
80年代の
ロバート・フリップさんは「フリッパートロニクス」というギターとテープレコーダーを組み合わせた音楽に凝っていた事があります。演奏した音をテープに録音してループして、その上にまた演奏を重ねていく音楽で、デジタル・ディレイの登場以降は似たような事をフュージョンやアングラ・ロック系の人がイヤというほどやってますが、捉えようによっては現代音楽的でもあります。要はシステムではなく、そのシステムを使ってどういう音楽を作り出すかなんでしょうね。81年発表のロバート・フリップさんのソロ第3作『レット・ザ・パワー・フォール』は、
フリッパートロニクスのソロだけで構成したアルバムでした。
雰囲気は、ブライアン・イーノと作ったアルバム『Evening Star』みたい。フリッパートロニクスがイーノさんとのアルバムで使われていたかどうかは知りませんが、イーノさんとの共同作業の延長線上にあるのは確かじゃないかと。このアルバムは純粋にフリッパートロニクスだけで作った音楽なので、
フリップ&イーノほどの色彩感はありませんが、シンプルなだけにプレイヤーの意図が伝わりやすくて面白かったです。
ピアノには鍵盤をはなしても音が鳴り続けるダンパーペダルというのがあるんですが、クラシックを演奏してるとそのペダルを踏む指定がなくても「ここはダンパーペダルを踏んで次の音と混ぜた方がいいな」なんて感じで、ピアニストの裁量で踏んじゃう事があります。そうすると音がいっぱい混ざるのでカッコよくなるんですよ。4度も6度も9度も11度もとにかくいっぱい入ってる
ドビュッシーの曲なんかでやると効果てきめんなんですが、ヤバいのはこれをつかい過ぎると音がどれもこれも似たようになってしまうのと、不協和音を理解しとかないとヤバいという事。フリッパートロニクスがまさにこれで、ある曲では使う音を1、3、5という完全音程と9度に限定、他の曲では1、短3、5、短7に限定…つまりどうやっても不協和にならないようにしてます。そうすると、選んだ和声が持つニュアンスが曲を支配する事になり、一方で転調や和声進行を作る事は不可能になります。これがフリッパートロニクスの長所であり弱点で、
フリッパートロニクスを使った時点で、書ける曲が決定しているんですよね。このアルバムでのフリップさんは際どい音を混ぜる事を避け、しかもかなり単純な協和音を意識しているので、ひたすら心地よいアンチクライマックスなループ・ミュージックになってます。
どうせやるなら4度和声とかホールトーンとかいろんな旋法と和声に挑戦して欲しかったですが、そういう音楽的な挑戦には進まず、あくまでシンプルな基礎和声にこだわった事で、心地よい環境音楽的なトランス・ミュージックになってました。ハードでテクニカルなロバート・フリップを期待すると肩透かしを食うでしょうが、フリップ&イーノも好きだった僕には悪くないアルバム。このアルバムを聴いて、70年代末からしばらく軟弱なアルバムばかり作っていて諦めかけたフリップさんにもう少し付き合ってみてもいいのかも、と思ったのでした。若かったですね。(^^;)>。
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