
これは面白かった!南米の民族音楽というと歌音楽かそれをインスト化したようなフォルクローレを聴く事がほとんどでしたが、このCDは儀礼音楽でした。国で言えばボリビアになるみたいですが、ボリビアと括るよりもアンデスの伝統音楽と把握した方が良さそう。というのは、
なんとインカ帝国時代の名残がある音楽だそうです。
まず、このCDを聴いて本当に良かったと思った事。僕は、南米の伝統音楽はフォルクローレだと思ってたんですが、実際には
アウトクトナ音楽というものがより伝統音楽に近いものなんだそうです。
フォルクローレの成立は意外と新しくて、2次大戦後の農地改革と関係して、農地の音楽の要素を取り入れた都市音楽が形作られたものなんだそうで。へえ、ユパンキなんかは30年代の録音とかあるけど、あれは後からフォルクローレって呼ばれるようになったのかな。まああれはスペインのクラシック・ギターっぽいしな。このフォルクローレの形成に決定的な役割を果たしたのがチュキサカ県の
マウロ・ヌニェスというミュージシャン。一方、ラパス市ではスイス人も加わった
ロス・ハイラスというグループが活躍して、これで現在までつながるフォルクローレのスタイルがだいたい確定したんだそうです。
でも、ボリビアの心だとか「民俗」音楽なんて呼ばれる事になった
フォルクローレですが、音楽的にはけっこう西洋音楽で、農村部にあるリアルな民俗音楽とはぜんぜん違うものだった事から、フォルクローレに対するアンチテーゼとしてアウトクトナ音楽を主張する動きが起きたんだそうです。ちなみに、フォルクローレとアウトクトナの中間ぐらいの音楽に
シクーリ(シクリアーダ)という音楽もあるそうです。
というわけで、これはフォルクローレ誕生以前からボリビアに存在していたアウトクトナ音楽を演奏するグルーポ・パクシ・カナというグループの演奏でした。リーダーはなんと日本人の杉山貴志という方で、ボリビアの伝統音楽の伝達と保存を目的に作られたグループなんだそうです。
ボリビアは国土の半分が低地平原地帯、でも人口の大半はアンデス高地か渓谷地帯なんだそうで、村ごとに音楽が違っているそうです。それをこうやって色々演奏できるのは、土着の音楽そのものではなく、それを採取して保存してる楽団だからできる技なんでしょうね。
ジャケット写真を見ると分かりますが、使われる楽器は
シーク(パンパイプ)と打楽器。大きな打楽器、音はバレルドラムそのものでした。シークはユニゾンの合奏。こうして奏でられる音楽は…印象でいうと厳かな感じで、そのゆったりした感じが仏教音楽や雅楽っぽかったです。太鼓も派手にバンバン叩くのではなく、ゆったりと「タン、タン、」みたいに叩いてました。シークも技巧的ではなくて皆でシンプルなフレーズを繰り返し合奏。そうそう、
シークはアルカとイラの2つで一対らしく、ふたりいないと旋律が完成しないんだそうです。シークを使った音楽のすべてがそうとは思えないので、この地域の音楽がそうだという事なんでしょうね。1本で旋律を吹ける楽器も作ろうと思えば作れると思うので、宗教的な意味もあるのかなあ。そうそう、楽器も乾期と雨期のものが区別されていて、シークは乾期に吹く楽器で、雨期に吹くのは不吉としてタブーなんだそうです。
このCD、フォルクローレ以前のボリビアやアンデス土着の音楽を聴く事が出来るだけでも貴重ですが、どういう音楽かを知るには説明がないと理解不能。その説明となっている
解説がものすごく学術的で細かく、ブックレットだけでも価値がある1枚だと思いました。いやあ、これは僕が娯楽で聴いてきたたくさんのレコードと違って、これ1枚で色んな事が学べる素晴らしいCDでした。ビクターのワールドミュージックチームって、いい仕事するなあ。
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