
音楽をやっている人には
「トリスタン和音」で有名な、ワーグナーの楽劇です。このCDは全曲入りで、全4枚、メッチャ長い(^^;)。1960年録音、演奏は
ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。お姫様のイゾルデ役はビルギット・ニルソン(sop)、英雄トリスタン役はフリッツ・ウール(tenor)、侍女ブランゲーネはレジーナ・レズニック(mezzo-sop)、従者クルヴェナールはトムクラウゼ(bari)。
この物語は、ケルト起源のトリスタン伝説というものがベースにあって、それをゴットフリート・フォン・シュトラスブルクという人が叙事詩として残し、それをワーグナー本人がこの楽劇用に台本化してました。で、この話が面白い!
(第1幕) 落ちぶれた国アイルランドのお姫様が、コーンウォールの老いた王様のもとに嫁に向かいます。迎えの船には、王の使者である英雄トリスタンが。ちなみにトリスタンはイゾルデの婚約者を討った敵でもあります。イゾルデは愛されぬ王のもとに行くなら死んだほうがましと、トリスタンに毒を飲ませ、ふたりして自害しようとします。トリスタンも毒を飲まされると承知で、王女の思いを汲んでその薬の入った酒を飲みます。しかし、王女の自害を避けたかった侍女ブランゲーネが死の薬を愛の薬と入れ替え、これでトリスタンとイゾルデは激しい恋に落ち、コーンウォールに向かう船の中でセックスに入り浸り(^^;)。
(第2幕) 媚薬がキマって、不倫しまくるトリスタンとイゾルデ。ある夜、またしてもキマりまくってセックスに入り浸るふたりでしたが、現場を王様に見つかります。矢〇真里状態ですね(^^;)。トリスタンは王国を出る事を決意、イゾルデもついていく事を決意。しかしトリスタンは王の腹心に切られて重傷。
(第3幕) 昔の居城に運ばれたトリスタンだが、重体。イゾルデの到着を待つものの、イゾルデはなかなか現れず、ようやくイゾルデが来て抱き合った時にトリスタンは絶命、イゾルデも…。遅れて、ふたりを許そうとやってきた王の前には二人の死体が。
とにかく、この話が面白くて引き込まれてしまいました。
ヤクを決めちゃってるとか不倫とか、芸能人がちょっとでも不倫すると寄ってたかって袋叩きする今の日本では上演できそうにない話ですけどね(^^;)。ロマン派って、セックスを含む愛と、死と、死後の浄化みたいなものがテーマになった話が多いです。不倫どうこうより、命をかけても良いと思うほどの愛が人生のテーマになっているところや、死による浄化というところが、ロマン派全体の共通認識なのかも。ちなみに
「トリスタンとイゾルデ」を書いている時、ワーグナー本人も激しい不倫の最中だったらしいです(^^;)。
音楽的には、冒頭の
「トリスタン和音」の登場が有名。要するに短調曲のダブルドミナントに現れる減5短7の和音の事で、この楽劇では前奏曲に出てきます。今ではジャズでもタンゴでも、ちょっと気の利いた音楽だと普通に使われるので、若い頃に聴いた時は「え?これのどこが斬新なの?」と思ったもんでした。でもいま聴くと、ワーグナーの場合はここに半音階進行が絡んでいるので面白い事になってるんだな、な~んて改めて思ったりして。そういう理論以上に、今回聴いて、人生ではじめてこの楽劇の前奏曲を素晴らしいと感じました。これ、めっちゃくちゃ素晴らしいじゃないか。。
でも、それ以上に
感動したのが、第2幕の愛しあいまくっているシーンの音楽の数々。このセックスシーンは、途中で見張っている侍女がハラハラするとか、「このままふたりで死んでもいい」という境地に達するとか、セックス中だけでも色々とドラマがあるんですが、エクスタシーを迎えるシーンと、その後に来る穏やかな曲が本当に感動的です。茶化すわけでなく、なんでロマン派の一部が愛とセックスを切り離さず重要視したのかが何となくわかる感じすらしました。個人的には、二重唱となる「おお、降り来よ」、「聴いてください、恋人よ」、美しくも官能的な「こうして私たちは死ねばよい」あたりは、激しく胸を打たれました…。
ほかには、第3幕の前奏曲も見事で、ものの数分で音楽のファンタジーの中に引き込まれてしまう素晴らしさ。ロマン派が苦手でないなら、あるいは今の洋楽の管弦楽曲が好きなようなら、絶対に心に響くと思うので、ぜひ聴いて欲しいです。ただ、こと音楽だけで言えば、第3幕は要らなかったかも…2幕のエクスタシー感が凄すぎるんでしょうね(^^)。
若いときはあんまり分かりませんでしたが、年取って人生にちょっと疲れてきたせいなのか、この生命力あふれる音楽や物語に魅了されてしまいました。聴いていて、この躍動感に尋常でない活力を与えてもらったというか。
このCD、1960年にしては録音がかなり良い…というか、この時代の録音の方が、今より音が太くて僕は好き!そして、演奏は…これが録音以上に素晴らしくて、猛烈に感動。若い頃、ほかのオケの演奏を聴いたことがあるんですが、「トリスタンとイゾルデって、こんなに素晴らしい音楽だったのか」と思わされたのは、僕にとってはこの演奏あってのものでした。
もし、ワーグナーの楽劇をひとつだけ人に薦めるとしたら、僕ならこれです。間違いなくおすすめ…なんですが、実は『トリスタンとイゾルデ』は素晴らしい演奏に恵まれた演目でして、他にもおすすめがあったりして(^^)。
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