
1980年制作の、アメリカの恋愛映画です。普通のラブロマンスと違うところは、タイムトラベルが絡んでいる事。いい映画と検索すると必ず出てくるぐらい支持する人の多い映画ですが、僕はこのタイムトラベル部分だけが気にかかってなかなか見なかったんですが、ある日ついに観たのでした。決め手は、主役が「
スーパーマン」を演じたクリストファー・リーブだったから(^^)。
主人公は脚本家志望の大学生リチャード(クリストファー・リーブ)。彼の処女作上演パーティーに、品のよい老婆が来て、意味深な言葉を残して去ります。その後、夢かなって脚本家となったリチャードでしたが、ふと滞在したホテルに飾られていた女性の写真に魅入られてしまい、彼女に恋してしまいます。この写真は、昔このホテルで公演した女優の写真で…
最初観た時の感想は、いい映画だけどやっぱり時間旅行というところがちょっと興ざめだな…みたいな。胸がギュッとするいいラブロマンスなんです。だからこそ、なにも時間旅行なんていうギミックを使わなくたっていい作品にできたんじゃないか、と思っちゃったんですよね。この部分は今もそう思うんですが、なんども見ているうちに、それが気にならないぐらいに
好きになってしまったのです。理由は音楽。素晴らしいラブロマンスに胸を締め付けられそうになるんですが、その効果は、ストーリーや芝居や映像だけでなくて、音楽が大きかったんじゃないかと。この映画で重要な曲は主にふたつで、ひとつは
ラフマニノフの「パガニーニの主題によるラプソディ」、もうひとつは映画のメインテーマです。音楽については、サントラの感想をあらためて書くとして、これがロマン主義音楽の神髄みたいな音楽である事が重要なんじゃないかと。
さらに、音楽に感動しはじめると、他の効果が。今でいう「ロマンチック」って、ムードがあるみたいな意味になってる気がするんですが、18世紀19世紀のロマン主義って、文学でも音楽でも、もっと神秘主義とか個人尊重とかをないまぜにした思想だと感じるんですよね。ラフマニノフもそうだし
マーラーなんてもっとそうですが、そこにあるロマン主義の何に感動するのかというと、そのとんでもなく美しい響きと、それがやがて終わるという事。むずかしい事じゃなくって、長時間続く至福のロマン主義交響曲を聴き終わった後のあの感慨、あれです。あの感覚って何かというと、劇的で長大な至福の音楽の終わりは、劇的で長大な至福の人生の終わりと何が違うのか、ということなんじゃないかと思っています。つまり、ロマン派音楽の感慨の行きつくところって、それが人間の人生の象徴となっている、と感じるんです。
この映画の場合、映画の中でロマンスがあり、そしてそのロマンスからひとりの人間の死までという一生が、タイムトラベルをギミックとして圧縮して描かれます。これはロマン派音楽の交響曲や協奏曲とまったく同じ構造じゃないか、と思うんですよね。映画製作者の意図とは違うかも知れませんが、ロマン主義音楽の根底にある思想と、この映画が暗に持つ事になったテーマが、意図せずとも同調したんじゃないかと感じるのです。ラストシーンは象徴的で、あのラストにかかる音楽が、もう救いそのもの、人生で最大のロマンス、幸福感を感じた瞬間の音楽と同じ。そして、それは死の瞬間と同じなのです。これは、映画全体の構造がしっかり掴めるようになるまでは感じなかった感慨でした。なるほど、多くのファンがいるというのもうなづけます、いい映画だ…。