七世芳村伊十郎からちょっと離れて、十四世杵屋六左衛門ものの長唄を。
杵屋六左衛門は長唄の宗家で、ずっと三味線方だったのが、この十四代目から唄方に転向、そしてこの十四代目もまた人間国宝。初代が天正(てんしょう)2年(1574年)生まれという事ですが、天正って、本能寺の変があった頃の元号ですよね…織田信長全盛期じゃん、なんという伝統、
バッハ家より長い歴史を持つ音楽家一族ではないですか!すげえ。もしかしてインドの
ダーガル・ブラザーズより歴史が古いのかな…ちなみに今は15代目まで来てるそうです。
このCDは十四世杵屋六左衛門ものと書かれているわけではないんですが、5曲中4曲のリードヴォーカルが十四世杵屋六左衛門です。全集ものではなく2枚組のベストもの。僕みたいな右も左もわからない人間は、やっぱりこういう所から入った方が良いですね、どういう人がいるのかすら知らないもんで(^^)>。そして、初心者向けの解説が入っていて、これが素晴らしかった!勉強になった事を備忘録的に書いておくと…
・長唄はやっぱり歌舞伎の伴奏音楽として成立したもの
・例外的に、歌舞伎をはなれた純粋な唄物や、日本舞踊のための長唄などがある
・純粋観賞用の長唄の名作には「吾妻八景」や「秋の色種(いろくさ)」など
・長唄は、唄方、三味線方、囃子による合奏曲
・通常人数は唄1、三味線2
・「道成寺」などの演目になるとかなりの人数になる
・
歌舞伎での長唄の役割は2つ。ひとつは歌舞伎舞踊の伴奏で、これは演奏者が舞台上で演奏するので「出囃子」という。もうひとつは、黒御簾(くろみす)という舞台には出ずに演奏するもの。 このCDは、七世芳村伊十郎に比べると、
いかにも歌舞伎の舞台音楽という感じ。たとえば、1曲目は歌舞伎の十八番「勧進帳」だし、歌い方も歌舞伎の独特の「ムオ~」って感じの発声。勧進帳は、ストーリーは誰もが知ってるものだと思います。弁慶が関所を通るために義経を打ち据え、それに関所の役人が心打たれて、義経と知りつつ通してやる、あの物語です。そして…へえ~これって歌舞伎がオリジナルと思ってたんですが、能の「安宅(あたか)」というものがベースなんだそうです。
他でとくに
面白かったのは、「石橋(しゃっきょう)」の最初の笛の独奏。演奏者のクレジットもないのですが、これはすごくないかい?演奏も素晴らしいですが、これはなんという調なんだろう、尺八でも平均律ではありえないような音が出てきますが、あんな感じ。息そのものが音楽になってる部分もあるし、死ぬほどカッコいい。これは民族楽器の強みがもろに出た演奏じゃないかと。
日本の古典芸能って、嵌まると面白くてヤバいです。純邦楽のレコードってSP盤の時代にはいっぱい出てたみたいで、今はSP盤を整理したコンピレーションや全集CDがたくさん出てたりするので、気が付くと何十枚もCDを買わされてたり。僕はこのパターンで浪曲と落語と小唄端唄に小遣いを吸い上げられた経験あり、長唄もちょっと嵌まっちゃいました(^^)。
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