キャロル・キングはニューヨーク生まれ、田舎の素朴な歌ではなく、都市部に住んでる人が作りそうな音楽です。曲はリート形式。メロディは覚えやすく、コードワークとメロディの関係だけに作曲の意識が特化されているのでフォークソングのようで、都会で生きてるごく普通の女性が思いそうな詞。都会的といっても、セレブじゃなくってアパート暮らしでがんばってる感じの詩やジャケット写真。歌があまりうまくないのが、逆に歌というより話し言葉みたいに聴こえてくる効果があるし、メロディとコードしか作ってないのが、逆に商音楽ではなくフォークソングのように聴こえてきます。こういう音楽を聴いていて僕がいいなと思うのは、プロが作った音楽ではなくて、ミュージシャンを目指している女性が、非常階段が錆びついたニューヨークのアパートにアップライトピアノを持ちこんで、一生けんめい曲を書いてるんじゃないかと思えてしまうところ。このCDもピアノの音はアタック音しか聴こえなくてまるでアップライトピアノみたいだし、歌も演奏も下手ですが、ピアノを弾きながら、譜面台に置いた5線紙に鉛筆でいっしょうけんめいメロディとコードを書き込んでるのが目に浮かぶよう。ピアノパートを聴く限り、和音ぐらいしか書いてないんでしょうが、でも歌を作りたくてピアノに向かって…みたいな。うまい下手でいったら、7曲目に入ってる大名曲「You’ve Got A Friend」なんて、ダニー・ハサウェイとロバータ・フラックが歌ったものの方が断然プロフェッショナルですが、こっちはアマチュアの一生懸命さみたいなものがにじみ出ていて、それはそれですごくいいな、と思ってしまいます。