第9位 デケデケデケデケ…『Gil Evans, Steve Lacy / PARIS BLUES』!! エレクトリックピアノとソプラノサックスの音の美しさ、リラックスしつつすごく抒情的なプレイがたまりません!!これも昔よく聴いたCDなんですが、最近聴いていなかったものだから、久々に聴いたら感動がよみがえってきてしまいました。もし、今年がこのCDの初体験だったら、新鮮度も加わってもっと上のランキングだったかも。
第7位 『Russian Church Music』!! いや~、この神がかりの無伴奏合奏には度肝を抜かれました。また、旧ソ連時代は政治的に禁じられていた歌が、森の奥底に隠された秘密の境界で歌い継がれ、そしてソビエト崩壊とともに復活したというところがまたすごかった!それだけに、音楽のための音楽という感じではなく、本当に「祈り」そのものという感じなんですよね。これは凄い。絶対に聴くべきです。
第1位 さて、待望の第1位は…デケデケデケデケ…『喜多直毅 / Winter in a Vision』(ノ^-^)ノ!!! これは度肝を抜かれました!まさに衝撃、CDをかけ始めてから終わるまで、息もできないものすごさ(それは言い過ぎか)。タンゴなんて題材程度のものではるかその先を行く凄さ。喜多直毅さんも菊地雅章さんも近藤秀秋さんもそうですが、人気商売とかエンターテイメントなんてところにはまったく無関心で、徹底的に音楽そのものを突き詰めるストイックさとか凄さ…みたいなところに、一部の日本人ミュージシャンの共通項を感じます。これって、西洋のプレイヤーにはなかなか感じられない傾向。俗っぽい部分なんてはるか彼方、音楽のみを真剣に追及している真剣勝負の凄みを感じます。これも、大きな音楽誌がぜんぜん取りあげなかったのが信じられないレベルのものすごい音楽、歴史に残る大名作と思います。
ビリー・ホリディのレコードで一番有名なものではないでしょうか。名盤ガイドには絶対に出てくる1枚で、日本タイトルは『奇妙な果実』、ビリー・ホリディの自伝もたしかこのタイトル。レーベルはCOMMODORE RECORDS 、これは世界初のジャズ専門レーベルだったそうです。録音は1939年と、1944年。このレコードに収められた録音は4回のセッションに分かれていて、後日未発表音源も発表されています。
というわけで、戦後の日本へのジャズ流入期という時代を経験していない僕みたいな世代の人間のひとりとしての、僕なりの感想を。まずは音楽性。「ジャズ」という言葉に引っ張られ過ぎると、違和感を覚えるかも。バンドからして、ジャズ楽団と言い切っていいかどうか微妙、戦前のアメリカに数多く存在した「ビッグバンド編成の楽団」とだけ思っておいた方が良いと思います。だから、古いハリウッド映画で聴かれるような演奏と音の印象、"Fine and Mellow""I love my man" に至っては、Tボーンウォーカーあたりのビッグバンドつきのブルースに近いです。つまり、ジャズも映画音楽もショーも何でもこなすアメリカ特有のプロ・ビッグバンドが伴奏を務めた、商業的アメリカ音楽、が正解ではないかと。そういうものとして楽しめば、当時の社会情勢を知らない僕みたいな世代の人でも、純粋に音楽面だけを楽しめる気がしますし、音楽と評論の変なギャップに苦しむことからも救われると思います。 次に、音楽のクオリティについて。バンドは下手です。このセッションのアウトテイク集も聴いた事がありますが、バンドがとにかく合いません。ビリー・ホリディの歌については…美空ひばりみたいなもので、あれはうまいとも言えるけれど、そのうまいという意味が、純粋な技巧面だけではない点は認識しておいてよいかと。ビリー・ホリディの歌を「ものすごい歌だ!」とか褒められると、技術面を伴った凄さと思ってしまう可能性があるじゃないですか。うまいといっても、「技巧面のレベルが高い」「表現力がある」「味がある」というのは、違う事だと思うんです。当時のアメリカのビッグバンド楽団ではスコアを読めるヴォーカリストが重宝され、オーケストレーションを崩さないで綺麗にラインを取る歌唱が重宝され(エラもそういう意味ではスコアに忠実ですよね)…みたいな側面が最初にあって、その上でファンには好きとか嫌いとか、ムードがあるとか、そういう所にいい意味での「うた」が成立していた気がします。レディ・デイの場合、うまいには違いないんでしょうが、「味わいがある」的な意味でのうまいという部分が大きいと思うので、万人に成立するうまさとはちょっと違うと思います。だから、このレイドバックしたムードを楽しめるかどうか、というところが評価の分かれ目かも。
ふたつほど前の記事『サラ・ヴォーン / How long has this been going on?』のレビューで、「ピアノのオスカー・ピーターソンは歌の伴奏をしている時の方がスバラシイ」みたいなことを書きました。というわけで、ピーターソンさんの素晴らしい歌伴をもうひとつ。古き良きジャズ・ヴォーカルの代名詞、ビリー・ホリデイの最高傑作と名高いライブ盤です。日本では、むかしLPで『ビリー・ホリデイの魂』というタイトルで出てました。僕が持っているのはコレ。で、ここがちょっと問題になってくるので、ちょっとだけ覚えておいてください(^^)。
まず、久々に聴いた感想は…感動してしまいました。"Body and Soul" に"Travelin' Light"、"The Man I Love"…ゆったりしていて、バンドもあくまで歌の伴奏に徹してとても音楽的、なによりムードがスバラシイ。なんでジャズは大道芸みたいな小手先ばかりで、しかし歌心ゼロみたいな方向に進んでしまったのか。やっぱり心を動かしてこそ大衆音楽、な~んて思ってしまいました。しかし、僕は若い頃、ビリー・ホリデイがあまり好きでなかったんです。どこが良いのか、よく分からなかったんですよね。今から思うに、彼女について回る伝説とか、それを引用して評価するいろんな批評家の言葉に惑わされず、このレイドバックした雰囲気の音楽そのものにドップリつかってれば、それだけで最高だったんじゃないかと。バックにレスター・ヤングやらコールマン・ホーキンスやら、この手のムーディーなオールドジャズの名手がズラッと。このレトロな雰囲気、最高です。いや~、若い頃に早まって売ってしまわずに良かった(^^)。
さて、例のオスカー・ピーターソンの伴奏はB面に…というところで、ひとつ気づいてしまいました。このレコード、元々は10インチ盤(LPより少しインチが小さいレコードで、LPが出る前のジャズエイジはこちらが主流だった)だったようです。その頃は全8曲入りだったみたい。ところが、僕が持っている日本盤LP『ビリー・ホリデイの魂』は、A面にオリジナル盤収録の8曲を全部入れて、B面は日本のセレクトで別のライブから6曲を収録したものらしいです。いずれもヴァーブ専属の時代からの選曲の模様。ところが今CD化されているものは、オリジナルの8曲だけを収録で、このB面は入ってないようなのです。まあ、この方がオリジナルの意向そのままのわけですし、まとまりもいいかも。問題は…例のLP収録のB面のパフォーマンスがこれまた絶品なのです。"Everything I have is yours "や"My Man" のパフォーマンスは、胸に刺さってしまいました。どちらも1952年録音、つまりプレスリーよりも古い録音ですが、そんなに古い録音とは思えないほどの演奏と録音。で、この2曲でピアノを演奏しているのがオスカー・ピーターソンなんですが、やっぱり素晴らしい。B面では"Stormy Blues"という曲でのトランペットの演奏も絶品(トニー・スコットか、やっぱり名前を残した人の演奏は、それなりのものがありますね~)。ジャズがブルースや他の音楽と分化する前の音楽…というムードが漂ってます。これもレイドバックした感じで、気持ちよくって、でも少しブルーで、いいな~。で、この曲は他のアルバムで聴くのがちょっと難しいそうで(昔のLPに書いてある情報です)。
ひとつ前の記事で紹介したサラ・ヴォーンの『How long has this been going on?』 のジャケットから入ると、この細い体の女性が同じサラとは思えません。えっと、『How long....』が78年録音に対して、こっちは61年録音か、人間は17年も経つと太るという事なんですね(^^;)。これ、久しぶりに聴いたんですが、大好きなアルバムなんです。
アルバムタイトルになっている「アフターアワーズ」というのは、ミュージシャンが仕事のライブが終わって打ち上げとかで別の店に行って、そこで楽しみとして歌ったり演奏したりすること。リラックスして構えていない、みたいなことをタイトルで表現しようとしたんだと思いますが、このアルバムでは伴奏がギターとベースのふたりだけというところに、それがあらわれてるかも。マンデル・ロウ(白人ギタリストで、かなり渋い!)と、ジョージ・デュヴィヴィエです。僕はジャズヴォーカルのアルバムを買うとき、なるべく編成の小さいものを買うんですが(カルテットでも多すぎ、それ以上になると歌が埋もれて聴いてられなくなっちゃう>_<)、ドラムレスのこれは素晴らしい!!特にギターが、弾きまくったりは決してしないんですが、すごくムーディーで気持ちいいです。1曲目"My favorite things" は、コルトレーンがやったああいうバリバリ系演奏じゃなくって、サウンド・オブ・ミュージックの元アレンジに近い形で、すごく清廉。いやあ。これはいいなあ。続く"everytime we say goodbye" は、チェット・ベイカーの名演を上回るんじゃないかという素晴らしいパフォーマンス。これも派手な事はまったくしないんですが、ものすごくゆったりしつつもアレンジが素晴らしい!!このアルバム全体に言える事ですが、楽曲を活かすマンデル・ロウさんのギターのアレンジと演奏が素晴らしい!!ジャズギターって、指を速く動かし、インターパートになると待ってましたとばかり弾きまくる方向にどんどん走っちゃいましたが、ジャズギターのあのあったかい音色を活かすなら、今の人もこういう方向の音楽のあり方も残してほしいと思います。
最初の注目はオスカー・ピーターソンとジョー・パスというふたりの伴奏。このふたりはどちらも大御所なので、リーダーのインスト録音も死ぬほどいっぱい出てます。でも、どちらも歌伴の方が良い演奏をするというのが不思議。ジョー・パスなんて、代名詞のギターソロや自分のギタートリオだと頑張って弾きまくっちゃって、けっこう小手先でアタフタした演奏になっちゃうんですが、歌伴になるとものすごく表情豊かに演奏して、まるで別人。このアルバムの7曲目"My Old Flame" はギターだけで伴奏してますが、本当に素晴らしい!このデュオは名演です(^^)。あ、そうそう、リンクを張らせていただいているブログ「ジョーパスを弾こう!」さんがソロギターの採譜をしてくれている"More than you know" も、カルテットで、しかもヴァースからフルで演奏してます!!冒頭がアランフェスみたいなスペイン調にしてあるんですが、これは遊びかな(笑)。 オスカー・ピーターソンも同じで、歌伴になると、「ポロ~ン」って、実にさりげないオブリを放り込んでくるんですが、これが鈴の音みたいで本当にセンスがいい!!"You're Blase"のイントロ部分のピアノなんて本当にさりげないのにタッチが優しくて美しくて、これを聴いただけで緊張が見事に解けちゃいました(^^)。もうひとつ素晴らしかったのが、"Easy Living"。これは前に紹介したカーメン・マクレエのアルバムで、やはりジョー・パスがめちゃくちゃ素晴らしい伴奏をしてますが(ピアノはジミー・ロウルズのカルテット)、このレコードの演奏も素晴らしい! そして、主役のサラ・ヴォーンですが、黒人の太ったジャズ・ヴォーカリストに下手な人はいないわけでして(ノ゚ー゚)ノ、これもいい。ただ、ちょっと口を開きっぱなしで歌ってるような感じがあって、若干ルーズに感じるかな?でも、それ以外は技術も歌心も完璧です!!ひどいポピュラーばかりになった昨今、こういうレベルのヴォーカルを聴かせてくれると、本当に「ああ、いいな~」とため息が出ちゃいます。やっぱりプロはこうあってほしい(^^)。