
うちにあるコントラバスの
齋藤徹さんのCDのひとつです。ソロ・コントラバスの演奏、2001年にギャラリーで演奏したもの、色々とすごいものが詰まっている演奏だと思います。
演奏している曲が、タンゴの
ピアソラ、バロックの
バッハ、ブラジルのナザレにバーデン・パウエル、そしてオリジナルと、ボーダーレス。それが、「どんな音楽も出来ますヨ」というテクニック自慢ではなく、えらく表現重視な演奏に聴こえて、なんというんでしょうか…当時はまだ音楽で食べてたもので、ものすごく憧れるものがありました。クラシックを演奏するとかジャズを演奏するとか、そういう事じゃなく、あらゆる音楽を統合して究極の音楽を作る、みたいな。出来るならそういう音楽をしたいと思っていたんですが、良くも悪くも僕は職業演奏家だったもんで、求められる音楽を演奏して日銭を稼ぐので精いっぱい。でもそれはミュージシャンではあってもアーティストじゃない。本当はアートな音楽をやりたいわけで、こういう活動を出来る技術も覚悟もすごいな…と、心から憧れました。当時、東京やパリやベルリンみたいな世界の大きな都市ではそういうミュージシャンがそれなりにいたように見えたんですが、関西ではぜんぜん。やる人も聴く人もいないし、やろうにも場所すらない…みたいな感じで、なんだかんだ言ってもやっぱり東京は関西と比較していいレベルじゃないほど進んでるな、と思ったものでした。
このCD、ガリアーノというコントラバスの名器を使っての演奏らしく、それも売りのひとつみたい。でも、正直いって僕にはこの楽器のどの辺がすごいのかよく分かりませんでした。録音が長野のギャラリーで、エコーがいつまでも消えてくれないでボワンボワン、それで分かりにくいという事もあったかも。あと、ビートの強いタンゴやショーロを演奏するには、齋藤さんはリズムがちょっと…みたいに感じてしまったんですよね。というわけで、素晴らしいけどこれが齋藤さんのベストパフォーマンスではない、みたいな。でも、ジャケットに写っているように
弓の二本使いとか、弓で演奏しつつ左手のピチカートを演奏するとか、超絶と言っていい演奏が随所に出てきて、きっとこの人は音楽ジャンルではなく、
コントラバス特有の演奏技法からコントラバス音楽を再構築しようとしてるのかも、なんて思いました。それにしても、齋藤さんの死はかなりのショックです。日本で本当の音楽をやっている数少ないプレイヤーのひとりと思っていました。どうぞ、安らかに。
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