
グレッグ・レイクさんが他界してしまいました。僕にとってのグレッグ・レイクといえば、もう間違いなくこの1枚。ロック史上でも屈指の名盤のひとつ、キング・クリムゾンのデビューアルバムです。1969年発表。こんな凄いうえにすでに大有名なレコードについて、僕なんかが書けることなんて何もないんですが。。
このレコードの何にビビったかというと、このレコードが出る前までのロックやポップスとは段違いの演奏テクニック、そしてこれまた段違いのアレンジ能力でした。だって、このちょっと前というと、6年前でやっとビートルズとかストーンズがデビュー、2~3年前でようやくクリームやジミヘンが出てきたぐらいなもので、ロックは色んな意味で若い音楽、その中でちょっとしたアドリブを取れるとか、ちょっと演奏がうまいとか、どんぐりの背比べぐらいのところでスターになっちゃうようなジャンルだったと思うんですよ。ところが、いきなり演奏のレベルも音楽のレベルも段違いのものが出てきた!ついでにいうと、詩のレベルもいきなり文学詩調。「混沌は私の墓碑銘となるだろう」なんて詩、これまでのロックではあり得なかったと思います。
クラシックの管弦楽法を学んだようなアレンジ(たぶん、イアン・マクドナルドとロバート・フリップなんでしょうね)に、ジャズ系のインプロヴィゼーションの技法を学んできたとしか思えないドラマーがドカッと構え、さらにこれまでのロックではありえなかったような素晴らしい録音…鳥肌が立ちました。僕にとってのキング・クリムゾンの最強のレコードは、「
太陽と戦慄」「
暗黒の世界」「
レッド」の3枚と、
その時期のライブなんですが、このファーストが無ければ、あの衝撃の音楽に出会う事もなかったんじゃないかと思います。
あまりに有名な「21世紀の精神異常者」は、このあと最初の解散まで、ライブでスゴイ大名演がいくつも生まれますが、このデビュー盤の「21世紀」でビビらされるのはマイケル・ジャイルスのドラムです。これはロックのセッションなんてレベルじゃない、ほとんどジャズミュージシャンクラスの演奏です。そして、それ以外の曲は静か目の曲が多いんですが、そこでは木管楽器やメロトロン(ここではストリングスオーケストラの音を録音して使っている)のアレンジが素晴らしすぎ。でもここまでだったら、キング・クリムゾンは「うまい」とか「うつくしい」とかいうだけで終わったかも。すごいのは、ロックとかジャズとかクラシックとかのいい所を全部取ったところじゃなくって、その最前線をやろうとしたところなんじゃないかと思います。、その先鋭的な感覚がはっきりと形になってくるのは、もう少し後になってからだと思うんですが。。
僕はいつもこのアルバムの見事な構成力に打ちのめされてしまいます。後半の「ムーンチャイルド」から「クリムゾンキングの宮殿」の流れなんて…。このレコードを聴いた事がないなんて人は音楽ファンの中にいないでしょうが、それも当然の大名盤だと思います。
(2023年10月追記) ロックの中で自分が一番好きなバンドを挙げろと言われたら、僕はキング・クリムゾンを挙げるかも。初体験は中学生の時で、それ以降も色んなロックバンドを聴いてきましたが、70年代のクリムゾンを超えるロック・バンドなんてなかなか登場できないんでしょうね。少なくとも、ロックが今みたいにリスナーを気にしているうちは無理な気が…。
以前、このバンドの初期ラインナップでヴォーカル/ベースを弾いたグレッグ・レイクが亡くなった時に、追悼の意味でこのアルバムについてちょっと書きましたが、今回ユーチューブ動画を作るにあたって、久々に聴き直しました。今回は、改めてその感想を。
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このアルバムを初めて聴いたときに、僕は中学2年生。それまで聴いてきたロックとのあまりの違い、そしてその壮大さに、間違いなく魅せられたんですよね。何処にそこまで魅せられたのか…このアルバムを聴きながら当時の記憶を追って思い出すに、少なくとも5つの点は衝撃でした。
第1は、アルバム全体でひとつという構成力の高さ。前半の「21世紀の精神異常者」から劇的に消え去っていく「墓碑銘」に至る流れの素晴らしさも、後半の幻想的な「ムーン・チャイルド」から墓碑銘の変奏のように木霊する「宮殿」までの流れは、このアルバムの5曲がひとつのシンフォニーと思えるほどでした。たまに聴く「ムーンチャイルド後半の”Illusion” が退屈」というのですら、当時の僕には宮殿に繋ぐために必要不可欠な溜めに感じたんですよね。
第2は、当時の僕が「クラシックとロックの融合だ」と思ったそのオーケストレーション。中学生の頃は、ジャズとは思いませんでした…そもそも、その頃はジャズはほぼまったく知りませんでしたし(^^;)。これは、ビートルズのようなアイドル・バンドが、曲を録音した後に弦アレンジを高に任せてオーバーダビングしたというレベルのものではなく、「墓碑銘」や「宮殿」のそれ等はむしろストリングスを先に作ったのではないかと思ったほどでした。
第3は、それをクラシックのパクリに思わせない独特の世界だと感じさせられたメロトロンの音…これはサイケ色が強かったころのピンク・フロイドもそうですが、初期のプログレが持っていた「新しい音楽」を感じさせた大きな要素だったように思います。ほら、メロトロンなんてとんでもなくメンテが面倒くさいのに、デジタル・シンセが出たあともずっと需要がありましたよね?あれって、もうその8割がこのアルバムの影響だったんじゃないかと(^^;)。
第4は、それまでの恋だ酒だと謳っているロックやポップスと一線を画した詞。「混沌こそ私の墓碑銘」なんて詞、それまでのロックやポップスどころか、どんな音楽でも聴いた事がありませんでした。ボードレールやマラルメという詞を僕が読むようになるのはもっと何年も後だったし、やっぱり唸らされるものがありました。だいだい、作詞だけ担当している人(のちに、それだけじゃなかったことを知りました)がメンバーだというのも凄いと思っていました。
最後の5番目は、録音の素晴らしさ。僕が聴いたのは、ロバート・フリップが立ち会って行われたリマスター盤CDで、それってモバイル・フィデリティ・サウンド・ラボが絡んだやつだと思うんですが、とにかく当時は「なんて音がいいんだ」と感じて驚きました。今では色々と思うところもあるんですけどね。。
というわけで、
はじめて聴いた頃の感慨は、壮大なシンフォニックなロックという所に感動の多くが集まっていた気がします。
さて、時は流れて大学時代。
はじめて聴いてから6年ほど経ってから耳を奪われたのは、7割方はマイケル・ジャイルズの凄すぎるドラムでした。なんでこんなにスネアやキックの音をミュートしてしまうのかとは思いましたが、あの時代のロックのスタジオ録音って、かなりの確率でレコーディング・エンジニアにキックとスネアの音を止められたらしいですね。バスドラには毛布を突っ込まれて、スネアにはガムテープを貼られて、みたいな(^^;)。昔は「なんてすごい良い音の録音なんだ」と思っていたものが、自分が作り手側に近づくにしたがってそれなりに不満点も感じるようになってきたわけですが、それにしてもドラムのプレイ自体は強烈、凄すぎでした。ほら、「21st century…」と謳った直後に、ドラムが1小節だけフィルのソロを貰うじゃないですか。あそこのフィルの組み立て、異常だと思いません?普通なら、3拍めにシンバル叩くか、16分でタムを回すか、スネアをロールするか、このへんだと思うんですが、32分を3つ1組にして、休符で区切りを入れる形にしてますよね。あんなの思いつくのだって難しいよ…。
そして、同じく「精神異常者」でのグレッグ・レイクのベースライン。つまり、シンフォニックだと思っていた音楽の裏に、ものすごいジャズからの影響と高い演奏技術を感じたんですよね。クリムゾンの代表曲みたいに言われている「21世紀の精神異常者」って、実はそんなにいい曲じゃないと思いません?ユニゾン部分はいかにもハッタリにしか聴こえないし、そもそもユニゾンって演奏自慢のバンドがやりがちな実にダサい手だと思うんですよね。チック・コリアの「スペイン」とか、なんかいかにも子供だましじゃないですか。ただ、それが代表曲と思われるほどに評価されるのって、曲じゃなくて演奏の凄さだと思うんですよね。この曲って、実はジョン・ウェットンらが参加した時期の演奏が更にすさまじいんですが、このレコードのテイクの凄さは、8割方リズム・セクションの素晴らしさにあったのだと僕は思っています。
というわけで、上の事を総合して言えば、オーケストレーションを含めた作編曲、作詞、驚異的な演奏レベル、そしてアルバムを構成力…と、ほとんどすべての面でそれまでのロックのアルバムを凌駕したわけですがから、そりゃ歴史的な名作にならないはずがないですよね。むしろ、これを理解できないのだとしたら、それは作り手側でなく聴く側に問題があるとすら思えます。
これだけの名作はアルバムでオーバーダブを駆使したから出来たのだ…と僕はずっと思っていたんですが、実はこの初期ラインナップのキング・クリムゾンって、ライブがすさまじいんでっすよ!そして残念なことに、この驚異初初期ラインナップのクリムゾンは、このアルバム壱枚を残して空中分解。崩れかけたクリムゾンを何とか立て直そうとするロバート・フリップの戦いは、多くのプレーヤーから恨みを買いつつ、進んでいくのでした。。