1965年に傑作アルバム『処女航海』を作っておきながら、ハンコックさんはその後にしばらくリーダー・アルバムを作りませんでした。マイルス・デイヴィスのバンドでの活動が忙しすぎたのかな?で、満を持して発表された次なるリーダー作が1968年発表の6作目『スピーク・ライク・ア・チャイルド』です。メンバーは、Herbie Hancock (p), Jerry Dodgion (alto fl), Thad Jones (flugelhorn) , Peter Phillips (bass trb), Ron Carter (b), Mickey Roker (dr)、というわけで3管セクステット。間違いなくハービー・ハンコック傑作アルバムのひとつです!
それでいて、新主流派的というか、モード通過後のモダンジャズのカッコよさ満載の「Riot」がアルバムの冒頭なんです。つまり、ムードと表現だけのジャズじゃなくて、芸術性も失ってない所がマジでかっこいい。この曲、特に3管のアレンジが見事です。ハンコックのピアノって、モード的な曲が多い割にはアプローチがスケールじゃなくて和音寄りなんですよね。だから、それでも組み立てが意外と和声アドリブ的で、これが崩れていったところでいきなりホーンセクションがカウンターラインをアンサンブルで決めてきます。いやあ、60年代ジャズの大傑作じゃないか、これは!そして、2曲目「Speak like a child」になだれ込んだ込んだ時のため息と言ったらもう…。
このアルバム、『Takin' Off』から『Maiden Voyage』まででは感じられなかったタッチを含めた演奏表現の素晴らしさを感じました。「Goobye to childhood」の演奏なんて、ビル・エヴァンスじゃないかというほどの耽美性と表現力で、マジで素晴らしい。成熟とはこのこと、演奏家としてのハービー・ハンコックのキャリアハイってこの時だったんじゃないかと思います。「Riot」、「Speak like a child」、「Goodbye to childhood」の3曲は、マジで多くの人に聴いて欲しいです。背筋のゾクゾクが止まりません。これだけの境地にたどり着いておきながら、なんでハンコックさんは「ヘッドハンターズ」なんていうガキくさい事をやっちゃったんだろう…。
真正面からモダン・ジャズをやっていた頃のハービー・ハンコックの代表作と言えば、やっぱりこれでしょう、1965年発表『処女航海』!メンバーは、Herbie Hancock (p)、Freddie Hubbard (tp)、George Coleman (ts)、Ron Carter (b)、Tony Williams (dr)。というわけで、マイルスのバンドで、トランペットだけフレディ・ハバードに差し替え。マイルス怒りそうです。 このアルバムは、処女航海がテーマとなった一種の交響詩になっていて、曲タイトルで言うと、「Maiden Vovage(処女航海)」→「The Eye Of The Hurricane(台風の目)」→「Little One」→「Survival Of The Fittest(適者生存)」→「Dolphine Dance(イルカの踊り)」みたいにアルバムは進んでいきます。…「Little One」ってなんだ?(^^;)
続く「The Eye Of The Hurricane」は、タイトルほど激しい曲ではなくて、あくまで軽快なジャズ。この時点で、標題音楽とは言えゴリゴリに標題を音で表現しているわけじゃなく、小粋なジャズとして処理してるんだな、みたいな。最後の穏やかな「Dolphine Dance」で、やっぱりハンコックさんは50年代にいたとしてもジャズ・ピアニストとして一線級で活躍できただろうと確信。それにしても、「Dolphine dance」というタイトルだけで、この曲の価値が3割増しになっている気がします。ハンコックさんて、曲のタイトルをつけるセンスがあるんですよね。「Speak like a child」とかもそうですが、メッチャいいタイトルだと思います。
このCDで一番心が動いたのは、シューベルトが生涯に一度だけ開いた自作歌曲のコンサートのために書いたという「流れの上で Auf dem strom」D943でした。このCDだと、ホ長調で演奏しているように聴こえるんですが、イントロ展開部でEコードを展開してGルートの6の和音としているところがいかにもドイツロマン派風というか、しびれました。ああ、冬木透さんがウルトラセブンの劇伴で折に触れて参考にしたロマン派風音楽はこれなんだな、みたいな(^^)。この曲にホルンの助奏がついてるのも、まさにそんな感じ。
70年代に小林まことさんが書いた漫画「1・2の三四郎」は、ずっと僕の中で小林さん最高傑作でした。以降の小林さんの作品は「I am マッコイ」も「ホワッツ・マイケル」も面白かったものの、三四郎のあの夢中になる面白さには届かず。あれがキャリアハイだったのかな…な~んて思っていたところで登場したのがこの漫画、『柔道部物語』でした。今では、小林さんの最高傑作はこれだと思っています!
「1・2の三四郎」を大ヒットさせた小林まことさんでしたが、次回作の「I am マッコイ」は、おそらくヒットまでは行きませんでした。あれだけタブーなネタが多かったら、マジョリティーになれるはずもないか(^^;)。その黒さを反省したのか、小林まことさんが得意のブラック・ジョークを封印して、女性でも楽しめそうなギャグ漫画を描いたのが、猫を題材にした「ホワッツ・マイケル」でした。これが、「1・2の三四郎」以上のヒット!これも面白かったなあ。
そういうレコーディングなので1発録りと思うんですが、やっぱり歌がうまいです!うまいといってもテクニックをひけらかす感じじゃなくて、すごく丁寧、ヴィブラートもアーティキュレーションも綺麗でピッチもいいです。そして声が美声…というか、可愛らしい。曲は「Tea for two」とか「There Will Never Be Another You」とか有名な曲だらけだし、伴奏は最小限というわけで、歌の良し悪しが丸裸で分かるんですが、これは心がこもっていて良い歌だ、聞き惚れてしまいました。ビッグバンドとかやっつけ仕事みたいなカルテットと一緒にやるより、こっちの方がぜんぜん良いじゃん。
悪くはないんだけど、残りの人生でこのレコードをもう一度聴くだけの時間があるかというとなさそうなので手放すのも致し方ないか…と思いつつ、LPで持ってるとジャケットがめっちゃいいんですよ。『sings for Johnny Smith』並みのそっけないジャケットだったら確実に手放してるんでしょうけど、う~んどうしよう。。