
ノートルダム大聖堂の火災は、自分の中でなかなかのショックでした。ナポレオンもフランス革命もドイツ占領も塔の下に見てきた大聖堂が崩れていくなんて…。焼け落ちていく大聖堂の映像を観ながら、ノートルダム・ミサの事を思い出していました。
というわけで、西洋音楽を聴くなら絶対に聴いておきたい音楽、ノートルダム・ミサです。現在、西洋音楽は9世紀まで遡れますが、西洋音楽で今も伝わっている音楽をバロックまでザックリいうと、グレゴリオ聖歌、世俗歌曲、アルス・アンティクヮ、
アルス・ノーヴァ、ルネサンス音楽、バロック、みたいな感じです。このうちで
アルス・ノーヴァを代表する作曲家と言われているのがギョーム・ド・マショーで、さらに
マショーの代表作と言われているのがノートルダム・ミサ。というわけで、似たような音楽をいっぱい聴くなら、1枚ぐらいは自分の得意じゃないこういう音楽に手を出してもいいんじゃないかと。今の音楽ではとても聞く事が出来ないような魂を洗われるような美しさと荘厳さで、さすがにミサ曲なだけあって祈りの言葉のようにも感じられるものです。
まず、マショー作曲のノートルダム・ミサ曲について。
ひとりの人がミサ通常文全章を作曲した最初の曲がこれなんだそうです。ただし、よく作られるようになった5楽章構成(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュスデイ)によるミサ曲のスタイルを最初に作ったのは、ルネサンス音楽ブルゴーニュ楽派のデュファイ。けっこう最近紹介した事がある
『ス・ラ・ファセ・パル』や
『パドヴァの聖アントニウスのためのミサ曲』なんかがそうです。というわけで、この曲は5楽章ではなくて…ええ~18楽章?!…と思ったら、ノートルダム・ミサは6曲で、残りは実際のミサで歌われる「入祭唱」とか、途中で朗読されるマタイ書の一節とか、そういうものを全部再現したのがこのCDみたいです。おお~なるほど、実際のミサってこんな感じに進行するのか。。このCD、教会の鐘の音も、ハンドベルのような音も入ってましたが、きっと実際のミサを想定して入れてあるんじゃないかと。
ミサ曲の通常文は他の色んな作品で何度も読んできたのでだいたい分かるんですが、それ以外の文句が分からない(^^;)。「A~Ha~hahahahaha」みたいな所はいいんだけど、詩の内容が分かったらもっと理解できたかも。輸入盤の方が安いからって国内盤を買わなかった事を後悔…ってしかたないか、昔は輸入盤しかなかったしな。。
音楽部分は文句なしで素晴らしいです。僕みたいな古楽のニワカには、アルス・ノーヴァの傑作と言われるこの曲と、これ以降のブルゴーニュ楽派やフランドル楽派といったルネサンス音楽のどこに差があるのかまったく分からず(^^;)>イヤア。いい意味で、それぐらい「ああ、こういう所がまだ洗練されてないんだな」みたいなものをまったく感じない、すごい音楽でした。
アルス・ノヴァの特徴はイソリズムなんて僕は習いましたが、普通にカノン状の場所まで出てきてる部分でのリズムがそうなのか、久々に聴いた今もよく分かりませんでした。
イソ(同じ)リズムは「旋律を、反復するリズムに埋め込んで、それを楽曲の基礎とする手法」という事なんですが、昔からよく分からないのです。。あ、そうそう、ミサ曲部分では同じようなメロディが出てくるので、これもデュファイの『ス・ラ・ファセ・パル』と同じように循環ミサなのかな?
このCDでは、合唱も素晴らしいです。アーリー・ミュージック専門のパロット指揮タヴァナー合唱団の合唱は、CD『システィーナ礼拝堂の音楽』でも聴いた事がありまして、そこではパレストリーナ作「スターバト・マーテル」やジョスカン・デ・プレ作「主の祈り第2部/アヴェ・マリア」なんかを歌っていましたが、とにかく美しい、素晴らしすぎです(^^)。録音が教会みたいなんですが、もしかしてノートルダム大聖堂での録音なのかな、分かりません。教会特有のエコーが「ウワ~ンウワ~ン」みたいに何度も波になって響いてくるのが、ものすごく荘厳な雰囲気をかもし出していました。
この曲も700年ほど前の曲ですが、ノートルダム寺院もだいたい同じぐらいの古さだったはず。栄枯盛衰、素晴らしい完成度ながら、こうやって歴史のかなたに滅んでいった文化や文明はいくつもあったのでしょうね。あの建造物に優るとも劣らない見事な完成度を持ったミサ曲と思います。