
ペルシャは現在イランと呼ばれてます。ペルシャは西洋から見た呼び方であって(日本をジャパンと呼ぶようなもの?)、欧米と犬猿の仲になったペルシャはそれに反発して国名を自国での呼び方であるイランに代えた歴史があるみたい。そして、ペルシャといえば魔法のじゅうたん・・・じゃなくって詩。オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」なんかもペルシャです。詩をリスペクトする傾向は音楽にもあって、ペルシャの古典芸術音楽(インドもそうですが、世俗音楽と芸術音楽は明確に区別されてる)では、ルーミーやハーフェズといったイスラム教の神秘主義系の古典詩が使われる事が多いそうです。このCDもそうした流れにあるペルシャの古典芸術音楽です。ペルシャの芸術音楽はアーヴァーズ(avaz)という即興的でルバート的な部分と、タスニーフ(tasnif)という作曲されたインテンポな部分で構成される事が多くて、これが同じコーラスをくりかえすアメリカンソング形式に慣れてしまった僕みたいな軟弱者からすると、要所要所はスケールとか定型フレーズとかを使うという意味でジャズ的なアイデアで演奏されるけど、形式はまさに芸術音楽。最初があってドラマがあって最後にたどり着くという、壮大な音楽を聴く事が出来ます(^^)。
まず、聴いてびっくりするのは、女性ヴォーカルがヨーデルみたいに地声と裏声を高速で切り替える歌唱。これ、ペルシャ音楽ではタハリール(tahrir)というテクニックらしいんですが、僕はヨーデルは聴いてて笑っちゃうんですが(^^;)、ペルシャの声楽によく出てくるこれはすごい。あと、ペルシャの音楽って芸術音楽系とそれ以外でレベルがけっこう違うんですが、芸術音楽系は楽器演奏者のレベルが高いです。このCDは歌重視の感じですが、それでも楽器演奏の妙はかなり堪能できます。あと、ペルシャ音楽やインド音楽は7音音階が多いので、実はけっこう西洋音楽に似てます。違うのは、モードだったり転調感のさじ加減。
1曲目は西洋でいえばハ長調ですが、途中の転調パートではH音をフラットさせてBとなっていて(実際には1/4かも?)、これがすごくペルシャっぽくてゾクッと来ます。そして、この手の仕掛けがいろいろあった後にインテンポのタスニーフになった時の快感といったらないです。1曲目は、イントロ→アーヴァーズ→タスニーフという単純な構造ですが、それだけで見事なドラマ。
2曲目はネイ(篠笛みたいな管楽器)大フューチャーの、メフレヴィー教団の開祖ルーミー(イランではモウラヴィー)の曲。メフレヴィー教団というのは、音楽に合わせて踊りながら無意識の境地に入っていって神と合一するという教団です。スケールは、微分音程を無視して言えばFのナチュラルマイナーかな?これも、アーヴァーズ→タスニーフという順ですが、実際の宗教儀式ではなくって日本での公演という事もあってか、長時間で狂ったようになる前にコンパクトにまとめてます。
3曲目はいきなり歌入りのタスニーフからで「おお、こういうのもあるのか!」と思ったんですが、解説を読むと、編集でタスニーフ部分だけを取り出しただけみたい(^^;)。。でも、よく聞くと5拍子じゃないですか。ゆったりしてるから気づかなかったよ。さすが芸術音楽だけあって、色々な所に工夫があるなあ。
4曲目はインストのタスニーフから始まり、以降はアーヴァーズとタスニーフが交互に出てくる感じ。詩はハーフェズという14世紀のペルシャの有名な詩人の詩で、形式はガザル(5詩句から10詩句が一般的)という形式。昔、カッワーリーというペルシャの歌曲のCDを紹介した事がありましたが、そこで使われる事が多い形式でもあります。この曲、スケールがめっちゃエキゾチックで、いかにも中東(^^)。西洋的なスケール名がハマらないんですが、しいていえばコンビネーション・オブ・ディミニッシュドに近いのかな?解説書に書いてあるのとは違いますが、聴いた感じだとG・A♭・B♭・C♭・D♭・E♭・・・みたいな。いや~、これはメッチャクチャ芸術的だわ、すばらしい。
というわけで、ペルシャ古典芸術音楽というと、もっとハードな演奏のものもけっこうあるんですが、このCDは詩に注目して、ゆったりした感じの演奏や曲のものでした。これは日本の民俗音楽研究の権威だった小泉文夫さんがディレクターを務めたビクターのワールドミュージックシリーズの1枚ですが、小泉さんの意図かな?イラン芸術音楽の歌音楽をフルで収録したというより、いい所取りのガイドCDみたいな感じですが、かなりゾクッと来るCDでした(^^)。あ、あと、日本録音という事で、録音がメッチャクチャよかったです。。