで移調する感じ)。これがレント(すごくゆったりした感じ)ぐらいのテンポで演奏されるんですが、たったこれだけの仕込みなのに、ものすごく雰囲気があっていい!!僕的には最初の3分と最後の1分の為の音楽ですね。ハッピーエンドで終わらせてもよかったのに、最後に夜に戻したセンスも粋だと思います。そうそう、このマイナーからメジャーへの同主調転調というのは、「暗い→明るい」という感じになるので、ハリウッド系の映画の「閉じ込められた→明るい所に出た」みたいなシーンでやたらと多用されたりします(^^)。
もう1曲の「ドン・ファン」。これはまさに「交響詩」とつけられた曲で、シュトラウスの交響詩の中でも初期のもの。単一楽章で20分ぐらいの曲なんですが、色んな女性とロマンチックな恋をして、最後には悲劇的な死を迎えるという流れで音楽が進んでいきます。この流れを知らないで音だけ聴いていると「よく分からない形式の音楽だなあ」で終わっちゃうと思うので注意が必要っす(^^)。これはアルプス交響曲より有名な曲だと思うんですが、たしかに音楽で物語を語ってしまうというのは、当時は斬新だったのかも知れませんね。
アシュケナージ指揮のこの演奏について。以前、
ピアニストとしてのアシュケナージの記事を書いた事があります。曲はショパン、演奏困難な曲をいとも簡単にサラッと演奏してしまうわけです(^^)。で、この傾向はこの演奏にも言えて、もっと溜めてドッカ~ンとしても良さそうなものなんですけど、けっこうサラッと演奏するんですよね。これはアシュケナージさんの音楽家としての傾向なんでしょうね。ただ、アルプス交響曲は重く感情的にやりすぎるとなんだかダサくなる気がするので、このぐらいの抑揚が適度な感じでよいのかも、な~んて思って聴いていました。でも情感たっぷりに演奏するとどうなるのかも聴いて比較してみたい気もする
けど、そこまで好きな曲でもないので、一生やらないだろうな(^^;)。 「変容」ほどの独創性はないんですが、むしろこういうものの方がシュトラウスらしい音楽なのかも知れません。僕個人にとっては、部分的には「おおお!」となる所はあるものの、全体として安定しすぎで物足りない音楽なんですが、劇的なロマン派音楽が好きな人にはツボに入る人も絶対にいる作品の気がします。実際、今もよく演奏され、録音も多いレパートリーですしね。とにかく、スコアの完成度は半端ない。これを書けと言われたら、僕なら仕事を止めて1~2年ぐらいこの作曲だけに専念しないととても書ききれない気がします(^^;)。それぐらいの情熱と完成度を持つスコアであることは間違いないっす!!