
僕が最後に買った山下さんギターアレンジ版のバッハ組曲集は、
無伴奏ヴァイオリン!いやあ、これを全曲ギターにアレンジしただけでもすごいのに、全曲演奏するなんて神です。一流の人って、一流だからこういう事が出来るんじゃなくて、こういう事に挑戦して成し遂げるから一流なんでしょうね。いくらすごくても、なみなみならない決意がないとこんなの取り組めないでしょう。
すごい、スバラシイです。これは100万回言ってもいいぐらい。ソナタ2番の1楽章とか、超絶技巧と言っていいほどの妙技の連続でグイグイと進んで本当にすごいです。でも…僕は、バッハの無伴奏組曲では、無伴奏ヴァイオリンがいちばん凄いと思っているし、また一番好きで、それが問題でした。山下さんの無伴奏ヴァイオリンのギター編曲版は、パルティータ1番の2楽章ドゥーブルみたいにアルペジオで弾きまくるとか、きれいなカノンを描き出すとか、そういうところは本当にスバラシイと思うんです。ただ、「タ~ララ」みたいにメロディをつなげたい所をスラーやレガートでつながずに、「タンタタ」みたいに1音1音演奏してしまうのです。だからやけにメカニカルなバッハに聴こえてしまう所がありました。リズムもそうで、たとえばソナタ1番1楽章なんてもっとナチュラルにアゴーギクすればいいのに、なんか機械が演奏してるみたいにぎくしゃくしてました。超絶技巧バッハと言えばそう言えなくもないんですが、きれいに歌っている曲もあるので(パルティータ2番3楽章ドゥーブルとか)、これは単純に演奏プランの煮つめが足りないまま録音に入ってしまったんじゃないかと。無伴奏ヴァイオリン全曲の録音なんていう神をも恐れぬ作業に足を踏み込んだ以上は、何もかも完全に整ってから取り組むべきだたんじゃないかと。
そんなわけで、これが現時点でのバッハ無伴奏ヴァイオリンの最高峰の演奏だとは思いません。たとえば大曲シャコンヌは山田唯雄さんの演奏の方がダイナミックですごかったし、なによりブリームの演奏で凄いのも聴いた事がありますしね。テクニカルなんだけど、ギターを「歌わせる」ことに関しては、他の山下さんのバッハ無伴奏集に比べるとちょっと意識が低いのかもな、みたいな。でも、アルペジオでバリバリ突き進む曲や、カノン的な曲の演奏はさすがにいま聴いても抜群。曲ごとに聴けばこれに優る演奏があったとしても、全曲をこうして演奏しつくしたこのCDの価値はやっぱり変わらないですよね。無伴奏ヴァイオリンのギター編曲を聴くなら、何はともあれこれから聴くしかなくて、他の演奏はすべてこの演奏との比較になってくるというぐらい重要な録音と思います。
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