
古楽大流行の立役者ヒリヤード・アンサンブルによるラッスス作品集です。8割が無伴奏合唱ですが、合唱のうまさがハンパない、メッチャ美しい、これはヒットしてもまったく不思議ではないわ…と思いました(^^)。でも、民謡をプロのジャズシンガーが歌って民謡の良さが伝わるのかというのと同じ意味で、こういう音楽をプロっぽく歌っていいのかはさておいて…
ルネサンス音楽も後期に入ると、フランドルでもヴェネチアでもイギリスでも対位法の完成度が見事、素晴らしすぎて言葉が出ないです。ラッススは後期フランドル楽派の代表的な作曲家ですが、このCDの対位法の見事さ、そしてコーラスの美しさなんて超絶的、ポリフォニーでこれ以上に美しい合唱音楽はなかなか出会えないかも。あ、ちなみに
フランドルというのは、今でいうフランスとオランダとベルギーにまたがったあたりだそうです。あと、同じく後期フランドル楽派のジョスカン・デ・プレと比べると、かなり自由な作風に感じました。それはこのCDに世俗音楽もいっぱい入ってたからかな?
そして、大量に曲を書いたラッススの作品って、大まかに宗教曲と世俗音楽に分かれますが、このCDには両方が入ってました。冒頭3曲がモテット(モテットについては次回の日記を読んでね^^)、残りが世俗音楽です。
ラッソが書いた世俗音楽はマドリガーレ、シャンソン、リートに分かれますが、ここに入ってる7曲はすべてシャンソン。合唱がうまいから妙に崇高に聞こえてしまい、シャンソンとはいうものの宗教曲のように聴こえるものもありました。でも、このCDの日本盤についてる日本語訳を読む限り「私は真珠が好き、黄金も好き」とか「ブドウ畑を耕せ」とか「ルバン修道士は金を返さない」とか、歌詞はたしかに俗っぽい(^^;)。そんな事わざわざ歌にするほどの事でもないだろうというものでも歌にしてしまうのは、今も昔も変わらないですね。
あ、あと、これは完全に個人的な趣味ですが、シャンソンのうち「ある日スザンナは」という曲だけ、無伴奏合唱版とリュート独奏版のふたつが入っていて、このリュート独奏に感動してしまいました。ルネッサンス絵画で、庶民が楽器を演奏しているものを書いた人物画ってあるじゃないですか。このリュートの響きを聴いていたら、あの絵がブワッと浮かんで、一気にルネサンス時代のヨーロッパにタイムワープしてしまいました。いやあ、ヒリヤード・アンサンブルとは関係ない所に胸をうたれてしまった。。
そして、ヒリヤード・アンサンブルの合唱です。僕が若いころ、古楽ブームが起きました。グレゴリオ聖歌やルネサンス音楽はもとより、
バッハや
モーツァルトも大リバイバル。理由のひとつは古楽器の発掘で、それまでは現代楽器で演奏していた古楽を、当時使われていた楽器で演奏したら全然違う音楽に聴こえちゃって、古風で素朴で美しかったのです。そんな中、シロス修道院で歌われたグレゴリオ聖歌の無伴奏合唱が大ブレイクして、以降の古楽合唱はおしなべてシロス修道院の歌唱法を真似するようになりました。ヒリアード・アンサンブルもそうで、拍節でマルカートして、ひと節ごとにディミネンドとクレッシェンドをつけて…みたいな。若いころはこれが心地よく感じたんです。でもいま聴くと…これって1970~80年代風に受けた歌い方であって、当時の歌い方じゃないんだろうな、みたいな。その商魂が鼻につかなくもない (*゚∀゚*)アハハ。ヒリヤード・アンサンブルの合唱って、そうやって聴きはじめると、シンセサイザーみたいというか、
ECMっぽいというか、どうもね…。なんでこうした歌唱法が当時のものではないと分かるかというと、教会に残っているグレゴリオ聖歌に理由があるんですが…長くなるのでこの続きはグレゴリオ聖歌について書く時にでも、あらためて書きます(^^)。
いずれにしても、世俗音楽ですら見事なポリフォニー。クラシックや古楽を聴かない人でも、美しいコーラスを体験できるルネサンス音楽のCDを1枚持ってると、楽しみが増えるんじゃないかと思います。