
クラシックといえば8割方ドイツなんじゃないかというほどドイツ優勢。それに対抗できる独特な語法を編み出した文化というと、真っ先に上がるのがフランス。去年の末、スランス音楽のパイオニアとして、
フォーレという作曲家のディスクを何枚か紹介しました。でも、フォーレやサティはたしかにパイオニアとは思うんですが、でもフランスの代表的作曲家というと、ちょっと違う気がします。じゃ、誰が代表かと考えると…やっぱりラヴェルかドビュッシーになるんじゃないかと。特にドビュッシーは、ドイツ音楽とは違う4度堆積和声とか、長調でも短調でもない旋法の使用とか、以後のフランス音楽のこの流れを決定づける作品を連続で書き残したので、ひとりという事になるとドビュッシーが代表格かも。ラヴェルは、時代によって作風がけっこう変わったりするんでね( ̄ー ̄)。
ドビュッシーには管弦楽にも室内楽にも名曲がたくさんありますが、これはピアノ独奏です。ドビュッシーのピアノ曲というと"Images"(映像)とか"Estampes"(版画)、それに前奏曲集あたりが有名。特に、
「映像」と「版画」は、この手のフランス音楽に「印象主義」という名称を与える決定打になった作品。というのは、ドイツの音楽が、始まりがあって、劇的な出来事があって、山あり谷ありで最後に物語の結末につく…みたいなドラマティックな展開なのに対し、ドビュッシーの音楽はあまり変化せず、その瞬間瞬間の音の色んな音の重なり方の「感じ」「印象」が支配的、という意味で、「印象主義」と言われるんですね。
特に、「映像1集」に入っている「水の反映」は、何故これらの音楽が「印象主義」と呼ばれるのかがすぐ分かるぐらいに色彩感が凄いです!!油絵というより、水彩画の鮮やかさに近いでしょうか。このディスクには、この2曲が入ってます。一応、収録曲を書いておくと…
・映像 第1集
・映像 第2集
・ピアノのために
・版画
・英雄的な子守歌
・ハイドン讃
そしてこのディスク。1953年の録音、
演奏はあの伝説のピアニスト、ワルター・ギーゼキングです!ギーゼキングという人、特殊な練習をしなくても、どんなピアノ曲でも演奏できたといわれてます。また、初見もべらぼうに強くて、楽譜をしばらく眺めたらすぐに暗譜出来てしまうほどだったそうで。これって、要するにソルフェージュ能力が圧倒的に優れているんだと思いますが(この辺の事は、
以前に紹介したグールドについての分析本に詳しく書いてありました^^)、つまりは音と運動のイメージを先に全部作ってしまってから演奏に入るんでしょうね。そして、印象主義のスコアから感じるものをふわーっとした音で演奏してしまう、ギーゼキングの演奏能力&イメージングが凄い!!ピアノって、指の上では鍵盤を叩いて以降はもう音色をコントロールできないじゃないですか。音色のコントロールが、直接弦に触れて演奏しているギターなんかと比べると、それは泣きたくなるほど(;_;)。つまり、
色んな音を混ぜてニュアンスを作る方向には優れてるけど、1音を色々な音色で弾き分けるのがかなり難しい楽器がピアノ。なのに、ギーゼキングはピアノから色々な音色を引き出してしまいます。このマジックはペダルにあるのは分かってるんですが、それにしてもここまで色彩感覚が凄いと、本当にマジックです。鮮やか過ぎ、美しすぎる…。また、太いのに重くなくって丸いこの音の感じは、戦前ベヒシュタインかな?いいな~、こういうピアノ触ってみたいな~。。
ただ、録音が古いので、録音の音が良くないです。「サー」っていうノイズがとか、鮮明さとかが、ちょっとね…。でも、
「伝説の巨匠」の見事な演奏と、フランス音楽がいよいよ独自性を持ち始めた時の代表曲のふたつを同時に楽しめる感動的なCD。これは多くの人に推薦したいです。必聴!!