
レーベルOCORAがリリースした、ポルトガルの民族音楽のCDです。アルバムタイトルに入っている
「トラズ・ブ・モンテス」というのは地域名で、ポルトガル北東部にある台地で、高く険しい峡谷によって他の地域から分かれているんだそうです。丘の折り重なるその景観は絶景らしいので、ネットでその絶景とやらを眺めて見ようと思ったら…ワインしかヒットしねえ!きっと、ぶどうが名産なんですね(^^;)。。そうそう、このCDは1978年録音で、その頃のライナーによると、「穀物と羊飼いがこの貧しい地方のわずかな資源」なんだそうで。
このCDに入ってた音楽の印象は、無伴奏で歌われる民謡、バグパイプの独奏、(牧童の笛みたいな)笛と太鼓の合奏、です。バグパイプの演奏は、まだ民族音楽を聴く前はイギリスの専売特許かと思ってたんですが、民族音楽をいろいろ聴いてると、ヨーロッパ中で演奏されてる事が判明。このCDの演奏も、僕の耳には他の地域のバグパイプ音楽との差がまったく分かりませんでした。きっと、楽器の構造が、音程を変える事が出来ないバスと、その上を泳ぐ旋律というように完成されてるから、もうこれしか出来ないんでしょうね(^^)。それだけ完成された楽器とは言えるかも。

興味があったのは、無伴奏の歌です。えっと、この曲はロマンセなのか…
えええ?!なんと現代にロマンセーロが歌い継がれているのか?!うああああすげえええ。。。
ロマンセーロというのは、ロマンセを集めたもので、ロマンセとは中世スペインの伝承民謡です。これをトルバドールとかの吟遊詩人がヨーロッパ各地に伝えていき、ヨーロッパ中のロマン主義文学に影響を与えた…みたいな。このCDだと、2,4,6,11,13,17曲目がロマンセらしいです。
無伴奏の民謡は、ルーマニアでもハンガリーでもヨーロッパの田舎の農村に行くとたいがいあって、それがまた似てるもんだから、僕には差がなかなか分からなかったりします。このCDに入ってるロマンスの中でも2曲目なんかはヨーロッパ中にある民謡との差が分かりませんでしたが、11曲目「かわいい羊飼い」なんかになると、音節が決まっていて、メロディが同じものの上行と下行を交互に繰り返し、偶数行では韻を踏んでる事が分かります。このCDに入ってるロマンセの形式は大体こうで、1行目がメロディが低い音から高い音に向かって、2行目は1行目と似たリズムやメロディラインを持ちながら、逆に低い所に戻ってくるものでした。ああ、これは覚えやすい、こうやって実質文盲だった人たちの間に、色んな物語や知恵やニュースが伝わっていったんですね。
僕、クラシックの声楽家が昔のロマンセを再現したものなら聴いた事がありましたが、こうして
現存している生きたロマンセを聴いたのははじめて…というか、現代に生き残ってるなんて思ってもみなかったです。これは感激でした。というわけで、ポルトガルの民族音楽というより、イベリア半島のトラズ・ブ・モンテス地方というところに中世から残っていたロマンセを聴いたという感慨ばかりが残ったCDでした。ああ、いいものを聴けたなあ(^^)。
スポンサーサイト