
1968年発表、ジャズ・ギターで独特なポジションを占めている
パット・マルティーノのサード・アルバムです。編成は、ピアノのエディ・グリーンを含めたカルテット。マルティーノさんは、ピアノのバッキングをつけるとき以外は、テーマメロですら単旋律しか弾かないので、ギターとはいえ管楽器カルテットを聴いているみたいでした(^^)。
ジャケットで想像がつくように、
このへんからマルティーノさんは南アジアや西アジアの音楽が持っている精神性に傾倒していった…のかどうか知りませんが、音楽にそういう匂いが出始めます。これが音楽にとっては良い方に出ていて、
それまでのアルバムでは歌謡形式のシンプルなコード進行の上でひたすら単旋律ソロを取る「軽音楽」的な作りだったものが、このアルバムからは大きな構造を持った曲をアルバムに1曲は放り込むようになりました。 そんな傾向がもろに出たのが、13分近いアルバム冒頭曲「EAST」でした。音の印象だけで言えば、アリス・コルトレーンの音楽。マイナー属でもエオリアンではなくドリアン系のモード曲で、この独特な音階をピアノがアルペジオでバラバラと音をまき散らして、その上にギターとベースが幽玄にテーマを弾きます。途中でダブルタイムフィールしてテンポが倍になり、そしてマルティーノ18番の16分音符の連続の超絶アドリブで高揚していき…マルティーノさんはこの曲で聴き捨てていく軽音楽の域を超えたんだな(^^)。マルティーノに限らず、60年代のジャズはこういう事をやるようになったんですよね。クラシックほどではないにせよ、大衆音楽という枠からはみ出してその道を走り始めたんだと思います。
でもそういうトライは「EAST」だけで、あとはおいしいジャズでした(^^)。
アップテンポの「Close Your Eyes」や「Lazy Bird」なんて、マルティーノさんの怒涛のアドリブを聴くためだけにあるようなトラックですが、分かっていてもこの演奏がすごい。。他の曲はミディアムの「Trick」、スローバラード「Park Avenue Petite」と、アルバム全体は実にバランスが良かったです。
このアルバムの弱点をあげるとしたら、録音が悪いことです。50年代のハードバップの名盤って、マイルスの『Walkin'』にしてもなんにしても、楽器のセパレートが良くてドラムのシンバルの厚みまで聴こえてくるようなハイファイさもあって、「おお、いい音だ、すげえ!」ってものがけっこうあるじゃないですか。このアルバムもそういう50年代ジャズの録音方法の伝統を引きずってるんですが、60年代のアルバムのくせに50年代ジャズより音が悪かったです。「East」や「Lazy Bird」はピアノの音が歪んじゃってるし、「Park Avenue Petite」なんてそもそもピアノの調律がひどくてハーモニクス起こしちゃってます。まあ、リバーサイドやプレスティッジのレコードなんて、安く作って千枚売れたら次を作って…というモデルの上で作られていたんだろうから、企画も録音も雑に作られたアルバムだらけ。商品としての完璧さを求めちゃいけないんでしょうね。当時いい音でジャズを録音しようとしたレーベルなんてコロムビアぐらいでしょうし。
プレスティッジ初期のパット・マルティーノさんのアルバムは、基本は
ウェス・モンゴメリ―直系のストレートアヘッドで熱い単旋律ソロを聴かせるジャズ。で、アルバムごとに経路が違う曲想の音楽が少しだけ入っていて『East!』ではそれがスピリチャルな方向に走った時の
コルトレーンになる、という感じ。で、このスピリチャル・コルトレーンへの傾斜が以降のマルティーノさんの音楽に劇的構成を持ち込むことになったという意味で、このアルバムは大きな一歩を踏み出した作品じゃないかと。
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