
うちのレコード棚で一番好きなコーナーはフリージャズの棚。この生々しさがたまらない!ところが、手持ちのCD/レコードを減らすために、売ろうかどうしようか悩んでいるものばかり先に聴いていると、好きなコーナーほどなかなか聴かないという悪循環に(^^;)。輪をかけて、フリージャズを聴いていると奥さんが「これはデタラメじゃないの?」と毛嫌いするもので、ひとりの時じゃないとフリージャズや現代音楽を聴けないというのも痛いです。。
そんな中、持ってたけどあまり聴いた記憶のなかったLPがこれ。70年代フリージャズの主役のひとり、アンソニー・ブラクストンの有名なレコードのひとつです。レーベルはBYG Actuel、フリージャズの有名なレーベルのひとつです。このレコードは1969年の録音。どれどれ…いや~、なんと形容したらよいのやら、えらくチープに感じる所もあれば、素晴らしいと感じる所もあり。なるほど、若い頃の僕には評価不能の音楽だったのかも(^^;)。でも、その分からなさ加減も魅力のひとつかも知れません。哲学書で、読み終わったものの訳が分からなくて、でも「なんかすごい本だった気がする」みたいなものって、ないですか?それと似た感じだったのかも(^^)。さて、ブラクストンはキャリアを積むごとに凄いプレイヤー&つまらない作曲家になっていきましたが、若い頃はいい意味でかなり怪しいムード。このアルバムはデビュー作の『
3 composition of NEW JAZZ』と匂いが似てます。メンバーは、ブラクストン(sax, clarinet, flute, accordion)、レオ・スミス(tpなど金管)、ルロイ・ジェンキンス(violin などの弦、harmonicaなどなど)、スティーヴ・マッコール(percussionなどなど)のカルテット。シカゴ周辺のロフト・ジャズと言われたシーンでよく名前を見た人たち、という感じかな?
収録は全3曲。ブラクストンさん自身の曲はB面で20分近く演奏されます。ただこれは曲という感じとはちょっと違って、特殊な奏法とか(ガサゴソいう現実音だけとか、録音のフィードバック音みたいなのとか、ジャズなのにそういうものまでアリというのが面白い^^)を間に挟みながら、いきなりトゥッティが決まったり、突然誰かのアドリブソロが展開されたり、みたいな感じ。B面始まって5分ぐらいしてから唐突に始まる最初のソロはブラクストンさんですが、これが例のアルトサックスの超高速プレイ。これに続いてジェンキンスさんのヴァイオリンソロ、ドラムソロに最後はトランペットソロ、みたいな感じですが、ジャズ的なソロオーダーとは全然違くて、各プレイヤーのソロになだれ込んでいくまでの音楽の作り方が面白い。ある部分はフリーで、トゥッティになる部分だけは書いてある感じ。これはなかなか面白いです(^^)。
残る2曲はA面収録で、最初がトランペットのレオ・スミスさんの曲。怪しいメロディをトゥッティしてテーマにしている点がかなりバップ的というか、フリーとはいえ第1世代寄りの音楽のような印象を受けます。このフロント楽器のトゥッティ部分とフリープレイ部分を組み合わせて作ったような曲なんですが、これもやっぱり
アンサンブルとそうでない所の間にある演奏が面白くて、怪しいムード満載(^^)。
普通のジャズとかロックとかクラシックを聴いていると、全部が調性内とかリズム内だったりして、どこまでいってもルールでがんじがらめで単純というか、ヤバさが足りないと思う時があります。フリージャズやインプロヴィゼーションでも、最初から最後までカオスしかないものは大嫌いなんですが、秩序とカオスを行ったり来たりするタイプのフリージャズや現代音楽は、私にとっては至福です(^^)。最後がジェンキンスさんの曲で、これが一番曲らしいかも。面白いのは、たぶんブラクストンさんがアコーディオンを演奏してるんですが(クレジットにはないんですが、LPにはブラクストンさんがアコーディオンを演奏している写真が載ってる)、これがずっと和音を出したまま変化していくので、モード曲みたいになっていて面白い。曲調としては、東南アジアの農村部で聴ける笛の音楽、みたいな印象で、牧歌的でよかった。
これだけ書くとめっちゃくちゃ素晴らしいアルバムのように感じられるかもしれませんが、この創造的な部分とは裏腹に、演奏がちょっと荒い(雑?)。録音もすごく悪い。「これ、ちゃんとした録音だったらけっこう凄い音楽に聴こえたかも」と思ってしまいました。最近、録音って実はすごく大事なんじゃないかと思うようになってきました。プレイの内容が同じでも、録音やミックスで駄作にも名作にもなっちゃうというぐらい大事なのかも。
この、
創造力に溢れている感じと、プレイが追いつかず、録音の予算も足りないアンバランスな感じが、フリージャズ第3世代、シカゴ周辺の音楽の特徴かもしれません。もし、インパルスとかブルーノートが彼らを拾っていたら、全然違った展開になったかもしれない…いや、フリージャズはジャズファンの間でも「わけがわかんない」とか言う人が結構いるから、それは無理か。。演奏や録音の粗さに目をつぶることが出来るのであれば、楽しめるアルバムではないかと思います。やってる事は思いっきり創造的で、めっちゃくちゃ刺激を受けます!!僕はフリージャズ大好きなので楽しめましたが、そうでない人にはどうかな?
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