
これは高校生ぐらいだったかな?これと『ボーン・イン・ザ・USA』だけが、リアルタイムで聴いたスプリングスティーンさんのアルバムです。しかし、僕のまわりでは(とくに、スプリングスティーンが好きという友人ほど)このアルバムの評判は悪かったです(^^;)。ロックにしては静かなんですよね。「Tシャツで汗かきまくりながらステージで絶叫するロック・シンガー」みたいなスプリングスティーンのイメージから離れているので、ファンの人ほど違和感を覚えたのかも。しかし、僕は『USA』よりはこちらの方が断然よかった(^^)。きっと、
キング・クリムゾンとかを聴いていた身にしてみれば、アメリカン・ロックのバンドアレンジは退屈だったんでしょうね。だったらいっそ、アコースティックで、ロックとは違うアメリカな部分を出してくれた方が、自分にとっては新鮮だった。でも、記憶だともっとフォークギターだけみたいなイメージだったんですが、改めて聞くと、シンセが入ってたりバンドで演奏していたり、意外とロックでした(^^)。人間の記憶なんて、当てにならないなあ。
このアルバムで
印象的だったのが、1曲目"Ain't Got You"。フィンガースナップに合わせた野太い声だけで始まり、途中でアコースティック・ギターとハーモニカが入る。これだけなんですが、このギターが空ピックが入りまくりのかっこいいカッティングで、またファンクのそれと違って凄い速度感。ジョン・レンボーンとかジョン・フェイヒーとか、まだそういう音楽を知らなかった頃なので、「うわ、なんだこれ?!どうやって演奏してんだ?」と、軽くショックを覚えました。ただこの曲、アルバムのイントロダクションみたいな使われ方ですぐ終わっちゃうんですけど(^^)…。で、僕はギターは簡単なコードを押さえるぐらいしかできなかったので、ギターを演奏している友人に尋ねたら、「ああ、これは結構単純で、こんな感じでやるんだよ」とやって見せてくれたんですが、全然切れ味が違う…とはいえ、やり方だけは理解できました。この曲は衝撃だったなあ。
もうひとつ印象深かったのが、フォークギターのアルペジオとハーモニカでしっとりとうたわれるフォーク調の"Cautious Man"。アメリカの広野が目の前にブワッと広がっちゃいました。この曲、途中でシンセがうっすら入っちゃうんですが、僕にとってはこれが余計。他のしずかめの曲でも、シンセのパッド音みたいなのを安易に使っちゃってて、これがアルバムを軽いものにしちゃって、ちょいマイナス。でもこのアレンジセンスって、80年代の風潮なんでしょうね。
で、いつものごとくスプリングスティーンさんで僕が注目してしまうのは詩。
このアルバムは詩の内容が輪をかけて私的なニュアンスを増している感じ。「スペア・パーツ」は、「どうせ俺はお前にとって誰かの代用品なんだろ」とか。"One Step Up"なんて、その後に"two steps back"と歌っちゃってますし。でも、情景描写とかがすごくしっかり歌われるので、凄くリアルに伝わってきました。労働者ががんばってもなかなかうまくいかないで、「また2歩後退か…」みたいなのが、目の裏にブワッと浮かんじゃう。やっぱり僕にとってスプリングスティーンさんは詩の人です(^^)。そして、アルバム最後の"Valentine's Day"の詩。ルート39の脇のジュークボックス、昨日友人が父になり、俺は空と川の光を聴いて…ジワッと涙が出ちゃいました。日本語だと伝わりにくいかもしれませんが、英語って普通に話しても、語彙が日本語のように多くないから、表現が比ゆ的になってくるじゃないですか。それを良い方に使っているというか、"hear"は"feel"ぐらいの感じじゃないかと思うんですが、あえてそれを「聴く」と表現するのが美しい詩だなあ、と。この詩の世界感を知るだけでも、このアルバムを聴く価値はあるんじゃないかと。
というわけで、世間的には低評価、しかし僕にとっては「僕の好きなスプリングスティーン」の入り口になってくれた、思い出深いアルバムです。
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