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心に残った音楽♪

おすすめCDの紹介のほか、本や映画の感想などを (*^ー゜)v

 

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『Eddie Taylor / I Feel So Bad』

Eddie Taylor I Feel So Bad 50年代のシカゴ・ブルース界で一世を風靡したジミー・リードの懐刀、エディ・テイラーです!!これは1972年にエディ・テイラーがハリウッドに行ってフィリップ・ウォーカーのバンドと一緒に録音したアルバムです!僕は日本のPヴァインがリリースしたCDを持ってるんですが、それにはボーナス3曲入ってました。

 おお、ジミー・リードの後に聴くと歌もギターもうまい!ギターなんて弾きまくりと言っていいほど弾いてます。ただ、アンプリファイドしているギターの音がブーストしてるわけでもなんでもないので、音は安っぽいしペチペチいってるしで下手に聴こえる(^^;)。若いころ、これってギターが下手なんじゃなくて、こういう音だと下手に聴こえる事に気づくまでに時間がかかりました。ベンチャーズもBBキングも、演奏はうまいのにエレキギターの音色で下手に聴こえませんか?あれと同じで、楽器の音って大事だなあ、と(^^;)。

 そんな中、アコースティック・ギター弾き語りの5曲目「Stroll Out West」、と10曲目「Bullcow Blues」が、音は綺麗だし演奏もバスと和声と戦慄の同時弾きでメチャクチャ素晴らしい!!こういうのって、ブルースだとモノトニック・ベースっていうんでしたっけ?戦前ブルースマンが得意にしていたあれです。とかいって、自分で挑戦してみたら、カポさえつければ意外と演奏出来た(^^)。こういうのは演奏システムを作りあげたところに素晴らしさがあるんでしょうね。アコースティックブルース万歳。

 バンドブルースでは、6曲目「Sittin' Here Thinkin'」とボーナストラック13曲目「Mean Red Spider」が好き。「Sittin' Here Thinkin'」は、George Smith という人のブルースハープがカッコいい!やっぱり僕は、バンドブルースではブルースハープをめっちゃ重要視してるみたい。この楽器とヴォーカルは、バンドブルースで表現力がずば抜けた楽器だと思います。「Mean Red Spider」はスローブルースで、エディ・テイラーのやさぐれた歌い方がカッコいい!
 
 3曲入ってるアコースティックギター弾き語りが見事。この3曲に関しては、ジミヘンがアコギで見事に弾いた『Here My Train Comin'』や、クラプトンがアコギでモノトニック・ベースを見事に弾いたブルース・アルバムなんかと同じ。彼らが憧れた名人ブルースギタリストのひとりだと思います。渋いですけどね(^^)。


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『Jimmy Reed / Just Jimmy Reed』

Jimmy Reed Just Jimmy Reed 『I'm Jimmy Reed』で有名なジミー・リード、1962年のレコードです。ジミー・リードって、50年代のロックンロール全盛期にブルースやって生きのびたんですね、すごい。

 なんとびっくり、電子オルガンにホーン・セクションが入ってる曲まであります!これはブルースというよりリズム&ブルースみたい。ロックンロールみたいな曲もやってたり、かなりバラエティに富んでいて(ブルースのレコードにしては、という意味ですが)、なかなか楽しい。そしてベースも入っていたりして(『I'm Jimmy Reed』はベースレス)、こっちの方が音が分厚いのかな?ただ、それがいい方に出たかというと、レイドバック感が薄れて、既製品に近づいてしまったようにも聴こえました。サイド・ギターもエディ・テイラーじゃなくなってたしね。

 当時の黒人チャート音楽を聴いているような楽しさはありましたが、普通になってしまったかな?僕はこういうのも好きなので楽しく聴けましたけど、うまい人ではないので、50~60年代あたりのシカゴ・ブルースが好物じゃないひとには普通すぎてちょっときついかな?というわけで、まず1枚という人は、『I'm Jimmy Reed』から聴いた方がいいのかも。でも、昔に日本のPヴァインが『I'm Jimmy Reed』と『Just Jimmy Reed』の2in1 CDを出していたので、それが手に入れば理想でしょうが、今だとどうなんだろう、手に入るのかな?


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『Jimmy Reed / I’m Jimmy Reed』

JimmyReed_ I’mJimmyReed 50年代ブルースの大名盤です!アルバム・ジャケットが超有名、シカゴのバンド・ブルースだというのに、マディ・ウォーターズのように汗臭く攻めるのではなく、ものすごくレイドバックした心地よい音楽を聴かせてくれるジミー・リードの初LPです!録音は53年から58年、ロックンロール全盛の時代とかぶってますが、そんな時期にジミー・リードの曲は何曲も黒人チャートに食い込んでいたらしいので、当時の合衆国のアフリカン・アメリカンはジミー・リードを最高に心地よく聴いてたんでしょうね(^^)。

 基本は歌の合間にハープを吹くジミー・リードのエレキ・ギター弾き語りで、これをサイド・ギターとドラムが支えるトリオ編成。ギターはジミー・リードがたまにやらかすんですが、セカンド・ギターのエディ・テイラーがうまくフォローしてる感じ。弾き語りにセカンドギターがつく時って、実はセカンド・ギターがキーマンというパターン多いですよね(^^)。。個人的には、ベースレスの編成と、心地よいハープの演奏が、このとてつもない心地よさを出していると感じて最高でした(^^)。

 特に好きな演奏が5曲あります。まずは、僕にとってのこのアルバムの印象そのものの1曲目『Honest I Do』、このレイドバック感がたまらない。。つぎに、ブギと言ってもノリノリではなくハープとスライドギターが絶妙に気持ちいいインストの4曲目「Boogie in the Dark」、これは当時ジュークボックスでヒットしたそうです…これだけ心地よかったらヒットするのも分かるなあ。スローブルースなのにぜんぜんダークにならない5曲目「You Got Me Crying」とアルバムラストの「You Don’t have to go」、当時のシカゴの黒人街が目に浮かぶよう。インストの10曲目「Roll and Rhumba」、やっぱりハープのヤバいぐらいの気持ち良さを痛感する演奏。

 はじめて聴いたのは高校生の時。アコースティック期のライトニン・ホプキンスやキング時代のジョン・リー・フッカーなどなど、ブルースと言ったら強烈に迫ってくる音楽と思ってたところに、このやたらと気持ち良い音が聴こえたもんでびっくりしました。ミシシッピ・ジョン・ハートやスクラッパー・ブラックウェルやスリム・ハーポみたいな心地よいレイドバック系ブルースを知らなかったんですよね。まだ感性がガキだったもので、自分がいいと信じているもの以外のものを出されるとすぐに「ダメ」「苦手」と感じてしまっていた頃で、「こんなのブルースじゃない」と最初は戸惑いました。でも、何度も何度も聴いているうちに、これを良いと感じる新しい物差しが自分の中に生まれ、いつしかこの気持ち良さの虜に(^^)。今さら僕が取り上げるまでもない大名盤、最高です(^^)。


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『Chico Freeman / The Outside Within』

ChicoFreeman _OutsideWithin 70年代末~80年代初頭、シンセの音があふれてジャズ界がフュージョンだらけになった頃に、アコースティックなジャズ方面でアーサー・ブライスデヴィッド・マレイと並んで注目されていたサクソフォニストがチコ・フリーマンだったそうです。これは1981年に録音された、代表作の呼び声高い1枚。90年代半ば頃だったでしょうか、東京のディスクユニオンというレコード店に平積みされていて、店員の方が思い入れたっぷりに書いたポップを読んで買ったもの。演奏旅行した時は、先輩のサクソフォニストに連れられて、中古レコードや古本屋を巡るのが楽しみだったんです(^^)。

 音楽は通常のドミナントなジャズがベースにあって、部分的にフリーになったり、ジャズになったり、モードになったり、みたいな感じでした。メンバーは、Chico Freeman (bass-cl, t-sax), John Hicks (p), Cecil McBee (b), Jack DeJohnette (dr)。たしかにフリーでもモードでもスタンダードでもなんでもできるメンバー、鉄壁です。そして主役のチコ・フリーマンもめっちゃうまい!デヴィッド・マレイがハッタリだらけでヘタ○ソだったのに対し(80年代初頭は、ですよ^^;)、チコ・フリーマンは明らかにプロフェッショナル。一聴して「あ、この人はスタンダードでもモードでもフリーでもなんでも演奏出来てしまう人だな」という感じ。80年代以降だと、ジャズの人がジャズのフォームの中でフリーをやると単にスケールをパラパラやるだけの遊びになったりしてつまらなくなる事が多く感じてたんですが(多分、フレーズや旋法の上でしかフリーを考えてなくて、リズムやデュナーミクや構造は何も配慮してないからそうなっちゃうんじゃないかと。決まったフォーマットの上でアドリブを取る練習しかしてないジャズの欠点ですね^^;)、チコ・フリーマンはよかった!ついでに、ピアノのジョン・ヒックスもメッチャよかった!アンプを通したセシル・マクビーのベースもカッコよかった!ジャック・デジョネットは変にエイトビートをやる時があるので怖いなと思ったんですが、ここでの演奏はフォービートを叩いていて(でもついつい8気味になるのはフュージョン世代な彼の癖なんでしょうね^^;)、なかなか良かった!ついでに、僕の持ってるCDだと、録音がめっちゃくちゃいい!!

 ただ、僕には普通のジャズっぽ過ぎたのが弱点でした。チコ・フリーマンって、シカゴのAACM出身で、ニューヨークに進出した人と聞いていたので、やっぱりアンソニー・ブラクストンやアート・アンサンブル・オブ・シカゴみたいな凄さやヤバさや深さを期待してたんですよね。でもこれは、うまいんだけどファッションでニュージャズやってるというか、そんな印象。このレベルのメンバーが揃ったら、これぐらいは当然できるだろうけど、なぜこの音楽をやるのかという所が弱く感じるんですよね。この頃のジャズって、チャールズ・トリヴァーとかセシル・マクビーあたりだと、うまいし悪くないんだけど凄みやヤバさが足りないというか普通っぽいというか、そこが物足りなく感じていました。フリー気味になっても、セシル・テイラーコルトレーンばりの楽理探究やパフォーマンスに賭ける気迫はないし、かといってアーチー・シェップやマリオン・ブラウンみたいな深さを感じる思想も感じないんですよね。スタイルの選択が音の上だけのファッション感覚というか、なんだか健全で刺激が足りない。。まあ、そんなのは聴く方のぜいたくでもあって、これがチコ・フリーマンの代表作だったとしてもまったくうなづけるだけの完成度の1枚でした。


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『Arthur Blythe / Metamorphosis』

Arthur Blythe Metamorphosis NYロフト・ジャズの名盤『The Grip』と同じ日のライブ演奏を収録した姉妹版『メタモーフォシス』です!『The Grip』が予想以上に良かったもんで、中古盤屋でこれを見つけた時に速攻で買っちゃいました(^^)。同じ日のライブ録音なのでメンバーは同じで、Arthur Blythe (asax)、Ahmed Abdullah (tp)、Bob Stewart (tuba)、Abdul Wadud (cello)、Steve Reid (dr)、Muhamad Abdullah (per)。

 A面が1曲18分、しかもチェロとのデュオなので、『The Grip』に比べると地味な印象があります…が、基本となるリズムやモチーフを大事にしつつ演奏するので、即興音楽にありがちな「どこに音楽を持っていこうか」という迷いや手探りを感じる事がないです。音楽もしっかり起承転結をつけてるし、デュオ的な対話にもなってるし、アーサー・ブライスさんはデヴィッド・マレイと違ってうまいし音楽の勉強もちゃんとしているようで、実にいい(^^)。70年代後半、NYの貸スペースでこういう音楽をやっているアフリカンアメリカンの青春って、なんか心打たれるものがあるなあ。。

 でもB面はきっちりセクステットでの熱いロフト・ジャズ!『The Grip』がスコアを含めた怪しい音の響きがより印象的だったのに、B面1曲目のアルバムタイトル曲「Metamorphosis」はストレートに熱いジャズのアドリブ!「Shadows」は、セクステットのアンサンブルがやっぱり怪しさをかもし出してる曲。アート・アンサンブル・オブ・シカゴ的な音楽というか、ロフト・ジャズというとこういう雰囲気をやっぱり想像しちゃいますね(^^)。それにしてもアーサー・ブライスさん、いいサックスだなあ。70年代末でなく60年代にに活動していたらもう少し名の知られた存在になってたかも。

 同じ日のライブ音源2枚のうちどちらかを先に買うなら『The Grip』を僕ならオススメしますが、こちらもなかなか聴きごたえのある1枚でした。かつてCDで2 in 1 CDが出た事があるので、もし手に入るならそれを買うのが一番いいかも。いや~、今回聴いた70年代末NYロフト・ジャズの中では、アーサー・ブライスさんの作品がいちばんよかったです(^^)。音楽や音楽家はやっぱり名前や知名度じゃないな。。


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『Arthur Blythe / The Grip』

Arthur Blythe The Grip アルト・サックスのアーサー・ブライスも70年代後半のNYロフト・ジャズのサックス奏者で、彼もまたデヴィッド・マレイハミエット・ブルイエットが参加したワールド・サクソフォン・カルテットに参加していたみたいです。ここしばらくワールド・サクソフォン・カルテット絡みのプレイヤーを紹介してますが、実はこのカルテットの演奏をよく聴いてませんで、大昔に1度聴いた時に「つまらねえな」と思った記憶がうっすらあるだけ(^^;)。まあでもそれって、このサックスQ以前に、サックス4本のアンサンブルというフォーマット自体に面白みを感じなかったという事なんでしょうね。そうそう、このアルバム、70年代後半のNYロフト・ジャズの名盤と言われているライブ盤です!メンバーは、Arthur Blythe (asax)、Ahmed Abdullah (tp)、Bob Stewart (tuba)、Abdul Wadud (cello)、Steve Reid (dr)、Muhamad Abdullah (per)。

 おお、どう聴いてもデヴィッド・マレイよりうまい!やっぱり、有名無名や人気と実力は別物ですね。。
 そして音楽が不穏な感じでいい!音楽は、初期のアンソニー・ブラクストン『3 Compositions of New Jazz』とかCCC とか、あるいはアーチー・シェップの『Fire Music』みたいな感じで、あやしい音がアンサンブルする所と集団即興の織り交じったような、あんな感じでした。いいですね~このヤバい感じ(^^)。また、作曲や編成にも工夫があって、常にセクステットの演奏となるわけでもなくて、曲によって出入りもあるし、曲中でも抜き差し自在。曲でいえば「Lower Nile」はコンディミっぽい音階がメインになっていて、なるほどタイトル通りエジプトの古典音楽っぽい雰囲気がありました。このへんは、アフリカ系アメリカ人のアフリカ志向と関係があるのかな?エンターテイメントなシャレオツなジャズじゃなくて、ただ即興してるだけというのでもなくて、主張する黒人音楽という感じがよかった、実に面白いレコードでした。アート・アンサンブル・オブ・シカゴやアンソニー・ブラクストンほどキレッキレのうまさはないけど、逆に泥臭い感じが雰囲気を出したとも言えそうです(^^)。聴きようによっては民族音楽的にも感じますしね。

 このレコード、1977年2月26日のライブを収録してるんですが、このレコードにおさまりきらなかった同じ日のパフォーマンスが『Metamorphosis』というアルバムにまとめられています。そして、日本でこの2枚をまとめて当日の演奏順に並べ替えた『ザ・グリップ&メタモーフォシス』というCDがリリースされていた事があります。アナログ盤にこだわらないなら、そのCDを手に入れるのがいちばんかも(^^)。


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『Hamiet Bluiett / Im/possible to Keep』

Hamiet Bluiett Impossible to Keep デヴィッド・マレイと一緒にワールド・サクソフォン・カルテットというグループを作っていたバリトン・サックス/クラリネット/フルート奏者ハミエット・ブルイエットの2枚組ライブCDです。たぶん1979年のパフォーマンスかな?名盤と言われている『We Have Come To Save You From』に未発表曲5曲を追加して、ライブ完全収録となったCDです。元は1曲入り38分だったのに、これは6曲135分!買うなら絶対にこっちでしょう。。メンバーは、ドン・プーレン(p)、フレッド・ホプキンス(b)、ドン・モイエ(dr)…なんというすごいメンバー、当時のNYロフト最強のサイドマンと言ってもいいんじゃないでしょうか。

 まずこのCD、ブルイエット自身が9ページに及ぶセルフライナーを書いてるんですが、これが当時のシカゴ、ニューヨーク、セント・ルイス(ブルイエットの出身地)でのロフト・ジャズの動向をよく伝えていまして、メッチャ面白かった!英語なので英語が苦手な人はちょっと苦労するかもしれませんが、僕程度の語学力でも大体のところは理解できたので、そこまで難しい文章じゃないと思います。このセルフライナーは一読の価値あり!!

 そして音楽ですが…よく言えばバラエティに富んでいて、悪く言えば曲ごとにテーマがばらばらで何やりたいか分からない状態(^^;)、「あ、同じ構造なんだな」と気づくまでちょっと時間がかかったライブでした。要するに、デヴィッド・マレイと同じで、オーネット・コールマンやアルバート・アイラーと同じスタイル、テーマとなるメロディだけ作って、ブローイング・コーラスはコード・プログレッションのないフリー、そしてテーマに戻す、という形。例えば、元々のアルバムに入っていた曲「SOBRE UNA NUBE」のテーマは23クラーベのブラジル音楽風。これが、1曲目「OASIS / THE WELL」やディスク2の2曲目「YUSUF/SANKOFA」となると、オーネット風。ディスク2の1曲目「Pretty Tune」だとジャズバラッド風。ディスク2の3曲目「TUNE UP」はメインストリーム・ジャズという感じでした。あれ?これってマイルス・デイヴィスの曲だったっけ?マイルス曲以外は、テーマは違えど真ん中でフリーに突入する点が同じでした。

 フリーに入ってからがカッコいいと思ったのは、実はマイルスの曲。フリーフォームに突入してもリズムやバスが変わらないので見失った感じがしないんですよね。特にアウトだかインだかすれすれのところで複雑な音をすごい勢いで演奏してくるドン・プーレンのピアノが素晴らしかった!!
 一方他の曲は、フリーのパートに突入して以降が良し悪しでした。いい所は、パワープレイに行った時の爆発力がすごい!!フリーをやる利点のひとつってこれだと思うんですが、「うおお、すげええ!!」って感じ(^^)。パワープレイに出た時のフリージャズの最重要楽器はドラムだと僕は思ってるんですが、ドン・モイエの演奏がすごい!正直いって、AEOCにいた時よりすごいんじゃなかろうか。。1曲目も2曲目も、フリーに入ってからの爆発力がこのライブ1番の聴き所だと思いました。逆にどうかなと思った所は、テーマ部分とフリー部分が全然関係ない。最初にやってた23クラーヴェなんて全然関係ないじゃん、みたいな(^^;)。あと、やっぱりフリーになるとどっちに進めばいいのか迷いながら演奏してるようなところが出てきて、そういう所はちょっと面白くありませんでした。でもそれってこのCDに限らず、フリー系の音楽全般に言える事かも。

 なるほど70年代後半のロフト・ジャズは、フリーのパワーを残したままフォームが崩れるのをどう防ぐか、という所に意識があったのかも。このCD,テーマを演奏していますがテーマ部分自体がいいと思う事はまったくなし、あくまで全体の構造が崩れないためにつけてるだけなんだろうな、と。
 そしてブルイエットさん、得物がバリトン・サックスだというのでプレイには期待していなかったのですが、なかなかキレのあるプレイだし、バックがこのパーフェクトなメンバーだとさすがに形にしてきます(^^)。ドン・プーレンはジョージ・アダムスとの双頭カルテットの演奏が強烈だし、フレッド・ホプキンスはアンソニー・ブラクストンのカルテットでの超絶な演奏してるし、AEOCのドン・モイエは言わずもがなですしね。1970年代後半のNYロフト・ジャズはデヴィッド・マレイで外したのでダメかなと思いはじめていたのですが、これはなかなかでした…テーマがバラバラなので、つかむのにちょっと時間がかかりましたが(^^;)。


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『PUNCH THE MONKEY! 2』

PunchTheMonkey2.jpg ルパン三世のBGMをアレンジしたコンピレーションアルバムです。スカパラ、香取良彦ジャズオーケストラ、マンデイ満ちる、ベンチャーズなどなど、なかなか豪華なメンツが参加してます。第1集も聴いた事があるんですが、なんせ昔の事なのでよく覚えてません。なぜか第1集は部屋から見つからないし(^^;)。。このシリーズ、発売当時はかなりヒットして、第3集ぐらいまで出てたはずです。

 オリジナル音源のサンプリングをベースに作っているものが多く、クラブミックス的です。こういうのって、むかし流行ったんですよね。90年代、クラブに行くとDJが皿回しでこういう音を作ってましたが、それをCDにした感じ。懐かしいな、今ってクラブ行くとどういう感じなんだろう。もうこの歳じゃ行けないよなあ。こういうのってマジメに聴くものじゃないというか、あくまで友達と酒飲んでる時に聴くとか、ドライブしてる時に何となく流すとか、そういう何かのつまみにするBGMという印象。香取良彦ビッグバンドだけはマジメにアレンジしてあって、まるでマリア・シュナイダーのような完成度ですばらしいんですが、でもそれが面白いかというと話は別。個人的には、やっぱりクラブ・ミュージック的なアレンジを施したものが面白く感じました。

 90年代も、70年代のルパンをヒップに感じていたという事ですよね。そのヒップさを若干平成に寄せたのがこのコンピレーションだったのではないかと思ってます。ジャケットデザインも良くて、なかなかの企画ものだと思います(^^)。


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『ルパン三世 '71 ME TRACKS』

Rupin3rd_71MeTracks.jpg ルパン三世のテレビのファーストシリーズは、ドラマだけでなく音楽も大好きでした。ところが最初のルパンは音楽のマスター音源が残ってないみたいなのです。ルパンはウルトラセブン並みに出せば何でも売れるキラーコンテンツらしく、サントラはやたらいっぱい出ていたんですが、ファーストシリーズの音源だけは全然出ませんでした。入っていても、どれもこれもオープニングとエンディングの2曲だけ。僕はオープニングに使われた別の曲が好きだったんですが、これが聴けない(>_<)。そんな時に突如発売されたのがこのCDでした。ファーストシリーズのサントラです!ついに出たか、待ってたぜ!というわけで、発売当初は飛びついて買いました。

 このCD、なんでサントラと書かないのか。つまりファーストシリーズのルパンは、音楽のマスターが残ってないみたいで、だからこのCDもMEテープ(シーンに合わせて音楽と効果音を入れたテープで、セリフは入っていないもの)をつなぎ合せて、なんとかBGM集の体面を保っているのでした。だから、車のエンジン音とか、色々入ってます(^^;)。でも音楽を聴ければそんなの問題ない、僕は大満足でした。

 ファーストシリーズの音楽は、戦後日本の劇伴と、サイケデリックなロックのあいのこみたいです。サイケといっても日本の70年前後のサイケって、ライブハウスで演奏していた音楽というより、ゴーゴークラブで演奏してた音楽。そして、70年前後のゴーゴークラブって、80年代の高校生や大学生も行くようになったディスコと違って、ヤングアダルトなカッコいい業界人が行くところ、みたいな。音楽も、峰不二子みたいなイケてるお姉ちゃんが踊りに行く所で演奏している「カッコいい」感じの音楽なのです。この音楽の一部はまさにその匂いを感じるものでした。ハモンドオルガンやギターの音なんて、時代をそのまま表現しているみたい。若者の音楽ではあるんですが、以降の若者の音楽に比べると大人なんですよね、世界観が。熱い中にも、70年安保前後の殺伐とした雰囲気を感じるという意味では、モンキー・パンチさんの原作コミックに通じる匂いを感じました。

 ファーストルパンのBGMを探している人はこのCD以外に選択肢なし、あの「P38~Machine cry~」で始まるメッチャクチャかっこいいふたつ目の主題歌が入っているのはこれだけですしね。テレビ第1シリーズのファンである僕にとって、このCDはマストの1枚なのでした(^^)。というか、ファーストテレビシリーズが好きなら、絶対に買いの1枚です!


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TVアニメ『ルパン三世 TV第1シリーズ』

Lupin3rd_1stTvSriesDVDBox.jpg モンキー・パンチの描いたルパン三世の世界観にいちばん近いアニメーションは、テレビ第1シリーズ前半と、映画『ルパンVS複製人間』のふたつと思います。でも、僕が面白いと思っているものは少しずれていて、テレビ第1シリーズのすべてと宮崎駿さんが関わったもの(映画『カリオストロの城』と、第2シリーズのいくつかの話)です。原作コミックが大好きなくせに、アニメは原作に忠実かどうかは重要視してない自分がいるんですから、面白いものです。つまりアニメのルパンって、原作から離れてひとり歩きして、独自の魅力を持つようになったもの、という事なのかも知れません。中でも1971~72年に制作されたテレビの第1シリーズはDVDボックスを持っているぐらいの個人的大フェイバリット。本当なら、全話をすべて個別にレビューしたいぐらいに好きな作品なのです。

 第1シリーズはアニメとは思えないほどに深く面白い話の多い作品ですが、初回放送時は低視聴率にあえいだというのだから人間は分かりません。人間って習慣の生き物だと言いますが、それだけにたいがいの人は自分で善悪を判断してると思っていながら、実は習慣として受け入れているもの以外はみんな拒絶する傾向にあるのかも。そうなると、パイオニア的なものや個性的なもの、あらたなものというのは割を食いやすくて、アニメといえば子供が観るものという時代にとって、ルパン第1シリーズはアダルトすぎたのかも知れません。そのためか、番組の前半と後半で作風がかなり変わります。

Rupin3rd_TV1st.jpg 番組前半は、アダルトでハードボイルド。子どものころは、この前半が衝撃でした。第2話「魔術師と呼ばれた男」では、女が絡んでの魔術師と怪盗の対決、最後に魔術師は火に焼かれながら滝の中に落ちていきます。女は男に殺しをさせ、男はそれをさせる女を愛している…『暗くなるまでこの恋を』というフランス映画がありますが、それぐらいアダルトな作品です。
 第9話「殺し屋はブルースを歌う」では、かつては恋人同士で犯罪のパートナーでもあった殺し屋を、女が撃つ羽目にあうというもの。そうなった経緯が実にハードボイルドで、ジャン・ギャバン主演のフレンチ・ノワールを観ているようでした。第6話「雨の午後はヤバいぜ」は、セリフ回し自体がハードボイルド。次元がずぶぬれで帰ってきたルパンに言うセリフ「どうした、ふられたのか?」は、「雨に降られたのか」と「女に振られたのか」のダブルミーニングでしょう。その後の「行ってやりなよ」「いいのか?」「行くなと言わせたいのか?」…このハードボイルドなセリフのやり取り、とてもアニメとは思えません。こうしたハードボイルドなせりふ回しは、6話「雨の午後はヤバいぜ」にも登場します。うしろから不二子に銃口を向けられたルパンが言うセリフは、「よしなよ冗談は。ブローニングは背中に感じやすいんだ」
 というわけで、殺しあり、女あり、裏切りありのクールな前半は、フレンチノワールそのものと言っていいほどのハードボイルド作品でした。そうそう、日本のセックスシンボルのひとつと言ってもいいだろう名キャラクター・峰不二子ですが、キャラクター性も作画も声もすべてひっくるめて、このファーストTVシリーズの不二子が絶品です。70年代初頭にして、白のニーハイブーツ履いてバイクに乗りまわして、男をセックスアピールで手玉に取る悪女で…時代の最先端を行っていた女性像だったんじゃないでしょうか。だって、この頃ってまだ見合い結婚が普通だった時代ですよ、信じられません。

MineFujiko_1stSeries.jpg うって変わって後半は、笑いあり大どんでん返しありの痛快な娯楽作品。番組後半は宮崎駿さんが手がけたそうですが、これはこれで最高の楽しさでした。前半のルパンは、高級車を乗りまわして、厭世観から逃れるために泥棒をやっているようなクールさがですが、後半のルパンはミニクーペに乗って必死に生きている熱さがあります。それでいて下世話ではなく、美学を持っている所がいいです。第14話「エメラルドの秘密」のラストシーンが秀逸で、苦労して手に入れたダイアを森にばらまいて落してしまい、ひとつだけ残ったダイヤモンドを「こんなのを盗ったとあっちゃぁ、ルパンの名折れさ」と捨てます。これはカッコいい。。そういえば前半でも、隠した現金がダイナマイトで吹っ飛び、それを観て時限と一緒にタバコを吸って大笑いするシーンがありましたが、こういう美学を感じるところがファーストTVシリーズの質の高さじゃないかと。これは製作者側の教養や品格の高さであって、これって教養や品格のある人でないと描けない部分だと思います。

 医師免許を持っていた手塚治虫さんもそうですが、昔のコミックやアニメーションのクリエイターさんって、教養ある文化人だったのだろうと思います。モンキー・パンチさんはもちろんの事、このTVシリーズに関わった宮崎駿さんや大隅正秋さんなど、当時は人口比でごく一部でしかなかった大学に行くレベルの知的エリートだったでしょうから、専門馬鹿ではなく、教養に溢れていたのでしょうね。どう考えたって、80年代以降の低能なTVドラマなど比較にならないほどのドラマ性と品格を持った伝説のテレビアニメーションだったと思います。


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コミック『新ルパン三世』 モンキー・パンチ

ShinRupin3sei_Aizouban4.jpg 1977年からモンキー・パンチさんが漫画アクションに連載した漫画『ルパン三世』の続編です。時期的にも内容的にも、テレビで放映されたルパン三世第2シリーズと絡んだ作品でした。どちらも現実離れした荒唐無稽さなのですが、テレビアニメは子どもながらに「馬鹿にするなよ」と見ていられないものが多かったのですが、コミック版はあくまでコメディとして扱っているので、同じ話でもとても楽しく読めたものでした。むしろ、大人な漫画だなと感じていたほど。

 たとえば、「ロータ・マシラウの忠告」。これはテレビ第2シリーズだと「謎の女人館を探れ」という話で、盗みに入った屋敷で、美女からもらった玉手箱を開けると老人になってしまうという話。これがテレビアニメだと、「おいやばいぞ、玉手箱を開けたら老人なってしまう!」なんて真面目にやるもんだから「くだらねえな、子どもだと思って馬鹿にすんなよ」…みたいに思ってしまった幼い頃の僕でしたが、これがコミックだと、ルパンが一枚上で美女が婆さんになってしまうという落ちの逆転コメディ。玉手箱がどうとかいう所ではなく、話の重心がどうコメディとして落とすかという所に行っているので、玉手箱がどうなんてどうでも良くて、笑えるんですよね。

 原作1作目のルパンより、こちらの方がコメディ色が強く、前作以上に荒唐無稽な話の落ちで、笑って楽しむ作風。週刊誌で週に一回こういう話を読んで、痛快なルパンの活躍に溜飲を下げ、日々のストレスを解消してもらう、みたいな漫画だったんじゃないかと。5分ほどでリフレッシュさせてくれるこういうものって、漫画や流行歌が最適だと思うんですよね。これも日本のアダルトな漫画史に残る傑作のひとつじゃないかと思います。


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コミック『ルパン三世』 モンキー・パンチ

RupinSansei_comic.jpg 僕がルパン三世に初めて触れたのは最初のTVシリーズとなったアニメで、モンキー・パンチさんの書いた原作を読んだのはしばらく後。テレビとのあまりの違いに驚きました。漫画雑誌といったら「デビルマン」や「あしたのジョー」が連載されていた少年マガジンや、「ブラック・ジャック」や「ドカベン」の連載されていた少年チャンピオンといった少年漫画雑誌が当たり前の時代で、青年から大人向けの漫画雑誌はまだ斬新な時代でした。1967~69年に青年漫画誌の漫画アクションに連載されていた「ルパン三世」は、青年誌掲載というだけあって、絵もストーリーもかなりアダルトな内容でした。

 話は1話完結の短編で、テレビの第1シリーズと同じだったもので覚えているのは「脱獄のチャンスは1度」(漫画だと「脱獄」)、「魔術師と呼ばれた男」(コミックでは「魔術師」)。どちらもテレビ版屈指の名作回ですが、このふたつの話には、原作版ルパン三世のエッセンスが詰まっていたように感じます。銭型警部が頭脳明晰な敏腕刑事で、話は殺しもあればエロもあり、最後はあの大どんでん返し。週1回の連載とは思えないほどに完成度の高いストーリーは、手塚治虫さんのブラック・ジャックなみの見事さ。

Lupin3rd_Comic_194.jpg そして、ストリーなみに素晴らしいと感じたのが作画でした。コミックですから、絵も重要な魅力。書き込みは細かく、デフォルメは見事で、絵を眺めているだけでも楽しくなるほどでした。それでいてクールな印象を覚えたのは、カット割りが細かくて、クライマックスシーンでも大写しにしなかったためじゃないかと思ったりしました。このあたりがヨーロッパ映画的で、アメリカ映画やアメコミのように大げさにしないのです。このクールさが良かった。

 軽妙なギャグも織り込まれた娯楽的な漫画ですが、ゴーゴークラブにいそうなグルーピーがたびたび登場したり、意外と無慈悲で厭世的な雰囲気があるのは、70年安保前後の日本の世相が背景にあったのかも知れません。そんな作品なので、子どものころにはじめてみた時は理解できない部分も多かったのですが、大学生の頃に読んで「これを週刊で連載していたのか」と驚き、そして虜になりました。子ども向けだった日本のコミックを、大人の観賞に耐えるレベルのクール・ジャパン最大のコンテンツに引き上げた名作のひとつと思います。あらためて、モンキー・パンチさんのご冥福をお祈りします。


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モンキー・パンチさん逝去

monkeiPunch.jpg フランスのノートルダム大聖堂が焼け落ちたのとほぼ同じタイミングで、フランスの怪盗の末裔ルパン三世の生みの親が逝ってしまいました。なんという事だ…悲しいですが、享年81歳なら大往生でしょうか。

 子どものころに見たTVアニメの中で、大人になってからも何度も見たものって、ルパン三世第1シリーズだけかも。それぐらい素晴らしいと感じた作品です。モンキー・パンチさんの書いた原作漫画を読んだのはその後で、あの大人びたテレビ第1シリーズ以上のアダルトさに仰天した覚えがあります。週刊連載とは思えないほどの見事なストーリー、緻密な書き込みと漫画的なデフォルメの見事な絵、どちらも素晴らしいものでした。

 60~70年代生まれの人なら、モンキー・パンチさんに楽しくしてもらった経験のある方も多いのではないかと思います。楽しい時間を有難うございました、ご冥福をお祈りいたします。


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『ギョーム・ド・マショー:ノートルダム・ミサ パロット指揮、タヴァナー・コンソート、タヴァナー合唱団』

GyaumeDeMachaut_NotorudamuMissa_Parrott_TavenerConsort.jpg ノートルダム大聖堂の火災は、自分の中でなかなかのショックでした。ナポレオンもフランス革命もドイツ占領も塔の下に見てきた大聖堂が崩れていくなんて…。焼け落ちていく大聖堂の映像を観ながら、ノートルダム・ミサの事を思い出していました。

 というわけで、西洋音楽を聴くなら絶対に聴いておきたい音楽、ノートルダム・ミサです。現在、西洋音楽は9世紀まで遡れますが、西洋音楽で今も伝わっている音楽をバロックまでザックリいうと、グレゴリオ聖歌、世俗歌曲、アルス・アンティクヮ、アルス・ノーヴァ、ルネサンス音楽、バロック、みたいな感じです。このうちでアルス・ノーヴァを代表する作曲家と言われているのがギョーム・ド・マショーで、さらにマショーの代表作と言われているのがノートルダム・ミサ。というわけで、似たような音楽をいっぱい聴くなら、1枚ぐらいは自分の得意じゃないこういう音楽に手を出してもいいんじゃないかと。今の音楽ではとても聞く事が出来ないような魂を洗われるような美しさと荘厳さで、さすがにミサ曲なだけあって祈りの言葉のようにも感じられるものです。

 まず、マショー作曲のノートルダム・ミサ曲について。ひとりの人がミサ通常文全章を作曲した最初の曲がこれなんだそうです。ただし、よく作られるようになった5楽章構成(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュスデイ)によるミサ曲のスタイルを最初に作ったのは、ルネサンス音楽ブルゴーニュ楽派のデュファイ。けっこう最近紹介した事がある『ス・ラ・ファセ・パル』『パドヴァの聖アントニウスのためのミサ曲』なんかがそうです。というわけで、この曲は5楽章ではなくて…ええ~18楽章?!…と思ったら、ノートルダム・ミサは6曲で、残りは実際のミサで歌われる「入祭唱」とか、途中で朗読されるマタイ書の一節とか、そういうものを全部再現したのがこのCDみたいです。おお~なるほど、実際のミサってこんな感じに進行するのか。。このCD、教会の鐘の音も、ハンドベルのような音も入ってましたが、きっと実際のミサを想定して入れてあるんじゃないかと。

 ミサ曲の通常文は他の色んな作品で何度も読んできたのでだいたい分かるんですが、それ以外の文句が分からない(^^;)。「A~Ha~hahahahaha」みたいな所はいいんだけど、詩の内容が分かったらもっと理解できたかも。輸入盤の方が安いからって国内盤を買わなかった事を後悔…ってしかたないか、昔は輸入盤しかなかったしな。。

 音楽部分は文句なしで素晴らしいです。僕みたいな古楽のニワカには、アルス・ノーヴァの傑作と言われるこの曲と、これ以降のブルゴーニュ楽派やフランドル楽派といったルネサンス音楽のどこに差があるのかまったく分からず(^^;)>イヤア。いい意味で、それぐらい「ああ、こういう所がまだ洗練されてないんだな」みたいなものをまったく感じない、すごい音楽でした。アルス・ノヴァの特徴はイソリズムなんて僕は習いましたが、普通にカノン状の場所まで出てきてる部分でのリズムがそうなのか、久々に聴いた今もよく分かりませんでした。イソ(同じ)リズムは「旋律を、反復するリズムに埋め込んで、それを楽曲の基礎とする手法」という事なんですが、昔からよく分からないのです。。あ、そうそう、ミサ曲部分では同じようなメロディが出てくるので、これもデュファイの『ス・ラ・ファセ・パル』と同じように循環ミサなのかな?

 このCDでは、合唱も素晴らしいです。アーリー・ミュージック専門のパロット指揮タヴァナー合唱団の合唱は、CD『システィーナ礼拝堂の音楽』でも聴いた事がありまして、そこではパレストリーナ作「スターバト・マーテル」やジョスカン・デ・プレ作「主の祈り第2部/アヴェ・マリア」なんかを歌っていましたが、とにかく美しい、素晴らしすぎです(^^)。録音が教会みたいなんですが、もしかしてノートルダム大聖堂での録音なのかな、分かりません。教会特有のエコーが「ウワ~ンウワ~ン」みたいに何度も波になって響いてくるのが、ものすごく荘厳な雰囲気をかもし出していました。

 この曲も700年ほど前の曲ですが、ノートルダム寺院もだいたい同じぐらいの古さだったはず。栄枯盛衰、素晴らしい完成度ながら、こうやって歴史のかなたに滅んでいった文化や文明はいくつもあったのでしょうね。あの建造物に優るとも劣らない見事な完成度を持ったミサ曲と思います。


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パリのノートルダム大聖堂が火災、尖塔まで倒れた!!

NotreDam_Kasai.jpg うわああああノートルダム寺院が火災!塔が倒れた!着工は12世紀、完成は13世紀で、かつてはヨーロッパ最大のカトリック教会といわれ、ゴシック様式を代表する建築。形あるものはいつか崩れるとはいえ、百年戦争もナポレオンもドイツによるパリ占領もエディット・ピアフも眺めてきた歴史建造物が崩れるのは心が痛い。。

 音楽好きとしては、ノートルダムといえばやっぱりマショーのノートルダム・ミサが思い浮かんでしまいますが、あのイメージもあってかものすごく厳かな印象があったのに…。ちなみに、ノートルダムとは「私たちの貴婦人」という意味で、つまり聖母マリアを示す言葉だそうです。なるほど、だからこの火災を観ていた市民の一部がアヴェ・マリアを歌っていたのか。この火災で消防隊数名が怪我をしたそうですが、今はとにかくその方たちが無事でいてくれることを願うばかりです。


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『David Murray / 3D Family』

David Murray 3D Family CD『Flowers for Albert』の日本語解説の中で、ジャズ評論家の悠雅彦さんがデヴィッド・マレイの代表作と紹介していたCDがこれでした。『Flowers for Albert』の2年後となる1978年のライブ録音です。ピアノレスのサックス・トリオで、ドラムは全盛期セシル・テイラー・カルテットのアンドリュー・シリル。大フェイバリットのドラマーだったので、これは大丈夫だろうと手を出した1枚でした。

 おお~『Flowers for Albert』よりこっちの方がいい!実は、ぜんぜん知らなかったJohnny Mbizo Dyani というアンプリファイドしたウッド・ベースも超高速、これはいい(^^)。。1曲目はブロウにフラジオにと、とにかく荒れ狂う演奏。2曲目はテーマメロだけ作ってあるアルバート・アイラーやオーネット・コールマン的な作曲方法のジャズ・バラード。3曲目も2曲目と同じ手法のアップテンポ・ワルツ。

 1曲目が約10分、2曲目以降はどれもだいたい20分という、力押しの書きメロつきのフリージャズでした。よくアイデアが切れないで吹き続けられると思う半面、スコアも褒めるほどのものじゃないし、演奏も押しの一手なので薄っぺらい感じもしたかな(^^;)。でも、フリージャズが好きな人なら、これはなかなかおいしい1枚かも(^^)。でもちょっと軽いかな?


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『David Murray / Flowers for Albert』

David Murray Flowers for Albert』  70年代なかばのジャズ・シーンはフュージョン・ブーム真っ最中で、あんなに勢いのあったフリージャズは、ジョン・コルトレーンアルバート・アイラーも死んだ後は風前のともしび。そんな中、ニューヨークでは空き倉庫なんかを利用した練習場所やライブスペースから「ロフト・ジャズ」というのが広まったそうで、ここが70年代中盤以降のNYのフリージャズの根城になったんだそうで。たしか、シカゴも似たような状況でしたよね。こういう知識は、僕は清水俊彦さんや悠雅彦さんや副島輝人さんといった日本のジャズ評論家さんの本で読んで得たものなので、詳しい事はよく分かってません(^^)。いずれにしても、このロフト・ジャズのシーンから飛び出してきた若き天才アルト・サックス奏者というのが、僕がはじめてデヴィッド・マレイを知った時の触れこみでした。これは、そのデヴィッド・マレイの出世作と言われているライブ盤です。僕が持っているのは日本盤のボーナストラック3曲入りの2枚組。1976年録音で、メンバーはデイヴィッド・マレイ(tsax)、オル・ダラ(tp)、フレッド・ホプキンス(b)、フィリップ・ウイルソン(dr)。このリズムセクションが、僕が死ぬほどぶっ飛んだアンソニー・ブラクストンの超名作『Town Hall 1972』と同じだったので、鉄板でイケると思って買ったのでした(^^)。

 ピッチもリズムも悪い、すぐ音が裏返ってしまう、というわけで、デヴィッド・マレイの演奏が下手だ…。音楽は、イントロで2管のユニゾンのテーマを作って後はアドリブ、みたいな鬼のように単純なものでした。せめてカウンターラインを作るとか度数を変えるぐらいはして欲しかったです。これは、オーネット・コールマンのロンリー・ウーマン以降のフリージャズの悪しき伝統ですね(^^;)。2管でもミンガスあたりのコンボ・アレンジを勉強していれば、もっと全然リッチな音楽に出来るのに…。では、それを補って余りある勢いある演奏が聴けるかというと、演奏がいちいち考えて止まっちゃうので、強く音楽を引っ張る力がありませんでした。僕が大好きなフレッド・ホプキンスとホップ・ウイルソンはさすがに音楽を構成する力があって、ここが救いですが、それもブラクストンとの共演に比べると全然で、あえてお金出して聴くほどのものとも思えませんでした。

 フリージャズ第2世代以降の問題は、フリージャズしかやらない人が生まれたことで、色々と音楽的な基礎や深みがない事なんでしょうね。「自由な表現」というのは、やる方としては免罪符のような有り難い言葉だけど、それで大したものを作れるほど音楽は甘いもんじゃないという事じゃないかと。これではただのヘタクソで、音楽も演奏も不勉強なだけの人にしか感じませんでした。まあ、この時マレイさんは21歳だったというし、仕方ないかも。ところで、なんでこれが名盤という事になってるんだろう。マジでジャズ評論家のいう事ほど当てにならないものもない(^^;)。


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書籍『楽譜の書き方』 仙田尚久

Gakufu no Kakikata_SendaNaohisa フリーハンドで楽譜を書く時の手引書です。著者の仙田さんは写譜屋さんだったそうで、さすがにうまい!僕がこの本を読んだのは、自分の書く楽譜がきたなかったから(^^;)。綺麗に書いてある楽譜って、たとえそれがラフでも、いい曲に見えるじゃないですか。あれに憧れたんです。

 こういう本、本当に馬鹿に出来ません。棒の長さはどれぐらいが良いかとか、休符はどうやって書くかとか、手書きでトレモロを書く時はどうすると良いかとか、鉛筆で書く場合にタマは楕円にせずに球にした方がよほど見やすいとか。もう、すべてがヒントの山でした。僕の書く楽譜は今もベートーヴェンなみに汚いですが(^^)、それでもこの本を読んでかなり改善されたのですよ。。

 楽譜を読みやすく書くのは、特に音大の受験生やコンクールに応募する人は、ものすごく気になるところではないでしょうか。音大受験なんて、音符が読みにくいだけで落とされるといいますからね。というわけで、こういう本は馬鹿にしちゃいけません。ポップスやロックみたいに、譜面作成ソフトで作れるような簡単な楽譜でいい人なら要らないかも知れませんが、現代曲とか、ちょっとひねった記号を使った楽譜を書こうと思ったら、圧倒的にフリーハンドの方が有利。曲を書く人は、一度は目を通しておくべし!


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『John Dunstable: Motets / The Hilliard Ensemble』

DUNSTABLE motets デュファイと並んでブルゴーニュ楽派で有名なのが、ダンスタブルです。デュファイが本家ならダンスタブルは元祖という感じなのかな?ダンスタブルはブルゴーニュ楽派とはいえイギリス出身。最後にブルゴーニュ公国の宮廷と関係を持ってたのでブルゴーニュ楽派とも言われるみたいですが、実際にはアルス・ノーヴァの作曲家に数えられる事も多いみたいです。このCDは完全な無伴奏合唱で、合唱はヒリアード・アンサンブル

 ダンスタブルがイギリスから大陸ヨーロッパに「フォーブルドン」なんて呼ばれた和声法を持ちこんだ事でルネサンス音楽が始まった…な~んて僕は学生時代に習いました。フォーブルドンがどんな書法かというと…学生の時に授業でとったノート、いま読んでも意味が分からない(^^;)。解読すると、それまでは1,5,8度の和音でオルガヌムみたいな2声だったのが、3度や6度の和音が出てきて3和音になって…あたりみたいです。僕が授業で聴いた音楽では、4声でひとつはバス、残り3つの真ん中があるとして、その上が4度、その下が6度、な~んて感じのインターバルだった記憶がありまして、この4度と6度の和声を持ちこんだのがルネサンス音楽の始まりだ…みたいな。なんせ30年近く前の記憶なので自信がないんですが。もっとちゃんとノート取っておけばよかったな、聴かせてもらった曲のタイトルすら分からないし(^^;)。
 フォーブルドン書法はイギリスでは既に使われてたんだけど、それを大陸ヨーロッパに持ち込んだのはダンスタブルで、ここからヨーロッパ音楽が一気に技法的に発展してルネサンス音楽に繋がる、みたいな(^^)。

そんなダンスタブルの代表曲といえば、「Veni sancte spiritus(聖霊よ、来りたまえ)」で、このCDでも1曲目だし、僕がこのCD以外で唯一ダンスタブルの曲を聴いた『ルネサンス・モテトゥス集』というオムニバスCDにも、この曲が入っていました。で、雰囲気でいうと、まだ4声が自在にバラバラに動く感じが弱くて、なるほど雰囲気でいえばたしかにルネサンス音楽以前のアルス・ノーヴァなのかな、みたいに感じました。それは、他に入っている8つのモテトゥスでも同じでした。

 以降のデュファイやラッススあたりの作曲家と比べるとまだモッサリして地味な感じを受けましたが、ここからルネサンス音楽が始まったと思うと感慨深いものがあります。ルネサンス以前のヨーロッパなんて妖精が飛んでいるぐらいのイメージなので(^^;)。そんな時代の音楽をいま聴く事が出来るというのがすごい。そんな事が出来るのは楽譜が残ってるからだと思いますが、ダンスタブルの曲の楽譜って、観ても訳わからないんですよ、音符がひし形してたりして(^^;)。。


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『Dufay: Missa Ave regina caelorum Dominique Vellard (cond.), Schola Cantorum Basiliensis』

Dufay_Missa Ave regina caelorum このCDに入っている「ミサ・アヴェ・レジーナ・チェロールム」は、デュファイ最高傑作の呼び声高いミサ曲です。そして…なんだこの素晴らしさは?!鳥肌が立ってしまったよ…。ミサ曲ってどこか形式的なものを感じる事が多いんですが、このミサ曲はあまりの素晴らしさにそんな事を感じる間もないまま一気に聴いてしまいました(^^)。僕が聴いたものは、ミサ曲の5つの楽章の間に、イントロとかアレルヤとかが挟まれていて、全9章になっていました。そして、間に挟まれるものはすべてグレゴリオ聖歌からの引用。

 デュファイのミサ曲は7~10曲ほどあると言われていて、僕はその中の3曲を聴いた事がありますが、どれも甲乙つけがたい素晴らしさ。そんな中で、この「アヴェ・レジーナ・チェロールム」の特徴をひとつ挙げるとすると、和声のサクセションのカッコよさです。ミサ曲って、「キリエ」「グロリア」「クレド」…と5つの章から出来ていますが、この曲の「グロリア」は、なんと曲中で現代でいう短調に一瞬転調します。いやあ、こんなミサ曲きいた事ないよ…。そして、ここのよじれる感じがゾクゾクでした(^^)。そして長調に戻って、最後が「アーメン」。いやあ、これはしびれた。。同じような長→短→長というよじれは「クレド」にも出てきます。う~んなるほど、この和声的な色彩感覚がブルゴーニュ楽派の特徴なのかも。同じブルゴーニュ楽派のダンスタブルも思いっきり3度や6度を使ってましたし。ただ、ルネサンス末期のモンテヴェルディあたりになると、同じような和声的な色彩を鮮やかに感じつつ、今の音楽みたいなドミナントも感じますが、この音楽はあんまりドミナントは感じません。そういうわけで、今の調組織とはちょっと違う考えなのかも知れません。今の時代の僕的は、逆に「おおお、なんだこれカッコいい!!新しい!」って思ってしまいました。

 ちなみに、「アヴェ・レジーナ・チェロールム」は、ローマ・カトリック教会の聖務日課に入っています。聖務日課というのは、カトリックの聖職者に日課として定められている神への祈りで、朝から寝るまでの決められた時間に祈りが決まってるみたいです。ある時間は朗読、ある時間は詩篇唱和、ある時間は賛歌だったりするらしいんですが、1日の最後に「結び」というのがあって、そこで歌われるのが「聖母賛歌」。これは4曲が指定されていてどれを歌っても良いらしいのですが、そのうちのひとつに「アヴェ・レジーナ・チェロールム」というのがあります。とはいえ、「アヴェ・レジーナ・チェロールム」って、デュファイだけじゃなくて、トマス・ヴィクトリアとか他の作曲家も書いてるし、あくまでこの詩歌を使ってれば何でもいいんですかね?それとも、誰の曲とか関係なしに「アヴェ・レジーナ・チェロールム」という詩句が聖書かグレゴリオ聖歌の中にあるんでしょうか。聖務日課でミサを歌うとも、ミサ曲全曲を歌うとも思えませんし…この疑問はいまだに分からないままです。こんなの、聖職についている方に訊けば一瞬で分かる事なんでしょうね(^^;)。。


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『デュファイ:パドヴァの聖アントニウスのためのミサ曲、来りたまえ、創り主たる聖霊よ アレクサンダー・ブラッチリー指揮、ポメリウム』

Dufay_Padova_Pomerium.jpg このCDに入っている「パドヴァの聖アントニウスのためのミサ曲」も、デュファイが作ったミサ曲のうちのひとつということで、思わず手を出してしまいました(^^)。デュファイはミサ曲を7~10曲ぐらい作ったらしく(!)、交響曲を確立したのがハイドンなら、ミサ曲を確立したのはデュファイなんでしょうね(^^)。ただ、このミサ曲がデュファイ作かもと言われ始めたのはけっこう最近(20世紀なかば)で、その後えらい学者がデュファイ作と認定したことで、めでたくデュファイのミサ曲のひとつに仲間入りしたんだそうです。

 誰が書いたかは僕なんぞには知る由もないのでとりあえず横に置いて、この曲の印象だけをまず述べると…どの曲もほぼ3声(1曲だけ4声)。組ミサですが5章の連作ではなく、10章から出来てます。キリエやグローリアなどの5章は入ってるんですが、それ以外にイントロイトゥスとかグラドゥアーレとかオッフェルトリウムとか、聞いた事のない楽章がてんこもり。解説を読むと、トレント写本というものの中に入ってる楽曲をデュファイ作と認定してまとめられたようなので、もしかすると実際にこういう形の組ミサじゃなかった可能性もあるのかな?また、こういう組ミサのスタイルが確定したのもデュファイかららしいので、まだ当時は5章からなると確定していたわけじゃなかったのかも。

 「パドヴァの聖アントニウスのためのミサ曲」は、このCDだとイントロイトゥスという章から始まるんですが、この楽章、まるで現代のイージーリスニングのよう。森の中で妖精と出会ったような、お菓子の家を盛で見つけたような、そんな不思議なメルヘンを感じる音楽 (^^)、とてもミサ曲とは思えませんでした。「ス・ラ・ファセ・パルのミサ曲」とか、傑作と言われる「アヴェ・レジーナ・チェロールム」と比べると、この曲だけ作風が違って聞こえます。カノンではなく、まるで定旋律にメリスマつきの和声づけをした音楽に聴こえるからかな?本当にデュファイの曲なのか疑ってみたりして(^^;)。でも、誰が作ったのかはともかく、メッチャ気持ちいい!バッハの作るフーガよりも、和声的な色彩感は明らかに上。かといってルネサンス音楽のポリフォニーがみんなこういう色彩感を持ってるかというと、たとえばローマ楽派のパレストリーナなんかはそうでもないので、これはあくまでデュファイ個人の持ち味なんでしょうね。素晴らしい!

 そして、ポメリウムの合唱ですが、ヨーロッパではなくアメリカのグループだし、ジャケットはなんだかポップだし(美しくて好きですけど^^)、聴く前は若干ナメてました。でも、クレッシェンド/ディミネンドをつけて歌うシロス修道院~ヒリアード系ではなく、綺麗に音を響かせるコーラスで、バランスもピッチも完璧、メッチャ美しい!音は、まるでデジタルリヴァーブをかけたような機械的な美しさ…と思ったんですが、クレジットを見るとニューヨークの教会での録音のようです。1995年アメリカ録音…なるほど、録音はちょっとイージーリスニングっぽくもないですが、中域の音がだんごになる所だけちょっと削ったとか、そんな感じなのかも。美しいコーラスである事は間違いないです!


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『デュファイ:ス・ラ・ファセ・パル マンロウ指揮、ロンドン古楽コンソート』

Munrow_Su la Fase Pal ルネサンス音楽初期といえばブルゴーニュ楽派の作曲家陣。そして、ルネサンス音楽&ブルゴーニュ楽派の口火を切ったのがイギリスのダンスタブルなら、代表選手はこのデュファイ!デュファイはキリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュスデイの5楽章構成によるミサ曲のスタイルを最初に作った人と言われていて、9曲ほどのミサ曲を書いたそうです。その中でデュファイが50才のころ書いたといわれている「Se la face ay pale」は、6の和音も普通に鳴ってるし、そういう意味ではロックよりもぜんぜんモダンなサウンドで、現代でも思いっきり通用しそうな音楽です(^^)。

 このミサ曲は「循環ミサ曲」なんて言われていて、定旋律を5つの章のすべてに使って、楽曲全体に統一感を出そうという形式をしたミサ曲です。定旋律というのは、新たに作曲した旋律を使うのではなく、すでにある既存の音楽の旋律を使う事。このミサ曲で使われている定旋律は、デュファイ自身が書いたシャンソン(ルネサンス当時の世俗音楽のひとつ)「Se la face ay pale」からのもの。このCDは、もとになったシャンソンも入ってます。う~んなんと親切なんだ(^^)。そして、このシャンソンの方はすっごく楽しそうな家庭的な音楽に聴こえるのに、おなじメロディを使ったミサ曲はというと…うわあ、いきなり透き通るように美しい!う~んこれはハーモニーに4度5度8度だけでなく3度とかも入りこんでるからだな…。そんなわけで、ステンドグラスから木洩れ日がこぼれるようであったかい(^^)。これは死者を送り出す曲には聴こえない、まるで愛に満ちあふれたこの世の幸福を描いてるようです…って、なに言ってんだ俺(^^;)。要するに、中世のポリフォニーと決定的に違うのは和声。それまでは不協和音と言われていた3度も6度も、デュファイからは「不完全協和音程」に格上げ、おかげでいきなり線の音楽のポリフォニーに色彩感がブワッと出た、みたいな(^^)。う~んなるほど、中世のアルス・ノーヴァとルネサンス音楽の境界にあるのは、ひとつはこの和声の発展なのかも。

 ブルゴーニュ楽派のギョーム・デュファイといえば、5曲で構成されるミサ曲の形式を整備した人として知られていますが、これは驚くほど見事な作曲でした。循環ミサなのに「また同じ旋律かよ」みたいに退屈に感じる事はまるでなく、むしろス・ラ・ファセ・パルのメロディが持っている幸福感あふれる感じが最初から最後まで続いて、じつに心地よいミサ曲でした。こんな多幸感あふれるミサ曲があるんですね。超おすすめ!あ、そうそう、古楽のスペシャリストであるマンロウとロンドン古楽コンソートの演奏は…今さら言うまでもないですね、変に装飾しすぎる事もなく、古楽独特の素朴さ清廉さを見事に伝える演奏でした!


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『Pink Floyd / The Wall』

pinkfloyd_TheWall.jpg ピンク・フロイドの11枚目のアルバム、1979年発表です。2枚組で、コンセプト・アルバムというかロックオペラというか、ひとりの主人公の物語でした。

 曲が切れ目なくつながるし、たしかにコンセプト・アルバムっぽいです。ただ、ピンク・フロイド独特の幻想的な感じも、独特な音楽的な工夫も薄くなって、かなり普通のロックバンドに近づいた感じ。ピンク・フロイドのドラムって、かなり面白いリズム・フィギュアを作りだしていたのに、このアルバムでは安易にエイトビート叩いちゃったり…これは悲しい。『原子心母』以降しか聴いてないならまた感想が違うのかも知れませんが、『神秘』『ウマグマ』を知ってると、音も深みがなくって軽くて、ちょっとだけ残念だったかな。でも好きな曲もあって、「Another Brick in the Wall part1」はすごくカッコよくて好き(^^)。この曲だけが救いだったかな。。

 決して悪い作品じゃないし、力作とは思うんですが、『狂気』以降のフロイドは音楽的なイマジネーションを出し尽くしてしまっていて、それでも良いものを…と無理やりひねり出している感じなのかも。それでも何とか踏ん張れれば『』みたいな良いものを作り出せるけど、踏ん張れないと、SEとか物語とか、そういう音楽ではない所のアイデアしかもう残ってない、みたいな。キング・クリムゾンみたいに作曲や演奏でプログレッシブな所に踏み込んでいけるだけの力があるバンドではないから、どうしてもアイデア勝負にならざるを得ない部分は出てきちゃうのかも知れません。

 それでも、チャート音楽を10曲並べただけのアルバムをひたすら作ってるバンドとか、いまだにお客さんの集まりそうなレパートリー並べてコンサート開いてるようなタイプのクラシックやジャズよりはよほどクリエイティブ。僕はこのアルバムでピンク・フロイドを卒業したんですが、今にして思えば嫌いになる前に別れる事が出来た恋人とでもいうか、いい別れになった1枚の気がします。これはもう手放そう、長い間ありがとね。


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『Pink Floyd / Wish You Were Here』

pinkfloyd_wish you were here 買ったけど読んでない本はけっこうあるんですが、買ったけど聴いてないLPやCDはあまりないです。でも、『狂気』に続いてピンク・フロイドが発表したこの『炎~あなたがここにいてほしい~』は、聴いた記憶がありません。きっと、買うには買ったけど、『狂気』の印象がだんだん悪くなってしまったもんだから聴く気になれなくなって、そのまま忘れ去られたんじゃないかと(^^)。というわけで、購入から恐らく30年以上たってはじめて聴きますが、さてどうでしょうか。

 おお~良い!これはいいですよ(^^)。『狂気』と同じ流れにあって、でもこけおどしっぽいギミックがないだけに『炎』の方が僕は好きです!というか、原子心母』以降では、このアルバムがいちばん好きかも。だんだん分かってきましたが、『おせっかい』、『狂気』、『炎』という70年代前半のピンク・フロイドの音楽は、ジャーマン・シンセに近いというか、あの流れにちょっとポップスの要素を入れたぐらいの音楽なんじゃないかと。シンセを実際に使ってるかどうかじゃなくて、シンセ音楽みたいにサステインの長い音の和音の気持ち良い響きを中心に音楽を作っているという意味です。
 この音楽を聴いて僕がすぐに連想するのはクラウス・シュルツェやアシュラやタンジェリン・ドリーム。現代音楽と違って、ロックのシンセ音楽って、ストリングスの代用的な使われ方が多いじゃないですか。ロックで使ってた他の楽器との差は、サステインの長さで、和音楽器で、(当時は)聞いたことのない音色が魅力で…みたいな。これが、シンセやオルガンといったサステインが長く音色がソフトな音で作る和音の気持ち良さを真ん中に置く音楽を生み出したんじゃないかと。

 このアルバム、ヒプノシスがデザインしたジャケットもカッコよくて好きです。ロック系のシンセ音楽の中では、相当に好きな1枚になりそうです。まさかこの歳になってから70年代ピンク・フロイドにハマるとは思ってもいませんでした。いやあ、売らずにとっておいてよかったなあ(^^)。


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『Pink Floyd / The Dark Side of the Moon』

PinkFloyd_DarkSideOfTheMoon.jpg 1973年にピンク・フロイドが発表したアルバムです。日本タイトルは『狂気』、ピンク・フロイドで一番有名なアルバムではないかと。こいつがなかなか僕の中ではクセモノだったのです。。

 多くの音楽好き青年がそうだったように、僕も若いころにプログレッシブ・ロックにどっぷりハマったのでした。その頃、音楽雑誌でのプログレの扱いはイギリスのバンドの事で、本命ピンク・フロイド、対抗キング・クリムゾン、三番手でイエスぐらいに扱われていた印象。プログレの中でも『狂気』との出会いは比較的早くて、音楽も詞も新鮮。「プログレってダントツに面白い、ピンク・フロイドってすごい」と思ったのでした。例えば詞。「Breathing in the air」では、「all you touch and all you see is all yourlife will ever be」なんて言葉が出てきますが、訳せば「あなたの触るもの見るものすべてがあなたの人生そのものとなるだろう」。それまで「俺はスピードキングだ」とか「乾杯、いま君は人生の」なんてものが歌の詞だとばかり思っていた中坊にとって、まったく新しい世界を開いてくれた音楽だったのでした。

 でも、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いてビックリして、クリムゾンの方がぜんぜんすごいと思い、『狂気』は2位に転落。更にクリムゾンの『太陽と戦慄』『RED』を聴いてぶっ飛び、「クリムゾンの傑作って、そもそも宮殿じゃないじゃん」と思って、狂気は5~6位ぐらいに転落。さらにピンク・フロイドの『神秘』『ウマグマ』を聴いた瞬間に「そもそも狂気ってピンク・フロイドの中でも上位の作品ですらないじゃん」となり、さらにジャーマン・ロックやAREAあたりのイタリアン・プログレと出会い…もうこの辺まで来ると、『狂気』は完全に圏外。圏外どころか、いつの間にか「狂気はプログレじゃなくって、ギミックを増やしただけの産業ロック。ピンク・フロイドが妥協してからの音楽」という印象になってしまったのでした。。ピコピコ鳴っているリング・モジュレーターの音はシンセやエフェクターをいじってるだけのお遊び。時計の音やレジの音も、最初は面白く感じていたはずが、チープなギミックにしか聴こえなくなってしまったのです。だから高校生になった頃には、「フロイド聴くなら『ウマグマ』か『神秘』。『狂気』が良いなんて言ってるのはプロレスのギミックに簡単にだまされる子どもと同じだね」な~んて生意気な事を言い放っていたのです。いやなガキだね(^^;)。そんな風にして僕はいつしか『狂気』を聴かなくなり、30年近くが経ちました。

 そして、久々に聴いた『狂気』は…実に良かった(^^)。。ギミック部分やシンセのモジュレーション遊びなんかは、さすがに色んな音楽を体験した後で聴くとやっぱり幼稚に感じるというか、あまり面白くありませんでした。でも、残った「ただのポップス」が、メチャクチャに気持ち良かった!「Breathe」や「The Great Gig In The Sky」や「Us and Them」なんて、ロック版サティというか、『アビイ・ロード』B面に匹敵する完成度というか、こんなに良いポップスもないだろうというほどの完成度、本当に心地よかったです(^^)。音楽としてのピンク・フロイドは『神秘』と『ウマグマ』が圧倒的と感じますが、こういう「ちょっと凝った産業ロック」みたいに方針転換した後のフロイドは、あくまでポップスとして聴けば本当にすばらしかった。

 30年近くも聴いてなかったし、聴く気にもならなかったもので、最後に1回だけ聴いてこのアルバムは手放そうと思ってたんです。でもこんなに心地よく感じるなんて、実にうれしい誤算でした。僕はアルバム『おせっかい』は好きなので、チープなギミックさえ気にしなければ、曲のムードが『おせっかい』にそっくりなこのアルバムをつまらなく感じるはずがなかったのかも。それに気づくのに30年もかかってしまった(゚ω゚*)。どんなレコードも、手放す前に一度は聴いておくべきですね(^^)。


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『Pink Floyd / Atom Heart Mother』

PinkFloyd_Atom Heart Mother 邦題は『原子心母』、プログレッシブ・ロックの代表的バンド・ピンクフロイドが1970年発表に発表したアルバムです。このアルバムの前までのピンク・フロイドはサイケデリック色が強かったですが、このアルバムからはサイケ色が薄まり、『The Dark Side of the Moon』前後の幻想的な作風にシフトした印象でした。ピンク・フロイドのパブリック・イメージって、このアルバムから『炎』あたりまでなんじゃないかと!

 レコードA面全部を使った1曲目「Atom Heart Mother」、僕はアタマと最後に入っている管楽器アンサンブルがちょっと好きじゃなくって印象は良くないんですが、聞き返すたびに、「ああ、他のところはすごくフロイドっぽくていいなあ」と思うのです(^^;)。特に、中間部のオラトリオのようなコーラスとクラスター部分がカッコいい!この管楽器や声楽のセクションは、ロン・ギーシン(クラシックの作曲家)が作曲してるらしいので、これはもうフロイドのオリジナルとは言えないですね(^^;)。ただ、構造はAのつぎはB、次はC、次はD、そしてA…みたいに恐ろしくシンプルなので、20分以上あるとはいっても単純かな(^^;)。
 B面に入って「if」は、ブリティッシュ・トラッドのような郷愁ただよう曲。続く「Summer '68」「Fat Old Sun」「Alan's Psychedelic Breakfast」は、そうした作風をちょっと発展させた感じ。この3曲、好きだなあ。『原子心母』以降のピンク・フロイドの音楽って、プログレというより、こういうブリティッシュ・トラッドみたいな曲をベースにして、それをシンセで雰囲気ものに仕上げている曲が多く感じます。そして、それが気持ち良くてすごく好き(^^)。

 冒頭のホーンセクションのアレンジがあまり好きじゃないので、個人的には印象が良くないアルバムなんですが、それ以外は実に好きなアルバムです。特にB面は最高に気に入っていて、少し現代風にアレンジしたブリティッシュ・トラッドと思って聴くと、こんなに気持ちの良い音楽もないです。プログレと思わずに聴いた方が、意外と印象がいいアルバムなのかも (^^)。


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『チュニジア、アルジェリアの音楽 (世界民族音楽大集成40)』

Chunijia Arujeria no ongaku_40 モロッコの西にあるふたつの国、アルジェリアとチュニジアの音楽です!アルジェリアとナイジェリアって間違えませんか?地理的にもそこまで離れてないですしね。僕は「地中海沿岸にあるジェリア」って覚えてます…アホですね(^^;)。映画「カサブランカ」で、ナチから逃れようとするイングリッド・バーグマンのアメリカ亡命ルートは、たしかフランス→チュニジア→アルジェリア→モロッコのカサブランカ→飛行機に乗ってポルトガル→アメリカ、だった記憶がありますが、違ってたかなあ。。このCDは兵庫教育大学の水野信男さんという民族音楽学の教授先生が現地に赴いての現地録音。やっぱり現地録音は素晴らしい、しかも音像が見事なステレオ録音です。

 北アフリカのうちリビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコはマグリブ地方なんて言われますが、なるほどアフリカ大陸といっても打楽器や集団合唱のアフリカ音楽ではなく、思いっきりアラブ音楽でした。1~7曲目がチュニジアの音楽で、1~2曲目がイスラムの宗教音楽。
 トラック1のアザーンは、いつか取りあげた『シリアの宗教音楽 Syrie: Muezzins d’Alep Chants religieux de Islam』に節回しがすごく似てました。ひとりだけでの呼びかけという所も同じ。でも、『シリアの音楽 (世界民族音楽大集成36)』のものは呼びかける人と追従する人がいたし、もっと棒うたいだったので、アザーンといってもイスラムですべて統一の形式ではないんですね。
Chunijia.jpg トラック2はイスラム神秘主義のジクル、これがすごい迫力!ジクルはイスラム神秘主義の教団が行うもので、神の名をひたすら繰り返し唱えるというものですが、これはシャージリー教団によるもの。男声(恐らく女性は禁止なんでしょう)集団でひたすら神の名を繰り返し、どんどんアッチェルして音域も高くなっていき、いきなりまた元に戻って、また速く高くなっていき…という感じなんですが、ものすごいです。『シリアの音楽 (世界民族音楽大集成36)』に入っていたものは、ホモフォニーの他に詠み手がいた記憶があるんですが、これはホモフォニーのみ。それだけにトランスする感じがすごいです。CDでは5分ほどの抜粋でしたが、実際には3時間ほど続けられたそうです…これをそんなにやったら絶対トランスするわ(^^;)。

 4~7曲目はチュニジアの芸術音楽、マルーフでした。マグリブのアラブ風古典音楽は「アル・アンダルース音楽」なんて言われていて、レコンキスタでスペインからイスラムがアフリカ大陸の撤退した事でスペイン音楽とフュージョンして生まれたんだそうです。アル・アンダルース音楽は、チュニジアではマルーフ、アルジェリアではガルナーティと呼ばれるんだそうで。このCDに収録されていたのはウードの演奏で、どれも見事。フラメンコらブラジル音楽などなど、ギター音楽が好きな人だったら絶対に好きなはず(^^)。タクシーム(即興演奏)が多く、マカームはM4がラスト・エディール(マグリブ固有のものだそうです)、M5がナハーワンド(ほとんどフラメンコ!)、M6がラースト、M’がラースト・スーズナック。あ、M7はタクシームの後にマルーフが続いて、マカームはアスバハーン。

Arujeria.jpg M8からはアルジェリアの音楽。これが他ではなかなか聞くことの出来ない音楽のオンパレードですごかった!!チュニジアやモロッコよりも国土が圧倒的に大きいアルジェリアですが、僕はまったくイメージがないのです(^^;)。。国土の大半がサハラ砂漠で、人口の9割はアトラス山脈の北にある地中海沿岸に住んでるんだそうです。
 M8はナーイの合奏で、素晴らしい演奏だけど、これならエジプトや他の地域でも聴けそう。ビックリしたのはその次からで、まずはM9のヌーバ(またはナウバ)と言われる合奏の組曲がめっちゃエキゾチック!これはしびれた。。ラバーブやヴァイオリンなどの擦弦楽器が奏でている旋法もエキゾチックなら、タンブリンやダラブッカの打楽器の音やリズムもエキゾチック。いや~これは必聴、素晴らしかった。。
 M10は一変してしっとりとした歌音楽。コンボ編成ぐらいの歌音楽なんですが、これがアンサンブルや雰囲気を含めてまた見事!ものすごく眩惑的なムードで、ウットリしてしまいました。13分ほどの曲ですが、ルバートでゆったり流れていって、途中でインテンポになり…みたいに、構成も劇的。アル・アンダルース音楽というとこういうのが一番僕のイメージに近いんですが、これってマグリブの歌謡曲ぐらいの位置づけになると思うんですが、英米型のポップスよりぜんぜん高度でした。アル・アンダルース、すげえ。。

 いや~、アル・アンダルース音楽は、10年ぐらい前(?)にライス・レコードかどこかが3枚組のコンピレーションを出してたんですが、買いそびれたままなんですよね。このCDのアルジェリアのアル・アンダルース音楽の素晴らしいのを聴いてしまうと、買っとけばよかったな、まだ手に入るかな。知識がないから日本語解説つきがいいんだけどな…。。モロッコ、アルジェリア、チュニジアのマグリブの音楽は、宗教音楽も芸術音楽も歌謡音楽もどれも最高でした!!


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『モロッコのグナワ Maroc: Hadra des Gnaoua d’Essaouira』

Morocco no Gunawa モロッコのCDでは、グナワのCDも聴いた事があります。このCDを聴いモロッコという国の文化の折り重なりを見た気がしました。預言者であり神がかりであり占い師である集団グナワの儀礼音楽です。

 グナワはモロッコやアルジェリアに住んでいる旅回りの音楽/儀礼集団。肌の色から察するに、アフリカ黒人、ベルベル人、それに白人(多分スペイン系)も混じっている感じ。グナワ共同体はもともとサァディー朝(モロッコのかつての王朝)に連れてこられた奴隷たちの居住地が発祥らしいです。宗教はこの地に元々あった多神教に色んな宗教が融合して成立した独特なもので、かなり呪術色が強いみたい。主な役割は旅回り先で祝福をしたり、治療をしたり占いをしたりして報酬を受け取っていて、例えば治療というのが音楽を奏でて香をたいて踊って…みたいな治療なので、呪術的というわけです。その呪術色の強さはこのCDを聴くだけでも一目瞭然、まさに呪術音楽なのでした(^^)。
 グナワの集団によって違うのかも知れませんが、このCDに入っていた集団の音楽(といっても儀礼の一部に音楽が使われていて、この音楽に合わせて踊ったり呪術的な治療や儀式をやってる)は、小さな合わせシンバルが数人、コントラバスみたいな音の楽器、あとは集団での合唱(というか、呪文の朗誦のよう)、というのが基本編成。音楽的にはコントラバスみたいな音の楽器がなかなか重要な役割をしてまして、例えればアフリカのチャールズ・ミンガス的(^^)。そうそう、序盤になかなかうまいギター(みたいな音の楽器)の演奏もありました。録音が悪くて、合わせシンバルの音がすごい近くにいるんですが、合唱が10メートル先みたいに聴こえたり(^^;)。でもこれ、儀礼の録音なので、ベストポジションにマイクを置くとか出来なかったんでしょうね、「特別に見せてやるが、端っこにいろよ」みたいな(^^)。
 そして、同じ音楽をくりかえす音楽は、もの凄いトランス系でした。なんちゃってではないマジの呪術音楽ですからね、そりゃすごいわけです(^^)。前にチベット仏教の強烈なマントラを唱える音楽のCDの感想を書いた事がありましたが、もうあれぐらいにヤバい感じ。

 モロッコのCDをけっこうたくさん聴いてきましたが(といっても5枚ぐらい?)、大きく感じるのは、第1にアル・アンダルース音楽、第2にマカームといった古典音楽、さらにもう少し俗な、街でやっているようなへび使いとかが奏でていそうな音楽。いずれもアラビア文化を感じるものだったんですが、でもこのCDはそこにリアル・ブラックなアフリカ音楽が入り込んで、他の音楽には形容できないような独特なものが生まれている感じでした。モロッコよりちょっと南下するとアフリカの吟遊詩人グリオたちの活動圏ですし、さらに南下して奴隷海岸まで抜けたらタムタムの神技やら黒い人たちのコール&レスポンスな集団合唱が聴けたりしますもんね(^^)。呪術の時代ってとんでもない昔かと思いきや、ヨーロッパだってアドニス神話やいけにえの儀礼がつい最近まで残っていたりしたし、アフリカや中南米やオセアニアではまだリアルタイムで生きていたりするし、自分の文化だけを基準にものを考えちゃいけないですね(^^)。


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『モロッコの音楽 (世界民族音楽大集成41)』

Morocco 41 もうひとつ、モロッコ音楽のCDを。これは、兵庫教育大学の民族音楽学の教授である水野信夫さんという方が、1982年と84年に現地に入って録音したもの。発売は日本のキング・レコードです。これって、録音してきたのを、後からキング・レコードに交渉して買い取ってもらったのかな?

 このCDでも、語られているのは7世紀のコルドバの音楽家ジルヤーブでした。そしてジルヤーブ作ったナウバが、アル・アンダルス音楽(アラブ・アンダルース音楽)の大元になったんだそうです。このナウバがレコンキスタ(キリスト教の国土再征服運動)にのっかって、モロッコやマグリブになだれ込んだんだそうです。ナウバはもともと異なる旋法にもとずく全24曲として体系づけられたんだそうですが、それが口承だったもんで、今では半分以上が失われたんだそうです。やっぱり紙に書き記すという文化を作った西洋は、文化や知識を次の世代に残すという意味で偉大だったんだな…。モロッコはナウバを残すのに五線譜化していて、いまだに口承のアルジェリアとはちょっと様相が違うそうで、とくにフェス、タンジール、マラケシュという都市にある市立音楽院がその伝承をになっているんだそうです。中心楽器はラバーブという弓奏楽器。
 そのナウバの演奏が、このCDの4曲目でした。なるほど、OCORA盤のウスタード・マッサーノ・タージがやってた音楽にすごく似てる!ただ、こっちのCDの方が録音に臨場感があるのと、ものすごい大勢で歌ってるように聴こえます。客席の声がすごいガヤガヤして、ときどき客席から手拍子が入るのがいいな(^^)。これはいいな。。あ、そうそう、3曲目は子どもたちにナウバを教えてる風景の録音なんですが、子どもたちの声がかわいい(^^)。

 そして、面白かったのが、1~2曲目に入っていたもモロッコの中南部の都市であるマラケシュの広場で録音したという大道芸人の音楽。1曲目は、へびつかいの音楽。想像通り、ピロピロした笛を吹くあれです!オーボエ系のガイタ1人と片面太鼓ベンディール2人の演奏。タイのキックボクシングの音楽のようでもあり、これはカッコいい!!
 そして、2曲目は、おもいっきり西アフリカの音楽のような打楽器音楽。でも実際にはニグロイドではなくコーカソイド系のベルベル人(北アフリカの先住民族)の群舞の伴奏らしく、小さな合せシンバルがずっと32分音符で基本のリズムを作りながら、他の太鼓や歌が4分音符でゆったりしてる感じ。このなんとも言えないグルーヴが気持ちいい。やっぱり、大有名な音楽以外にも、色んな音楽があるもんなんですねえ。

 いやあ、3枚聴きましたが、1枚はアラビア音楽、1枚はアラブ・アンダルース音楽、そしてこれはアラブ・アンダルース音楽を含めた色んなモロッコの音楽。けっこう違いました(^^;)。やっぱり、CD1枚だけでその国の音楽を理解した気にならない方がいいですね。個人的には、このCDが純粋に音楽として一番好きだったかな?モロッコの音楽を1枚だけ手にするにしても、色んな音楽が聴けるこれが一番いいかも。このシリーズ、昔はバラ売りしてたんですが、今はセットものでないと手に入れるのむずかしいのかな…。


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『モロッコの古典音楽 MAROC: USTAD MASSANO TAZI Musique Classique Andalouse De Fès』

MAROC USTAD MASSANO TAZI Musique Classique Andalouse De Fès もうひとつ、モロッコの古典音楽のCDを。これはフランスのOCORA原盤の1枚。このCDの主役はウスタード・マッサーノ・タージという人で、音楽家であり、同時に音楽療法を営んでいる宗教的な人物でもあるそうです。独奏ではなくて、アンサンブル演奏でした。

 おお、これはアラビアのマカームとはちょっと違う音楽だ!部分的にはアラビア音楽っぽいところもありましたが、大方はアンサンブル部分は西アジアでもアフリカでもスペインでもなく、インドやパキスタンの軽音楽みたいな雰囲気でした。これが噂のマグリブのアラブ・アンダルース音楽というやつか?!

 まず、このライナーによると、アラブ・アンダルース音楽のルーツは、9世紀にグラナダで活躍したジルヤーブZiryabという音楽家なんだそうです。ジルヤーブは「ナウバ」と「旋法の樹」というふたつのものを作って、これがアラブ・アンダルース音楽に決定的な影響を及ぼしたそうです。
 「ナウバ」はアラブ・アンダルース音楽に不可欠の音楽形式で、有拍と無拍のリズムの交替、声楽と器楽の交替、9種類のリズムが一定の順序で演奏される事、ひとつの旋法が選ばれる事、なんていう規則があるんだそうです。なるほど、だから1曲がメドレーみたいな感じんあってて、しかも長いんだな。
 「旋法の樹」は、自然界の諸要素と、中世アラブの医学の体液になぞらえて、旋法体系をロジックツリーの図形化したものだそうです。こういう枝分かれした組織図形を見ると、ユダヤのカバラを思い出してしまうのは僕だけでしょうか(^^)。

 音楽で体を治すというのは、祈祷師が医師や音楽家を兼ねるようなものなのかも。西アフリカにいるグナワとか、そのへんの伝統とかぶってるのでしょうか。音楽としては、スペインのミの旋法やアラビアのマカームの旋法の過半数を占めるマイナー系の旋法と違って、思いっきり長調だったりするので(色んな旋法があるんでしょうが、このCDに入ってる2曲は両方ともメジャー系。それどころか、思いっきりアイオニアンから始まってました)、あんまりエキゾチックさは感じず、印象だけで言えば優雅な音楽という感じでした。CDのタイトルにも入っている「Fès」(フェス)というのはモロッコの一都市で、この町ではこういう伝統的なアラブ・アンダルース音楽はだんだん聞けなくなってきてるのだそうです。なんか、ちょっとさみしいですね。。


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Author:Bach Bach
狭いながらも居心地のいい宿で、奥さんとペット数匹と仲良く暮らしている音楽好きです。若いころに音楽を学びましたが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたレコード/CDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度のものですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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ロシアとウクライナがほぼ戦争状態に入りましたが、僕はソ連解体後のウクライナについて本当に無知…。これは2016年にオリバー・ストーン監督が作ったウクライナのドキュメンタリー映画。日本語字幕版が出たらぜひ観たい このブログをYoutube にアップしようか迷い中。するなら作業効率としては早いほど良いんですよね。。その時にはVOICEROIDに話してもらおうかと思ってるけど、誰の声がいいのか考え中
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