
ボサノヴァの歴史で言えば
『The Legendary Goao Gilberto』、ヒットなら
『Getz/Gilberto』がジョアン・ジルベルトの代表作という事になりそうですが、僕が一番好きなアルバムはこれです。邦題は『イマージュの部屋』、1977年発表です。
ジョビンの曲が半分を占めているとはいえ、ガーシュウィン作曲でジャズのスタンダードと化した「ス・ワンダフル」、メキシコの大名曲「べサメ・ムーチョ」、イタリアの曲「ESTATE」などなど、ボサノヴァ曲にこだわっているわけではないみたいです。というか、そういう
世界のヴォーカル・ミュージックの名曲をボサノヴァ調のアダルト・コンテンポラリーに仕上げるのがこのアルバムの意図だったんじゃないかと。これがとんでもなく素晴らしいんですよ…。
『The Legendary Goao Gilberto』とのいちばんの差は、録音。50年代のジョアン・ジルベルトのレコードだって、ストリングスアレンジは入ってるし、テンション入りまくりのギターのスタイルはもう確立してるし、このアルバムの音楽とさして遜色ないと思うんです。でも、違うのは録音。1曲目「ス・ワンダフル」の
冒頭のストリングスが聴こえた瞬間に、「ああ、これはいい…」となってしまいました。音が綺麗に伸びて、ブワーッと広がって…これは録音としか言いようがないです。
そして「ESTATE」に至っては、切ない和声進行とゆったりした曲調のミックスが、なんとも言い難い絶妙の雰囲気を醸し出しています。それを、ストリングス、フルート、そしてあのギターと囁くようなヴォーカルが奏でて…
ジョアン・ジルベルトの録音で僕が人に1曲だけ推薦するとしたら、この「ESTATE」かも。アダルト・コンテンポラリーの素晴らしさが詰まった名演、名アレンジ、名録音だと思います。
ブラジル曲に関しては、「Wave」も「Triste」も有名すぎて聴きなれてしまったのかも知れませんが、音楽にはそこまで心を動かされませんでした。でも、詞がヤバいんですよ。
孤独を生きるのは悲しい事、情熱の残酷な痛みを生きるのは悲しい事 (Trisete)
この道はよく知っている、どこにも行きつく事のない道だ (白と黒のポートレート) 難解になり過ぎず、しかし精神年齢が子どものままではとても到達できない言葉だと思いませんか?これをアダルト・コンテンポラリーと言わずして何という、素晴らしすぎる。あ、そうそう、「白と黒のポートレート」は、
チェット・ベイカーが自殺直前に残した録音でも取り上げていましたが、これはチェット・ベイカーのアレンジの方が好き。
ジョアン・ジルベルトが聴かれるとき、どうしても後回しになってしまうアルバムだとは思いますが、『Getz/Gilberto』に感動した経験がある方は、あそこで止まらずにぜひこのアルバムも聴いて欲しいです。こういうアルバムを1枚でも残す事が出来たなら、ミュージシャンとして悔いのない人生だったんじゃないかなあ、きっと。
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