信じられないほどの音楽を作り出したジョージ・ラッセルの『Jazz in the Space Age』に参加し、ジャズのアドリブもクラシック出身らしいスコアへの強さも光ったビル・エヴァンスが、リバーサイド・レーベルからスカウトされて作ったソロ・デビュー作です。1956年録音、ピアノ・トリオで、メンバーは、Teddy Kotick (b) とPaul Motian (dr) です。
最初の2曲は、のちにパブリック・イメージとなる耽美派ピアニストというより、まるでニュージャズか理論派作曲家ピアニストみたい。「Conception」あたりは、思いっきりバド・パウエルな感じ。そして、すでに「My Romance」「Waltz for Debby」という、生涯通じて演奏し続けた曲を耽美的に演奏してもいます。他には「Easy Living」や「Speak Low」というスタンダードも。つまり、うしろにドビュッシーもビバップもクラシックもハードバップも、そしてアドリブもコンポジションも全部聴こえるのです。
これぐらいマジでクラシックやってた人がジャズの世界に食い込んだのって、ビル・エヴァンスが初めじゃないでしょうか。ビル・エヴァンスがいなければ、マイルス・デイビスの「Blue in Green」も、ジョージ・ラッセルの「Jazz in the Space Age」も成立しなかったんじゃないかと考えると、モダン・ジャズの進化のキーマンになった超重要なピアニストだったんじゃないかと思います。ただこのアルバム、リリース当時はまったく売れなかったそうで、これで天才ジャズ・ピアノストは、ジャズクラブで毎晩演奏して日銭を稼ぐ貧乏プレイヤーのひとりに落ちぶれ、以降は普通のジャズファンにも分かりやすい耽美的なバラード弾きに落ちぶれてしまった…みたいなところだったんじゃないかと。まあ、その人生自体を耽美的に美化して語った日本の評論家に文筆の才があったという事かな?でも、音楽そのものを聴くなら、間違いなくこれでしょうという1枚だと思っています。ファンの耳が肥えてさえいればもっと飛躍出来ていただろうミュージシャンって、少なくないんですよね。。