諏訪内さんの演奏したフランクのヴァイオリン・ソナタを聴いていたら、やっぱりいい曲だったので、昔買ったCDを聴きたくなってしまいました。ええっと、たしかこのへんに(ゴソゴソ)…あったあった、これです、
クレーメル(vn)&マイセンベルク(p) の演奏!オレグ・マイセンベルクって、ソロイストとしての演奏は聴いた記憶がないですけど、クレーメルとかホリガーとか、超一流の器楽奏者の相方をよくつとめてます。超一流のソロイストの厳しい要求にこたえられるプレイヤーだとか、なにかの才能がある人なんでしょうね。興味があります。
聴きはじめて3分…諏訪内さんのフランクだっていい演奏だと思ったんですが、
クレーメルは次元が違いました。これ、ライブ録音だから一発録音ですよね、それでこの演奏は凄すぎるわ…
超一流はやっぱり特別だわ、すげえ。録音もこっちの方がぜんぜん良い!諏訪内さんの録音は、ヴァイオリンの音に「リヴァーブでお化粧してキレイにして!」みたいなガキくさい残響がついていてボワ~ンとしてペラッペラの薄い音になってるのに、こっちはホールの音が入っていながら楽器は近くにいて、音もすごく明瞭、しかも太い。う~んこれはいい、申し訳ないけど比較になりません。。
フランクについて。フランクという作曲家はクラシックの世界に何人かいますが、いちばん有名なのはこのセザール・フランクで、
ルパン三世よりすごいもみあげしてます。作曲家としては大器晩成型で、オルガン奏者を生涯つとめ、作曲に力を入れたのは年配になってから。
ようやく世間が「すげえいい曲なんだけど」と騒ぎはじめたのは、彼が60歳を過ぎてから。このヴァイオリン・ソナタも64歳の時の作品(1886年作曲)です。フランクの代表作はけっこう少なくて、コンサートでよく耳にするのはこのヴァイオリン・ソナタのほか、弦楽四重奏、交響曲ニ短調ぐらい。それぞれ「第〇番」とついていないのは、どれも1曲しか書いてないからで、寡作でもあったんですね。代表作のひとつであるこのヴァイオリン・ソナタなんですが、めっちゃいい曲!出だしのピアノの和音ひとつで「これはやばい、気持ちよすぎる…」って快感に浸らされてしまいますが、これをジャズ風にコードネームでいうと、E79 omit5。僕は音楽史をあんまりマジメに勉強してないのでよく分かりませんが、この時代に機能和声の中に上部和声を入れてくるって、けっこう早くないですか?フランスだから
ドビュッシーとかあのへんの和声系の進化が速かったのかなあ。フランクは音楽教師でもあったみたいですが、彼の下からフランス音楽のいい作曲家がずいぶん育ったそうなので、
フランス音楽独特のあの豊かな和声の源流のひとつは、フランクにあったのかも知れませんね。そして、曲の構造も素晴らしすぎ。後期ロマン派なのにワーグナーや
マーラーみたいな無駄な寄り道がないというか、入念に推敲を重ねて無駄をそぎ落としていった感じ。サウンドも構造も非の打ちどころのない完璧な曲じゃないでしょうか。これは大名曲、クラシックを聴かない人も、ぜひ一度聴いてみて欲しいです。
そして、フランクに焦点をあてたこのCDにもうひとつは入ってたのが、フランクのもうひとつの代表作
弦楽四重奏ニ長調、演奏はプラハ四重奏団。
この曲も出だしからヤバい、最初の1分で「ああ、大名曲だわ」と分かる素晴らしさ。和声なんて神秘的といっていいほど。ただ、曲のフィナーレだけは「ジャジャ~ン」でダサいですけどね( ̄ー ̄)。4楽章に分かれていてしかも弦カルにしては長い曲なので散漫になりそうなもんですが、同じ主題が再帰して出て来たりして、ずっと統一感が失われないのが見事。この曲、フランク最晩年の67歳の時に書かれたそうですが、人生の最後にこれだけの曲を世界に残して去るというのは、なんという素晴らしい遺産を残してくれたんだろうと感動してしまいます。そしてこれも録音がメッチャいいです。ホールの音を含んですごく豊かな音なのに、遠く聴こえないし、しかもすごく楽器それぞれの音が明瞭。ステレオ感がかなり強くて、面白い弦カルの並びもよく分かります。
とんでもなく素晴らしいCD。聴かれる事の少ないフランクという作曲家の代表作ふたつを、最高の演奏と最高の音で聴く事が出来ます。こんなにすごいのを聴いてしまうと、なかなか他のフランク録音には浮気しづらいなあ(^^;)。